第024話 刺客

「ふぅ……今日も疲れたな……」

「あ、キョウ!!」


 マテリアルギルドから出たところでコレットと出くわした。


 彼女も奉仕活動が終わったようだ。ただ、こころなしか声に弾みがあり、口角が上がっているように見える。


「嬉しそうだな? 何かあったのか?」

「うん、やっと船の修理が終わったんだよ!!」


 よくぞ聞いてくれました、とコレットが答えた。


 なるほど。それで機嫌が良さそうに見えたのか。彼女にとって船の有無は死活問題。かなり嬉しいだろうな。


「あめでとう。良かったな」

「うん、これでやっとお仕事にいけるよ!!」


 俺の言葉に、コレットは両手を体の前で握って気炎を上げた。


 ただ、とても心配だ。俺を拾った時、宙賊に襲われてあわや奴らに囚われてしまうところだった。一人で行かせるのは問題外だと思う。


「よし、コレットが宇宙に出る時は俺も一緒に行くよ」

「えぇ!? それはキョウにも、キョウに仕事を依頼してる人たちにも悪いよお……」


 慌てるように手をあたふたとさせて断ろうとするコレット。

 仕事は大事だけど、恩人の命の方がもっと大事に決まっている。


「大丈夫だ。時間を早めたり、逆に遅くしたりして調整すればいいだけだからな。俺もぜひ連れて行ってくれ」

「うーん、そこまで言うならお願いしようかな。私もハンガーの仕事はもっと早い時間帯にさせてもらうようにお願いしてきたし」

「分かった。俺もコレットが仕事が終わる時間に合わせるよ」


 指名依頼だけなら然程時間が掛からないはずだ。テンタークの世話を除けば。


 俺たちは無人タクシー乗って家に向かう。


「ん?」


 最寄りの大通りでタクシーを降りて、路地を入って家に歩いていくと、俺は複数の気配を感じた。いつの間にか辺りに人気がなくなっている。


「どうしたの?」

「後ろに隠れて」


 俺はすぐにコレットを背中に回す。道という道から人影が現れて、俺達は取り囲まれてしまった。


 全員がフード付きの外套を羽織っていて顔が見えない。ただし、平和的な雰囲気じゃない。


「あんたたちはなんなの!?」


 コレットが怪しい人影たちに叫んだ。


『ターゲットを確認』


 俺たちの正面にいる該当の人物が声を出して近づいてくる。


 その声は酷く機械的だった。それに、動くたびに駆動音のような物が聞こえる。こいつらは多分アンドロイドかそれに近い何かだ。


「お前ら、こんなことをしていいと思ってるのか!!」

『生命活動に支障がない範囲で制圧します』


 俺の声に反応することなく、手が鈍器のように変形するアンドロイドたち。これほど大規模な人数に取り囲まれるのは初めてだ。


 アンドロイドの動きは洗練されていて、この前絡んできた男とは雲泥の差がある。


「コレットは動かないでじっとしてろよ?」

「うん、分かった」


 俺はコレットに指示を出して身構える。


『執行』


 リーダーっぽいアンドロイドの言葉に従い、他のアンドロイドたちが俺にとびかかってきた。アンドロイドだけあって、動きがかなり速くて無駄がない。


 この前の暴走した警備ロボットよりも遥かにスピードがある。


「フィジカルブースト」


 しかし、身体能力を強化した俺には彼らの動きが丸見えだった。


『ガガガッ……』


 俺はアンドロイドの攻撃を躱してカウンター気味にぶん殴る。そのアンドロイドはバラバラになりながら吹っ飛んでいった。


『危険度再認定……完了しました。危険度上昇に伴い、兵器の使用を許可します』


 その様子を観察していたリーダーが呟くと、他のアンドロイドたちは俺の方に手を向けた。


「げっ」


 彼らの手が変形して銃よりも圧倒的に太い銃身が露になる。流石にその攻撃を生身で受けるのは怖い。


「シールド!!」


 俺はコレットと自分を守るように障壁を展開した。


 ――ドドドドドドドドドッ


 シールドにいくつもの銃撃が突き刺さる。俺はその全てを天井に向かって反射させた。


「どうした? こんなものか?」

『兵器の効果なし。高周波ブレードによる近接戦闘に切り替えます』


 俺の挑発を無視して、彼らは手の形を剣に変えて全員で俺に襲い掛かってきた。


『ピーガガガッ……プツンッ』

『グガガガ……プツンッ』

『ガガッ……ザァァアア……プツンッ』


 俺はシールドをコレットだけに掛けて、アンドロイドたちを破壊していく。ものの数十秒でリーダー以外のサイボーグは沈黙した。


『ターゲットの制圧は不可能と判断しました。撤退します』


 その様子を見ていたリーダーが踵を返して俺たちから離れていく。


「逃がすわけないだろ!!」


 しかし、そのくらいのスピードは、俺のフィジカルブーストのかかった速度より圧倒的に遅かった。


 俺は追いついて殴りながら下にたたきつける。


『ガガガガッ……ピーッ……ザザザァアアア……プツンッ』


 殴ったところがバラバラになり、体の八割以上が損壊したアンドロイドはその機能を停止した。


「ふぅ……一丁あがりっと」


 俺は辺りを見回して手をパンパンと叩いた。


 しっかし、こんなアンドロイドなんて一体誰が送り込んできたんだ?


 俺は疑問に思いながらコレットの許に戻った。

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