第023話 裏の顔(第三者視点)

■第三者視点


「おい」


 金髪碧眼の男がコロニータウンに続く道を歩いたまま声を発した。


「ウィル様、いかがいたしましたか?」


 黒服でサングラスをかけた男たちが背後に姿を現わす。代表で先頭を歩くリーダーが返事をした。


「あの男は何者だ?」


 黒服たちを従えるのはウィル。コレットの少し年上の幼馴染で家族ぐるみで付き合いがあった人物だ。そして、コレットの両親の賠償金を肩代わりして、彼女が返済する契約を結んだ相手でもある。


 年若くして会社を起こして成功させた若手起業家で、二十歳という若さで年間数十億ユラを稼ぎ出している。その爽やかな好青年のようなルックスと、人の良い性格から多くの人に好まれていた。


 しかし、その本性は嫉妬深く、自分の気に入らない存在を排除する人間だった。


 彼は歩きながら黒服の男たちに尋ねる。


「はっ。最近名の知れた素材屋のようです」

「他には?」


 先頭の男の返事に、ウィルはもっと詳しい情報を寄越せと目配せする。


「二週間ほど前に突如としてコレット様と共に現れ、素材屋に登録しています。素性は全て不明。渡航歴や経歴、家族構成が分かる情報はどこにも残されておりませんでした。そこからたった数日で依頼を数十件こなして、依頼人たちから高評価を得て爆発的に人気になり、今ではビギナーランクの素材屋の中でトップクラスの実績があります。そして、稼ぎはミドルランクの下位層に匹敵しています。詳細は不明ですが、どの依頼もものの数分でこなしてしまうと評判です。なおコレット様の家に下宿している模様です」

「ふーん。誰が情報を隠してるんだ? もっとよく調べさせろ」


 黒服が端末を取り出してコロニーに戻ってきてから調べた情報を読み上げた。ウィルは情報の少なさに不満げな表情をすると、リーダーに命令を下す。


「承知しました。行け」

『はっ』


 リーダーの指示を受けた黒服の男たちの何人かが列から離れていく。


「ひとまず、あの男には誰の物に手を出したのか思い知らせないといけないな」


 ウィルは暗い笑みを浮かべた。

 そして、キョウを痛めつける計画を立て始める。


「いかがいたしますか?」

「そうだな。最近開発した奴らがいたな。そいつらにやらせよう」


 リーダーの言葉に、ウィルは思いついたように答える。


「承知しました」

「ただし、ヘマはするなよ」

「分かっております」


 黒服の残り半分もウィルの後ろから姿を消した。


「くっくっくっ。せっかくあの鬱陶しい老害どもを排除してコレットを一人にしたというのに、邪魔をされてたまるか」


 ウィルは用意されていた黒塗りの車に乗った後、手で顔を覆って、堪えきれないとでもいうように、その欲望を発露させて本性を現す。


 そう。この男こそがコレットの家族を事故に見せかけて殺し、その責任を彼らに押し付けるように仕組んだ張本人だった。


 ウィルとコレットの出会いは、彼の一家がコレットの家の近くに引っ越してきた時に始まる。


 ウィル一家がコレットの家に引っ越しの挨拶をしにきた時、すでに美少女の片鱗を見せていたコレットに彼は一目惚れをした。


 ウィルの両親は薬の研究者で忙しく、家にいることが少なかった。だから自ずとコレットの家で一緒に遊ぶことが多かった二人。


 その頃から何かと世話をして過ごすうちに、ウィルはいつしかコレットを自分のものだと勘違いし始める。


 コレットが気づかないところで、彼女の人生に干渉した。


 彼女に話しかけた人間を痛めつけて二度とコレットに近寄らないようにしたり、報復に来た相手を二度と歯向かえないように叩きつぶしたり。勿論自分が主犯だと分からないようにした上で。


 しかし、コレットの家族はウィルの本性に感づき、少しずつ離れさせようとしていた。


 そのことに気付いたウィルは二人を殺害してコレットを手に入れる計画を思いつく。その才能を生かして計画を実行し、長い時を掛けて財力と権力を手に入れたウィルは、二人に不名誉を押し付けてこの世から消し去った。


 それにより、コレットはたった一人になった上に、周りからの迫害と言う窮地に立たされる。


 頼れるのは自分一人。


 そこで、ウィルはヒーローのように賠償金を肩代わりしたり、彼女の扱いが悪くならないように手を回した。彼女の弱みに付け込んで自分を信頼させて、ゆくゆくは自分の妻に迎えるために。


 その計画はある程度成功していた、キョウという男が現れるまでは。彼が現れたことで少し計画が狂ってしまった。


 その報いは受けさせなければならない。


「でも、コレットにもお仕置きが必要だよねぇ? どんな罰がいいかなぁ」


 そしてコレットの方はと言えば、自分以外の男と同棲するという、ウィルから見れば裏切り以外の何物でもない行為をしていた。


 そこでウィルは、コレットに自分が一体誰の物なのか、改めて自覚させる必要があると考える。


「あの宇宙船がなくなったら、少しは反省するかな?」


 ウィルは面白そうな声色で呟いた。


 コレットの宇宙船は、いわば両親の形見。それが失われれば、さぞ悲しむことだろう。


 車の窓から差し込んできた街の光をうけてウィルの顔が露になる。


 その顔は醜悪に歪んでいた。

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