第007話 マテリアルギルド

 事情聴取から解放された俺たち。


「素材の売却に付き合ってもらってもいい?」

「勿論だ」


 コレットは帰ってきてすぐに出入管理局に連行されてしまった。


 だから、まだ今回の習得物の売却ができていない。

 船の修理代のこともあるし、早く売却したいんだと思う。


「どこに行くんだ?」

「マテリアルギルドだよ」

「それってどんなところなんだ?」


 また聞いたことがない名称が出てきた。


「そういえば、記憶がないんだったね。私たち素材屋が所属している組合だよ。素材の買取をしたり、雑用から素材の収集依頼まで様々な依頼を斡旋したりしてくれるところ。昔からお世話になってるの」

「へぇ~、冒険者ギルドみたいだな……」


 話を聞く限り、マテリアルギルドは異世界ファンタジーに出てくる冒険者ギルドによく似た役割を果たしている組織みたいだ。


 それに、今の俺は身分を証明する証を何も持っていない。ギルドカードを身分証として使用できるのなら、登録するのは悪くない。


 それに、雑用もあるのなら俺でもできる仕事があるかもしれない。コレットと別れた後、どうやってお金稼ぐのかという問題があったんだけど、その問題は解決できそうだ。


「え? なに?」

「い、いや、なんでもない。場所は近いのか?」


 変なことを口走ったせいでコレットが首を傾げた。

 俺は慌てて話題を変える。


「うん、素材やパーツの売却を担っているから出入管理局とコロニー内の入り口のすぐそばにあるの」

「それもそっか」


 コレットの言う通り、パーツや素材の受け渡しを考えたら、この辺りにあった方が効率的だ。


「着いたよ」

「ここがマテリアルギルドか」


 俺たちがやってきたのは、出入管理局から出て通路をしばらく歩いた先にあった半透明の自動ドアのような扉の前。マテリアルギルドと書かれてある簡素な表札のような看板以外は他には見当たらない。


 頭の中で冒険者ギルドのような立派な建物があるイメージをしていたせいで、ギャップに拍子抜けしてしまった。


「いくよ」


 自動ドアを潜って中に入るコレットの後を追う。


 屋内は新築の役所のようになっていて、カウンターがいくつも並んでいた。ただ、ホログラムのようなもので案内が空中に表示されていて未来感のある設備がチラホラと見え隠れしている。


「へぇ~、中はこんな風になっているのか」


 俺は新鮮な景色にあちこち観察してしまう。


「あんまりお上りさんみたいなことはしない方がいいよ。目を付けられるから」

「そ、そうなんだ」


 すまし顔のコレットに従って。落ち着き払って歩いていく。


 なんでも、素材屋というのは、運んでくる素材によってはかなり高額な金額を稼ぐことがある。それで儲けたことが分かると、腕の立つ荒くれ者にカツアゲされることがあるみたいだ。


 気をつけよう。


「いらっしゃ……あら、コレットじゃない。おかえりなさい」

「うん、ただいま!!」


 俺たちがやってきた窓口で対応してくれたのは、赤髪のロングヘア―の美人なお姉さん。二人は顔見知りらしく仲良く挨拶を交わした。


「聞いたわよ。やらかしたんですって?」

「あはははっ……まぁね」


 お姉さんがニヤリと口端を吊り上げると、コレットは苦笑いを浮かべて頭を掻く。


「それで、今日も素材の売却でいいのかしら」

「うん、後船の修理の手配もお願い」

「分かったわ。修理費は素材の売却額から引いとくわね」

「了解。足りない分は後日清算にしてくれる?」

「大丈夫よ。当てはあるのよね?」


 慣れた様子で手続きを進める二人。お姉さんが手元のパソコンのような端末をカタカタと操作した後、顔を上げてコレットを見つめた。


「うん、なかなかお目に掛かれないものを見つけたの。あっ!!」

「どうかしたの?」


 コレットは突然何かに気付いたようにハッとする。美人のお姉さんは彼女の様子に首を捻った。


「ちょ、ちょっと待っててね。キョウ」


 コレットは焦ったようにお姉さんに断りを入れ、俺を振り返る。


「なんだ?」

「こっち来て」

「お、おう」


 コレットは俺のロープを掴んで引っ張った。俺は訳も分からないまま彼女に従ってついていく。


「それで、一体どうしたんだ?」

「えっと……」


 受付から少し離れた場所で額を突き合わせる俺たち。

 俺の質問にコレットは言い淀む。


「何か言いづらいことか?」

「あのね……多分素材だけじゃ修理費に足りないと思うの」

「うん。それで?」


 派手に爆発したからそれはなんとなく分かる。


「キョウが入っていたっていう箱があるじゃない?」

「ああ、そういえばあったな、そんな物」


 俺はその時になってようやく箱の事を思い出した。

 すっかり忘れてしまっていた。


「あれって見た目が豪華で綺麗じゃない?」

「そうだな」

「あの、その、販売させてもらえないかなって……」


 コレットは俺から目を逸らして言いづらそうに語る。


 俺にとってあの箱になんの思い入れはない。

 彼女の役に立つのならその方が良い。


「なんだ、そんなことか。勿論良いぞ?」

「あ、うん、駄目だよね。キョウの物だもん……え? いいの!?」


 予想と違った答えにコレットは目を見開いて聞き返す。

 自分が入っていた物だけに、大切なものだとでも思ったのかもしれないな。


「ああ。コレットが拾ってくれなかったら、いつまで宇宙を彷徨っていたのか分からない。それでコレットが助かるなら売ってくれ。俺を助けてくれたお礼ってことで」

「そんなの私も助けて貰ったのに……」


 俺の言葉に彼女は申し訳なさそうな顔をする。


「あのままじゃ俺も死ぬかもしれなかったんだから気にしなくていいよ。それに、こうやって色々案内してもらえるだけで凄く助かってるし」

「ホントに良いの?」

「ああ。いいよ」


 不安そうに再度尋ねるコレットに、俺は彼女の目をしっかりと見て頷いた。


「本当にありがとう!! 困ったことがあったら言ってね、何でもするから!!」


 彼女はパァっと太陽のような笑顔を輝かせて言った。

 でも、その発言はいただけないな。


「こらこら、可愛い女の子が何でもする、なんて簡単に言っちゃダメだぞ」

「も、勿論エッチなことは駄目なんだからね!!」


 俺が呆れるように言うと、コレットは顔を赤らめて叫んだ。

 そんなに大声で叫ばないでくれ。周りからの視線が痛い。


「分かってるっての!!」


 俺は彼女に言い返すように叫んだ。




 話が終わった俺たちは窓口に戻る。


「それで、大丈夫そうかしら?」

「うん、問題ないよ」

「分かったわ。素材の受け渡しに立ち会ってね」

「了解」


 返事を聞いたお姉さんは端末を操作して手続きを進めた。


「それで、そちらの方は誰かしら?」


 手続きが終わると、受付のお姉さんの視線が俺に突き刺さる。

 顔見知りの相手が変な男に付きまとわれてると思っているのかもしれない。


「あ、えっと……」

「キョウ・クロスゲートと申します。コレットには宇宙を彷徨っていたところを助けてもらいまして……」


 言い淀むコレットの代わりに、俺が丁寧に返事をした。


「そういうことね。それはご丁寧にどうも。私はアメリアよ。でも、ここでは丁寧な言葉はいらないわ。同業者にも舐められるし、止めた方がいいわよ」


 俺の態度にアメリアは目を丸くした後、忠告してくれる。

 誤解は解けたらしい。


「分かった。よろしくな」

「ええ。よろしく」

「そういえば、ギルドへの登録って簡単にできるのか?」


 俺は考えていたことを聞いてみる。


「ええ。素材屋は来るもの拒まずだからね」

「俺の登録をしてもらいたいんだけど」

「分かったわ」


 よし、俺でも登録できるらしい。

 俺はマテリアルギルドの登録手続きを始めた。

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