第006話 驚きの黒さ

「あれはガーディアンズ!?」


 声を聞いたコレットが体を震わせる。


「ガーディアンズ?」

「うん。このコロニーの秩序を守る組織なの。ハンガーでトラブルを起こしたから、絶対お叱りを受けちゃうよぉ!!」


 俺の質問に答えた後、まるでムンクの叫びのようなポーズと表情で叫ぶコレット。


「お叱りくらいなら別にいいんじゃ?」

「そんなこと言うけど、ペナルティ課されるんだからね。一ヵ月航行禁止、とか。そんなに宇宙船に乗れなかったら私生きていけないよぉ……」


 俺の疑問にコレットはガックリと肩を落とす。


「確かにそれは怖いな」


 お叱りだけで済むわけじゃなかった。


 ここに来るまでに彼女の話を少し聞いている。宇宙船のパーツや資源など販売して生計を立てているらしい。俺が入っていた箱を拾ったのも仕事をしている最中だったみたいだ。


 ペナルティでその仕事ができなかったら、彼女は収入を失って路頭に迷ってしまう。そんな彼女がガーディアンズに怯えるのも無理はない。


「早く入り口を開けなきゃ。色々話してもらなきゃいけないから一緒に来てね」

「了解」


 俺とコレットは船の入り口を開けて両手を上げて立っていた。船の外には多数の武装した集団が待っていた。


 ただ、武装と言っても勿論剣や甲冑などの異世界で見かけそうな物じゃない。地球の兵士が見つけるような胸当てやプロテクターに近い防具を身に着けている。


「あなたたちには今回の事故の件について話してもらいます。出入管理局までついてきなさい。異論はありませんね?」


 一番先頭に居た女性が俺たちに威嚇しながら述べる。


 彼女は金髪のロングヘア―を後ろで束ねて結っている碧眼の持ち主。眼鏡をかけていて出来る女性の雰囲気が全身から溢れている。


「分かりました」

「問題ありません」


 俺たちは小さな乗り物に乗せられて、入場管理局へと向かった。


「なるほど。宇宙船のパーツの回収の帰りに宙賊と遭遇してしまった。でも、宙賊たちが仲間割れを起こして逃げてこれたと」

「はい、そうです」


 支部の個室で事情聴取が行われる。


「そして、このコロニーに着艦直前に、逃げた際に負った損傷が原因で、船のスラスターが破損して操縦がきかなくなってしまったと」

「はい、そうです」

「でも、ギリギリのところで操縦が戻って止めることができたと」

「はい、そうです」


 コレットが今回のあらましについて説明すると、アナベル隊長はもう一度俺たちに今回の話を聞き返す。その質問にコレットが返事をしていく。


 魔法のことを言わないで貰った結果、物凄く偶然と運が絡み合って助かったことになってしまった。


 コレットが信じてないのに、他の人が魔法なんて信じるわけがないからな。それなら言わない方がややこしくならずに済む。


 でも……流石に怪しすぎるか?


「あなたが犯罪を犯したりしないことは、小さなころから顔見知りの私は良く知っています。よく無事でしたね」


 しかし、彼女はコレットの言い分を全面的に信じてしまった。


「運だけは良い方なので……あはははっ」

「コレットは昔からそうでしたね」


 なるほど、そういうわけか。この人とコレットは知り合いらしい。そのおかげでなんとか怪しまれずに済んだ。


 でも、知り合いならそんなにビクビクしなくてよさそうなのに。コレットはなんであんなに怯えていたんだろう。


「それで、そちらが箱に入っていたという人物ですか……」

「は、はい」


 コレットに向いていた視線が俺の方を向いたので返事をした。

 何もしていないのにオドオドしてしまう。

 

「私はガーディアンズ第三隊長アナベルと言います。以後よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、宜しくお願いします」


 アナベルさんに合わせて俺も同じように頭を下げた。


「何か覚えていることは?」

「な、名前がキョウ・クロスゲートであることくらいですかね」


 ヘタな事を言うとバレる可能性があるので多くは語らないように気を付ける。


「でも、ここのデータベースにも、キヴェト帝国のデータベースにもキョウ・クロスゲートなんて名前はないんですよね。まるで突然この世界に現れたみたいに、あなたに関する情報が一切ありません。怪しすぎるんですよね」


 もし、俺が意識を失った直後に箱に入れられてこの世界に転生したのなら、アナベル隊長が言う通り、突然転生してきたようなものだし、データベースにも情報が残っているはずがない。

 

「アルグリム連邦、もしくはヴェノムという言葉に聞き覚えは?」

「い、いいえ、全く」


 なんだその言葉は。この国の敵国か犯罪組織の名前か何かだろうか。


「キョウは悪い人じゃないと思います」

「正直な話、コレットの言う通り、私もあなたは工作員だとは思いません。怪しんでくれと言わんばかりですし。他国の工作員にしてあまりにオドオドしすぎですからね。これでは潜入する際にかなり目立ってしまいます。それでは逆効果ですからね。それを逆手に取るということもありえますが、リスクが大きすぎる」


 手を挙げて答えるコレットに、アナベル隊長も同意する。

 怪しさしかないことが逆に俺は潔白を証明してくれたらしい。

 ふぅ……助かった。


「あなたの件は私が処理しておきますので、コロニーへの入場を許可します」

「ありがとう、アナベルさん!!」

「ふふふふっ。どうしたしまして」


 アナベルさんの対応に嬉しそうに笑顔を見せるコレット。アナベルさんも釣られて笑った。

 これならコレットも罰則無しでいけるんじゃないか?


「それじゃあ、キョウにこの街を案内してあげるね!!」

「あらあら、まだ話は終わっていませんよ?」


 コレットが意気揚々とソファから立ち上がると、アナベルさんがニッコリと笑って話を続ける。


「え?」


 コレットは他に話なんてあったっけと言いたげな表情をした。


「あなたの罰則についてです」

「え、それは無罪放免ということになったのでは!?」


 このままコロニーの中に入れると思いきや、そうは問屋が卸さないみたいだ。


「そんなわけないでしょう。幸い被害に遭った船はなかったとはいえ、あなたのおかげでハンガーがかなり混乱しましたからね。あなたには一カ月の宇宙船の航行禁止……は厳しいでしょうから、ハンガーで一カ月間のお手伝いをしてもらいます」

「そんなぁ~!!」


 言い渡された沙汰にコレットはまるで捨てられて子猫のように目を潤ませる。


 なるほど。コレットがビクビクしていたのはこれか。身内だとしても甘やかしたりしない人だったわけだ。


「宇宙船の航行禁止にしなかっただけありがたいと思いなさい」

「はぁい……」


 同情を誘う仕草にも何の効果はなく、コレットはガックリと肩を落とした。


「それじゃあ、もう帰っていいですよ」

「俺にできることは手伝うからさ。元気出せって」

「ありがと。行こっ」


 俺たちはようやく事情聴取から解放された。

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