カンスト賢者、宇宙船(ふね)を買う~やり込んだVRMMORPGのアバターとして目覚めたのに、なぜか転生先がSFゲームだった件~

ミポリオン

第000話 プロローグ(別視点)

◆???視点◆


 いくつもの大きな岩。破壊された宇宙船の破片。


 それらが真っ黒で、無数の光点が散らばる空間を漂っている。その光点と靄が暗闇の世界を照らしていた。


 私はいつものように宇宙船同士の戦いの跡にやってきていた。その理由は、打ち捨てられた宇宙船などのパーツを回収するため。


 高いパーツは、戦いに参加していた傭兵たちにほとんど回収されている。でも、彼らは大型の宇宙船なんて持っていないし、再び戻ってくるほど勤勉ではないので、売れるパーツが残っていることが多い。


 私はそういう残されたパーツを集めたり、価値のある素材を集めたりして日々の糧を得ている。そういう仕事をしている人間は素材屋と呼ばれていた。


「やった!! 今日は大量だね♪」


 最近はあまり手に入らなかったけど、今日は良い素材を沢山集めることができた。


 今日はAI占いの運勢が良かったし、ツイてるのかもしれない。そろそろいい時間だし、コロニーに帰ろう。


「ん? なんだろう?」


 しかしその時、正面で光が反射して何かがキラリと光った。私は気になってパネルを操作し、その光の源をモニターで拡大表示させる。


「わぁ~、凄く綺麗!!」


 それは長方形の箱だった。この辺りでは見かけたことのない複雑な文様が描かれていて、おとぎ話のような独特な文化を感じさせる。


 私は吸い寄せられるようにその箱に近づいていった。


 誰かに奪われる前に宇宙対応型のパワードスーツを着て、箱を慎重に船内に取り込む。倉庫だと破損する可能性があるので、船内の物置に固定した。


 直接見たその箱は、アンティークのような気品と豪華さを纏っている。


「絶対高く売れるよね……」


 好事家が見れば、絶対に欲しがりそうな見た目をしている。

 これが売れれば、抱えている借金を返せるかもしれない……。


 思わぬ幸運に私の体がぶるりと震えた。


「すぐに売りに出す手続きをしなきゃ!!」


 私は逸る気持ちを抑え、船を操作してコロニーに進路を向ける。しかし、私の運はそこで尽きてしまっていた。


 ――ツーツー


 いきなり船籍不明の宇宙船から強制通信が送られてきた。強制通信はその名の通り拒否することができない。セキュリティ装置が高性能なら話は別だけど、私の船にそんな高価な物は積まれていなかった。


『おっと、ちょっと若いが上玉だな。綺麗なお嬢さん。こんにちは』

「え、えっと……どちら様ですか?」


 こちらが通信を開かなくても、勝手に空中に半透明のディスプレイが出現して人が映し出される。その人物は悪人面で粗暴さが顔に表れている男だった。


 今の状況は耳にたこができるほど聞かされてきた話と酷似していた。私はこの通信の相手が誰なのかをよく知っている。


『俺はご同業だよ。調子はどうだい?』


 私の質問に男はニヤニヤした笑みを浮かべて返事をする。


 その答えは真っ赤な嘘。こいつは交易船や輸送船を襲い、船そのものから人員まで全てを略奪する宇宙海賊、通称宙賊と呼ばれる存在だ。


 警備隊との戦闘でこの辺りの宙賊は殲滅されたばかり。だからこそ、この宙域を選んで仕事をしていたはずなのに、こんなところで宙賊に出逢ってしまうなんてツイてない……。


 今日の運勢は良かったはずなのに……。


「そ、そうだね。ぼちぼちかな」

『そうかい? 俺は全然駄目だったんだ。恵んでくれよ』


 口元をヒクつかせながら返事をすると、宙賊は嘲笑うかのような態度で言った。

 私の反応を楽しんでいるの分かる。


「え、遠慮したいかな、なんて……あははは……」

『はーっはっはぁっ。それじゃあ勝手にいただくとするよ。あんた自身も含めてな。せいぜい楽しませてくれよ?』


 私が乾いた笑みで拒絶するも、男は舌なめずりをしてニヤリと口角を吊り上げた。


『所属不明艦にターゲットロックされました』


 それと同時に船のサポートAIの声が聞こえる。

 つまり、宙賊の船の武装から標準を合わされたということだ。


「いやぁああああああああああああっ!!」


 私は全速力で船を飛ばし、宙賊から逃げだした。船の後部を捉えるカメラの映像が空中に表示され、宙賊の宇宙船が映し出された。


『ひゃーっはっはっ!! 逃げろ逃げろ!!』


 通信に映しだされた宙賊が、肉食獣のように顔を歪ませる。宙賊の船から光線が放たれ、私の船のすぐ傍を通り過ぎていった。


 レーザーはそこまで命中率は高くない。でも、だからといって全く当たらないわけじゃない。


 ――ドォオオオオオンッ


 何度も撃たれるレーザーの内の一発が、私の船のシールドに衝突して爆発する。その衝撃が伝わり、ガタガタと船を揺らした。


 シールドは、外部からの攻撃を防ぐ膜を船の周りに張られているけど、エネルギーには限りがあって、攻撃を受ける度にエネルギーが大きく消費される。


『シールドに被弾。エネルギー残量七十%』


 サポートAIがシールドのエネルギー残量を告げる。私の船は年代物の民間用の小型船。積んでいるシールド発生装置も古くて性能が悪い。そう何度も防ぐことはできそうになかった。


「……たった一発でエネルギーが三十%も減った……でもキヴェト帝国の宇宙警備隊の巡回航路まであともう少し。そこまで逃げられれば……」


 でも、希望はある。ここはキヴェト帝国の支配領域の一つのメディチ星系。


 星系の治安を維持するために駐屯軍が近くを巡回している。そこまで辿り着ければ逃げ切れるはず。


 私は的を絞らせないように上下左右に揺らぎを付けながら逃げた。


 だけど、更なる不幸が私を襲う。


 突然二隻の所属名の宇宙船が宙賊戦の近くに姿を現わした。ワープしてきたらしい。多分私を追ってきている宙賊が呼んだ仲間だ。


『よう、兄弟。こいつが今日の獲物かい?』

『じゅるっ。なかなか可愛いじゃねぇか』

『おう、待ってたぜ。兄弟』


 その答えを示すように通信用のホログラムのウィンドウが二つ開く。新たに表れた奴らは、私を襲っている男と仲良さそうに話始めた。


 それは、敵がさらに二隻増えたことを示していた。


『それじゃあ、お宝ゲットと行きますか!』

『『おう!!』』


 三人は息を合わせて私の船に襲い掛かってくる。


「来ないでよっ」


 私は三隻の宇宙船の攻撃に晒されながらも、必死に躱しながら船を飛ばした。


「きゃあああああああああっ!?」


 しかし、私の宇宙船はオンボロの小型船で、敵の船は古くても戦闘艦が三隻。勝ち目はなかった。


 宙賊からのレーザーの雨から逃れる術はなく、何度も被弾してしまう。


 大きな揺れが船内を襲った。


『エネルギー残量零%。シールドが消失しました』


 そして、シールドのエネルギーが底をついてしまった。


『ほらほら、守る物がなくなっちゃったぞ?』

『もう、諦めたらどうだ?』

『優しくしてやるから安心しろって』


 それでも必死に逃げようとする私に、宙賊たちが舌なめずりしながら語り掛ける。


 次の攻撃をまともに受けたら、私の船は大きなダメージを受ける。そうなったら、奴らに捕まって慰み者になるか、奴隷として売り払われてしまうに違いない。


「お願い……誰か助けて……」


 誰も助けてくれないと分かっていながらも、私はそう願う他なかった。

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