第001話 チートキャラ転生だと喜んだら外は宇宙
「ってぇ!?」
俺は激しい痛みと振動で目を覚ます。
ここはどこだ?
今何時だ?
仕事は?
同時に複数の疑問が頭を
「閉じ込められてる!?」
手探りで周りを調べて分かったのは、俺は狭い閉鎖空間にいるということ。しかも、どこの壁を押しても全くびくともせず、外に出られそうにない。
俺こと
くそっ!? 何がどうなっているんだ!?
「おーい!! 誰か!! 誰かいませんか!!」
壁を叩きながら助けを請うが、外から誰かがやってくる気配はない。
「出してください!! こんなことをしていいと思ってるんですか!! 警察を呼びますよ!!」
『対象キョウ・クロスゲートの覚醒を確認。ロックを解除します』
それでもなお叩き続けていたら、突然耳元で中性的な人の声が聞こえた。
プシューッと気体が抜けるような音がして光が差し込み、目の前の壁がゆっくりと開いていく。その先にあったのは屋内の天井らしき光景だった。
ひとまず体を起こして周囲を見回す。
どうやら俺は助かったらしい。
「どこだよ、ここは……」
外は見覚えのない部屋。周囲には何やら頑丈そうな箱がいくつも積まれていて、物置を想像させる。
俺が入っていた箱は物置の一番奥に置かれていた。内部は棺のようになっているが、外側は美しい装飾が施されている。いかにも大事な物が入っていそうな雰囲気だ。
それにしても、誰かが俺を閉じ込めたにしては見張りがいないのが気になるし、こんな場所に放置するのも不可思議だ。これはどういう状況なんだ?
疑問が募る。
「ん、あれは窓か?」
俺はすぐ近くの壁に小さな窪みを見つけた。状況を把握するため、棺から這いだしてそこに近づくと、外の景色が俺の瞳に飛び込んでくる。
「へ?」
俺は無意識に素っ頓狂な声をあげてしまった。
なぜなら、眼前の暗闇に惑星や巨大な岩としか思えない物体が無数に浮かんでいたからだ。こんな空間は一つしかないだろう。外はどう見ても宇宙だった。
あまりに信じられない光景に、おもむろに頬をつねってみる。
「痛っ……」
ジンジンとした痛みが走る。目の前の光景は夢じゃなさそうだ。ということは、俺は今、宇宙にある何かにいるってことか?
情報を得れば得るほど、謎が深まるばかりだ。
「え、誰だよ、これ!?」
外の光景に呆然としていた俺だけど、ふと窓に映る顔に焦点が定まった。
銀髪に青い瞳の青年の顔。その上、日本人顔ではなく、まるでアニメにでも出てきそうな整った容姿をしていた。
自分の顔を両手でむにむにと触ると、感触もあるし、目の前に浮かんでいる顔も同じように歪んでいた。つまり、これは俺の顔ということだ。
そのまま自分の体に視線を下ろす。俺は白を基調とした質の良いローブを羽織り、その下にカーキのジャケットと白シャツ、そしてカーキ色のズボンを身に着けていた。
「これってまさか……キョウか?」
少し落ち着いてくると、その顔と装備に見覚えがあるの思い出す。
俺がやり込んでいたオンラインゲームのアバターであるキョウ・クロスゲートにそっくりだった。先ほど箱の中で聞いた音声もその名を発していたことからも、その可能性が高い。
そのゲームとは「ダイバースストーリーズオンライン」。通称「DSO」と呼ばれているフルダイブ型のVRMMORPGだ。
DSOは豊富なジョブと鮮明な仮想世界が売りのファンタジーRPGで、世界に数千万人のユーザーが居ると言われている。現実の再現度が他のライバルゲームの追随を許さず、もうかれこれ十年以上サービスが続いている超人気オンラインゲームだ。
俺はそのゲームをクローズドのβテストの時から今までずっとやり続けてきた。
キョウは、DSOでずっと使い続けてきたメインアカウントの、もはや俺の半身と言ってもいいほどのアバターの名前だった。
もしかしてゲーム内に転生したのか?
それは俺にとって願ってもないことだ。いつもDSOの世界が現実だったらいいのに、と思っていた。
でも俺がやっていたのは、ファンタジーな異世界を舞台にしたゲーム。こんな宇宙みたいなエリアはなかったはずだ……訳が分からない……。
俺は記憶を探る。
昨日は大学の後でいつものようにDSOをプレイしようと思っていた。でも、家に着いてからの記憶が思い出せない……。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
俺の思考を遮るように再び酷い揺れが襲い掛かった。
宇宙にある建造物が揺れるだなんて何か起こっているに違いない。
俺は情報を求めて物置の入り口に近づいた。
自動的に扉が横に開く。地球の自動ドアよりも圧倒的に反応が早く、滑らかな動きだ。ほとんど遅れを感じない。そういうところに技術力のが高さが窺えた。
幸いロックは掛かっていなかった。
扉の外はシンプルで統一感のある造りになっていて、白寄りの灰色っぽい壁に手すりがついている。まるで新築の病院のようだ。
「ぐぉおおおおおおっ!?」
突然、車でカーブを曲がる時に感じる慣性みたいな力で壁に叩きつけられる。体に物凄い重力が掛かっていた。
これだけ激しい動きとなると、高速で移動している物体の内部だと考えるのが自然だ。もしかしたら宇宙船かもしれない。それならどこかに操縦している人がいるはず。少なくともコックピットに一人はいると思う。
俺は乗組員を探しながらコックピットを目指す。
酷い揺れと重力に耐えながら各部屋を回ったけど、人らしい人は見当たらなかった。残っているのはコックピットに続いていそうな扉だけ。
俺はその扉に近づいた。
「お願い……誰か助けて……」
扉が開くと同時に、女の子の真に迫った祈りが耳朶を打つ。
俺は理解が追いつかず、困惑してしまった。
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