25【ミキ視点】

震えながらこの状態に困惑している私にサトルさんは優しくキスをしてきた。そしてその事が益々私を混乱させていた。


「ミキ、ちょっと苦しいかもしれないけど・・・大丈夫、ボクを信じて。少しの間だけ、耐えて欲しい・・・そうすれば、すぐ・・・すぐ、良くなるはずだからね。」


鎖で繋がれている手首は動揺して激しく動いた事で擦れて皮が剥けてしまったのだろう。ジンジンとした鈍い痛みが伴っていた。


全裸で繋がれている私の身体は客観的にどれだけ滑稽に見えるんだろう。そしてこれに興奮しているのだとしたら、サトルさんの感覚は私には理解出来ないと思った。でも別に理解出来ないとしても否定する気持ちにもなれなかった。


身動きのとれない私はそばから聞こえてくるサトルさんの冷静な声に耳を傾け、それに従うしかなかった。これから何が起きるのかなんて全然想像出来なかった。


だからサトルさんの唇が私の首元に来た時は本当にびっくりしたんだ。


ああ、今からまた、抱かれるんだ・・・。


不安しか無い中でも少しの間だけ耐えて欲しいと言ったサトルさんの言葉が耳に残っている自分がいた。このままじっと耐えていればサトルさんが辿り着きたい場所に辿り着けるのだろう。


真っ直ぐにそう思っていた私はそれが自分の死に直結しているとは夢にも思っていなかった。


繋がれている痛みと愛撫されている両極端な刺激が私の中を猟奇的に駆け巡る中で、サトルさんは私に優しく問いかけた。


「ミキ・・・少しだけ上半身を浮かせるかい?」


疑うなんてなかった。私はサトルさんに言われるがままに上半身を少しだけ上げたんだ。


そして身体を動かした瞬間、サトルさんの熱いモノがわたしの中に鋭く入ってきて私は仰け反った。


ねぇ、サトルさん。


サトルさんには今、どんな世界が見えていますか?


何もかも持っているであろう貴方が何処かいつも寂しそうに見えるのは一体なんでなの?


貴方が抱えているものを私に見せてくれる日はいつか来るんでしょうか?そしてもしその景色を見れたら、私は何を思うのかな?


ローズの香りが私の全身を包み込み、頭も身体もサトルさんの事でいっぱいになったその時だった。


喉に激しい痛みと圧迫感が来たかと思うと同時にすぐに呼吸が出来なくなった。私は必死でサトルさんに呼びかけた。


「サ、サトルさっ・・ヤメッ・・コッ・・ゴフォォッ・・・・・」


な、なんで?なんでサトルさんがこんな事を?


苦しい。


痛い。


止めてほしい。


嘘。


嘘だ。


その手を解いて。


優しく髪を撫でて。


痛みと苦しみの中、私はやっとさっきの言葉の意味を理解した。


私がこの人の瞳の奥に感じたものはこれだったのか。


悲しかった。


悔しかった。


今、自分が殺されているとわかっても、貴方を嫌いになれない自分がいる事が。


だって私の頭の中にいるのは、昨日の優しくて妖艶でカッコイイ、貴方の残像だけなんだもの。


なんで・・・なんで好きになった人が、殺人鬼なの?


徐々に身体に力が入らなくなり、意識が朦朧とする中私は思った。


お母さん、お母さん。私、死んじゃう。ごめんなさい。ごめんなさい。せっかく大切に育ててくれたのに。私はお母さんの思う通りに何一つ生きてあげられなかった。いつも思ってたのに、伝えられなかったの。いつか、いつか、伝えられるだろうって思ってたから。 


暗闇に包まれた瞳から大量の涙が溢れ出した。


お母さん・・・おかあ・・さん・・産んでくれて・・・あり・・がとう・・・







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