17【ミキ視点】

今日は待ちに待ったデートの日。もうすぐサトルさんに会える。そう思うだけで胸が苦しくなった。


新調した春らしいピンクのニットは今までの自分だったら絶対に触れていなかった色だ。サトルさんの隣にいて少しでも違和感の無い女性になりたい。あのキラキラしたオーラの中にふさわしい色味はいつも手に取りがちなグレーや黒ではないだろう。トルソーが着ているものなんて今まで気にした事無かったのに私にとっては派手目なそのニットに迷わず手を伸ばした。


変じゃないかな・・・家の鏡の前で何度もくるくる回った。でも、これしかない訳だし少なくともいつもよりはましなはず!そうやってなんとか自分を鼓舞し誤魔化しながら待ち合わせ場所へ向かった。


道路で待っていると遠くからサトルさんの車が走ってくるのが見えた。


ああ、本当に来てくれたんだ。


トクン、トクンと胸の鼓動が聞こえるのを感じたままサトルさんの車はあっという間に自分の前に止まった。


「こんにちは。」


「こんにちは。今日も可愛い服着てるんだね!とても似合っているよ!」


「あ、ありがとうございます!」


サトルさんは不思議なくらい私が欲しかった言葉を沢山くれる人だった。人の心の中が読めるのかな?なんてこの時は思ったりもしていた。私は嬉しくて顔が真っ赤になりながらもサトルさんの車に乗り込み映画館へと向かった。


週末の映画館はかなり混んでいて家族連れや恋人同士で来ている人も多かった。


サトルさんはカッコよくて目立つから人混みの中でもすれ違い様にチラッと見られ、視線を感じる事が多かった。当の本人は全く気にしてなかったけど周りの人達からみたら・・・私とサトルさんは恋人同士に見えるのかな?


サトルさんが近距離に座っている。そう思うだけで正直映画どころでは無く、恋愛映画の内容は全く入って来なかった。視線を感じて振り向いた先にいるサトルさんの笑顔に翻弄されながら夢心地で上映時間を過ごしたんだ。


それから美味しいイタリアンでご馳走になりそろそろ食べ終わる、その時だった。


「ミキ、この後どうする?」


この後どうするの意味は・・・一つしか思い当たらなかった。


「明日も休みだよね?よかったらボクの家に来ないかい?」


「あ・・・えっと・・・。」


「抵抗あるようだったらミキの家まで送って行くし。」


断る理由なんて無い。わかっていても頭をよぎるのはまた自分が傷つくんじゃないかって事だった。サトルさんに限って身体目当てなんて事は無いだろうけど・・・ましてや私なんか・・・。


本当はもっと一つ一つ、関係を上書きしてお互いを知っていくのが恋愛だったのかもしれない。


でも恋愛から遠のき過ぎて経験もあまり無い私は目の前の綺麗なサトルさんという存在に負けた。


この後、身体も心もボロボロになって記憶が途絶えるとも知らずに。

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