その先には急勾配の坂とカーブが待ち構えていた。


このままスピードを抑える事が出来なければ絶対に曲がりきれずガードレールに突っ込む事になるだろう。突っ込んで止まればまだいいがその先は崖だ。そのまま車ごと転がって崖から転落する可能性だってある。


小さい頃から何度も通った道だ。口には出さなくても家族全員がこの先待ち受ける恐怖については理解していた。


「・・・もう、ぶつかるのはしょうがないとしてもなんとか少しでも安全にぶつかれる場所はないのかな?」


姉さんが意を決したように皆に話しかけた。


「そ、そうだな・・・あの急な坂に突っ込んで行くよりは・・・少し先のカーブには大きな木が沢山生えてるはずだ。あの場所なら車がぶつかっても止まる事が出来るはず。命は助かるだろう。」


「あなた・・・。」


「大丈夫だ。サトル、上手く止めてくれ。お前にかかっているぞ。衝撃に備えてシートベルトは出来るだけきつく締めるんだ。」


本当はもっと色んなやりとりがあったのかもしれないけど病院のベッドの上で目覚めたボクが覚えている会話はこの断片的なシーンだけだった。


止める事が出来ない車に迫り来る新緑の大木達。


ああ、どうか無事に止まってくれ!


ぶつかるという瞬間、ボクは怖くて目を閉じた。


ーーーバゴオッッ!!!


聞いた事がない破壊音と共に身体が宙に浮き、感じた事のない衝撃に襲われた。


ガードレールを突き抜け大木に突進した車は思いの外大きく凹んだ。今考えると下り坂ではあったし、体感よりスピードが出ていた事も関係したのかもしれない。


ぶつかってからどれくらいの時間が経っていたんだろう。鈍い痛みを感じて目が覚めた時にはそこには悲惨な光景が広がっていた。


ボクはハンドルにもたれかかって助手席を向くようにして倒れていたんだけどまず最初に目にしたのは頭から血を流しながら意識なく倒れている姉さんの姿だった。


「姉さんっっ!大丈夫!?しっかりして!!」


ボクが動く事で割れたフロントガラスが身体から舞って嫌な音がした。血だらけになった自分の手で姉さんの身体を揺らしたけど起きる事は無かった。恐る恐る首筋に手を添え、脈を確認する。


・・・・・良かった、まだ息はしてる!


そう確認した後、後部座席に座っていた父と母の様子を確認した。


「父さんっ!母さんっ!」


ぶつかった衝撃でひしゃげた車と作動したエアバッグによりハンドルと座席に強く挟まれていてぐるっと後部座席の方を見る事は出来なかった。それに身体を曲げるとあばらに痛みが走った・・・ああ、これは折れているのかもしれない。


それでも我慢して限界まで身体をひねり父さんと母さんの姿を確認した。


二人共衝撃で失神しているようだった。バックミラーを見ると母さんの表情だけが見えた。姉さんみたいに頭からは出血してないみたいだ。前からぶつかったからか小さい擦り傷はしているもののボクや姉さんよりは軽症のように見えた。


良かった。とりあえず今のところ全員無事だ。しかし、ここは車通りが少ない山の中だ。このように事故っても自分達で通報しなければ救急車などは来てくれない。えっとスマホは・・・。


スマホホルダーに取り付けていたはずのスマホはそこには無かった。ぶつかった際にどこかに飛ばされたのだろう。


動きが制限された状態でボクは下の方を探し始めた。そしてその時だった。


ーーーグラッ。


急に酷い目眩に襲われた。確かに今見た感じ四人の中で一番出血しているのは恐らくボクだろう。血を流しすぎたのかもしれない。まずいな・・・こんな時に・・・ボクがここで倒れたら誰が救急車を呼ぶんだ。皆気絶していていつ起きるかわからない。ボクが・・・ボクがなんとかしないと・・・。


想いとは裏腹にどんどん重くなってくる瞼に打ち勝つ事は出来ず、ボクはそのまま意識を失った。



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