指輪製作その2

指輪の作製、それを進めるに至って最初に始めたのは指輪と龍の眼の接続だ。

サルバ曰く台座が存在しない指輪だが宝石を置く場所というのは作成者の中で想定されているとの事で、まずはその場所を探すところからである。具体的な場所の感覚としては、数mm単位だが窪みあるいは湾曲しているらしくその付近への設置がベストとのこと。


という事で触りながら探していくんだが、全く分からん。指を当てながらスーッと動かしているんだが、窪みやら湾曲というのは全く感じ取れない。光に当てながら指輪をクルクルと回して動かして探すのだが、それらしき場所は中々見つからない。

どうしても見つからない時はなんとなくでも大丈夫との事だが、グレイスに贈る物だから相応に力を込めて作りたいと思うのでもう少し粘ってみる。

………………見つからんな、仕方ない己の直感に従って置いてみることにしよう。


「此処で、どうだ?」

「ふむ………よろしいかと思われます」

「そうか?」

「はい。龍の眼は大きさが従来の指輪用とは違いますので、実際に置いてみた時の違和感の様なものを感じると思うのですが...置く場所を少しズラしほんの少し傾けた状態での固定、それにズラしも強引にズラした訳ではなく自然な形でズレていますので指輪との調和が取れております」

「そ、そうか。お前がそういうのならば問題ないのだろうな」

「はい。それで、次は何を致しますか?」

「繋ぎ合う手を作ろうと思う、これを使って」

「…ほう、ホワイトサファイアですか。この大きさでこの純度の物は国宝レベルの代物ですね」

「そうか」


まぁ、そんなことはどうでもいいので削り出していこう。サルバが削り出しの道具を持って来ようとしてくれたが、魔法で行うので断りの言葉を伝えてサルバを止める。

まずは大き過ぎるので大胆にカットしていく。30cmぐらいだった筈なので、取り敢えず三分割にしてそこから繋ぎ合わせた手を削り出していく。

当初の予定では二つの腕を削り出して、それを握り合わせようと思ったが、宝石に魔法を掛けてもそれだけの負荷が掛かればその内壊れるだろうという見解が俺の中であったので、繋いだ状態の手を削り出す。


形としては指を絡め合った状態で握っている手、簡単に言ってしまえば先日グレイスとのデートでの手繋ぎを再現しようと思っている。

龍の眼に重ねて分割した物をさらに調整して削り落としていく。手はあくまでも準主役であり、目立たずそれでいて地味ではないそんなイメージで削り出す。

指と指が絡み合う部分から手の甲まではあえて粗く削りゴツゴツとした感じを残していく。その状態で爪に当たる部分を削り出しそこから指、手の甲と削り出して明確な形を作っていく。

………んーー、地味だな。ただ繋いだ手というのは実際に削り出すと此処まで地味だったか。んーー、よし龍鱗を彫ってみるか。形式としては龍体になったときの腕をイメージして、俺のは粗方想像埋めることになるがそれは仕方ない。元々が龍ではないのだし。

えーーっと、爪の鋭さの方向性を綺麗な鋭さではなくて力強さを感じられる様な鋭さにして、鱗はある程度綺麗に彫りつつ部分部分を少しだけ粗雑に削り出したゴツゴツ感を損なわない様にしよう。


「…………一旦確認してみてくれ」

「かしこまりました、失礼致します」


まだ表の面だけだが削り出せたので、それをサルバに確認してもらう。修正点や調整点あれば報告してもらい、即座に修正及び調整を行う。

サルバが確認している間に、俺は追加する細工に用いる宝石の選別をしておく。オニキスは取り敢えず大きめの物を用意しておくことにして問題は翡翠。一度溶かしてその溶かした状態で鱗を再現していくことになるんだが、単純に溶けた翡翠を使ってしまえば碌な結果にならないのは知っているので、翡翠と鱗の細工を行うオニキスに一手間を加える必要がある。


翡翠に糸状化と固定化と限定的干渉、オニキスに状態維持と自己修復と限定的干渉である。

どれも文字通りだが、限定的干渉にはそれぞれ一つだけを条件にしてそれ以外の干渉を行えない様に尚且つ行われない様にする。翡翠にはオニキスへの固定化、オニキスには翡翠の固定化の受け入れだけだ。

そうすることで溶かしされて熱を持った翡翠の熱をオニキスが受け入れない事で融解する事がないまま翡翠の固定化を受け入れる事ができる様になる。

その一手間をする必要があるのだが、それをやるのならば加工する時でないと削り出したり溶かしたりする事で一緒に削げ落ちてしまう。


「……ふぅ、終わりました」

「どうだ?」

「まず、意図的に削り出した石の感じを残したのは素晴らしいと思います。さらによく見ればわかる様に鱗を彫ったのもとても素晴らしい。

ただ指先と指の根本に注目して欲しいのですが、繋ぎ合わせているという事が重視されてしまい真っ直ぐではありません。指の感覚をもう数mm程度それぞれ左右にズラした方がよろしいですね。あと爪の付け根がズレているのでそこも修正が必要かと」

「なるほど..あぁ本当だな、外れている」


サルバに言われた部分を見てみれば確かに少し、削り出した部分にズレていて指として見るならば違和感を薄らと感じるズレがあった。

そこを注視しながら修繕と転換の魔法を使いながら直していく。修繕で削り出した指先を元に戻して爪のズレと龍鱗の修正、転換で指の根本をズラしてズラした後の残骸を削り直して違和感のない様にしていく。

カリカリと徐々に修正を進めて行き、俺の視認では修正が済んだと思いサルバに渡すと問題ないという回答が返ってくるので裏側を進めていく。

その前に表側の削り出して彫った部分全体に状態保護と不干渉の魔法を三重に掛けておく。万が一ミスをして再修正が必要にならない様に最大限の警戒をする。

裏側は丁寧に、削り出したゴツゴツ感を出さない様にする。グレイスの肌に当たる部分だし、龍の眼と繋げるのならばゴツゴツ感を残すのは邪魔でしかない。

取り敢えずサッと余剰部分を削り落として、荒削りの部分を整えていく。裏と表の境界線は滑らかに尚且つゴツゴツ感を残しながら整えていく。


境界線と余剰部分を整え終わったら、裏側の本作業に手を入れていく。表側から繋がりを何度も確認しながら削り出し、地道に調節していく。

パッと見た瞬間には繋ぎ合わせた手であると理解出来るように丁寧に、薄らと手の筋肉の感覚や関節、骨の雰囲気を出していく。削り終えたらそのまま龍鱗を削り出した手に彫っていく。どちらがどちらなのかしっかりと確認しながら丁寧にそして着実に。


「どうだ? 良い感じじゃないか?」

「おぉ、これは素晴らしいですね。確認致します」

「あぁ、頼む」


サルバが見ている間に俺は龍の眼の加工の準備をしておく。魔法が通らない特性のせいで魔法による加工は出来ないのだが、その実許容値以上の魔法を注ぎ込まれれば魔法による加工を通せる。とはいえ流石にこんなところでそれだけの魔法を注ぎ込む訳にはいかないので、もう一つの手段を利用することにする。


まぁ、ただ呪いを注ぎ込むだけなんだが。

龍の眼の特性は熱変化に強くて魔法を通さないというだけであり、呪いを避ける特性というのは全くと言って良いほどない。殆どの宝石が基本的に呪いを弾く特性を持っているのにだ。

ということでその特性、というか特徴だな。呪いを通しやすいという特徴を利用して、魔法を通さないという特性を内側から塗り潰すことによって魔法による加工が出来るようになる。それを実行するためにまずは呪いを龍の眼の中に注ぎ込んでいく。

なお注意点として、注ぎ込み過ぎると許容し切れずに内側から弾け飛んでしまうという事だ。


「よろしいかと、修正する様な部分も見当たりませんでした」

「そうか、それじゃあ配置するぞ」

「はい」


そこまで気合を入れる必要もないがな。

俺の想定通りに仕込みが進んでいるのならば...よし、無事にしっかりと固定されたな。

次は……手首の装飾を仕上げて、オニキスを伸ばしていく作業だな。さぁ、気張っていくぞ。

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