指輪作製

「これと、これと、これだな。

太さも色合いも濁り方も全て丁度いい」

「……中々の目利き、ですね」

「そうなのか? なんとなく、意図的にこうしている気がした物を選んだんだが...良い物なのか?」

「はい、滅多に作品を売り出さないドワーフの工芸家のアルテサニアが作った指輪です。極限的に自然で全体像で見た時は目立たず、単体で見た時もあまり価値を見出させず、身に着ける人と重ねた宝石で調和を取れた瞬間に究極に近い美しさを発揮する。

そんな想いが込められた作品であるとこれらを受け取った時に本人から教えていただきました」

「ほう...これは銀だけではないな? 白金に鉄、それからほんの少しミスリルが混ざっているのか」

「その通りです、流石はドラコー様。アルテサニアが生み出した金属混成という技術を用いられておりまして、それ故に宝石が指輪の上で安定せいて固定されるという特徴があります」

「なるほどな、少し弄ってもいいか?」

「どうぞ」


指輪を手に取って眺めていく。

面は広く平べったい、重さは複数の金属が混ざっているとは思えないくらいに軽く、そしてなによりも繊細な技術という物を感じ取れる。

軽く撫でてみれば分かるのだが、異様と言えそうなくらいには滑らかで、並大抵の指輪ならば少しの引っ掛かり感じるものを全く感じない。それに裏側、指と接触する面は薄らと膜の様な物を貼ってあって、皮膚の摩耗を軽減出来るようになっているな。

それに、サイズの調節は自動的に行われる様に魔法が加工段階で仕掛けられている様だし、指輪の外側であるならば何処にでも宝石を置けるみたいだな、


……取り敢えず試験的に宝石を置いてみるか。

サイズが小さい宝石はあったかな...無いな。仕方ない適当にカットしてそれを置いてみるか。

ガーネットを楕円に切り出してっと..おぉ! 本当に固定された! 台座も何も無いのに本当に固定されて簡単に取り外せない。んーーー、魔法を通せば取り外せるのは取り外せるが、宝石の方に傷が残ってしまうみたいだな。指輪には傷が見えないが、何度も繰り返すのはやめておくか。


「ふむ、大体分かったな」

「ほう、それでは早速作業に移りますか?」

「いや、先にデザインの方を考えよう。楽に取り外せるとはいえ、何度も試行するのはよくないだろう」

「確かに、そうですね。それでは紙とペンを取りに行って参ります」

「あぁ、頼む」


待っている間に使う宝石でも考えておくか。

今回の指輪はカースダイアは使わずに、他の宝石を使っていこう。………ブラックオパールか龍の眼か。

ブラックオパールはサイズの調節が面倒だが、色の雰囲気が喰い潰さない。龍の眼はサイズの調節が楽ではあるが、色合いの主張が強くて主役になろうとするからそのあたりの調節が難しそうだ。

……サルバと相談しながら進めていくか。


────────────────────────


「お待たせしました...そちらは?」

「ご苦労さん。こいつらは今回の指輪のメインに置きたいと思った宝石だ。どっちにするかはまだ悩んでいる最中なんだがな」

「なるほど、高純度のブラックオパールと...こちらの宝石は初めて見ますね」

「俺たちの居た場所では龍の眼って呼ばれてる宝石だな。炎の様に赤い球に切れ込みの様な一本の黒が特徴な宝石だな。死ぬほど加工が難しい、というよりかは硬くて熱の変化にも強いし魔法への親和性も薄いというまともな手段では加工出来ない宝石だな」

「……なるほど、通りで見たことがない筈です」


今回使うのはその中でも下級品の物だがな。流石に上級品は俺も加工出来ないし、そもそも俺が持っている龍の眼はこの下級品を含めて七つだけだしな。

まぁそれでも艶めきとか輝きは並大抵、というか龍峡でも宝石鉱脈の原点レベルは軽くあるからな。


「ふむ、それでしたら龍の眼を使われた方が良いでしょう。今回使用する候補として挙げたということは、推測ですがこれ以上に凄い物をお持ちでしょうし」

「まぁ、な。虎の子というか、俺たちの居た場所でも他に類を見ないというか、今後一切発見出来ないと言われている様な代物がな」

「……それは...今取り出すのはやめておきましょう。おそらく私の目が死んでしまいそうです」

「俺も、使う時以外は絶対に取り出さんよ」


宝石の様な艶めきに輝きに存在感だが、そもそも分類としては宝石じゃないんだがな。

まぁ取り出す予定は暫くないし、今は取り敢えずデザインについて話し合いを進めよう。



「それで、どういうデザインにしようか」

「ふむ...お望みのデザインはありますか? ありましたら、取り敢えず描いてみましょう」

「あぁ..分かった。取り敢えず描いてみるか」


………龍の眼を掴む様なデザイン、いや龍の眼を中心にして握り合う様なデザインだな。

そうなってくると龍の眼を中心にしてその下部に重ね合う手、それからその根本から三つ編み状にした物をクルリと回しながら上部に伸ばして絡み合わせて、そのまま龍の眼の黒の両脇に先端を置くか。

……もう少し龍の鱗感を出したいな。三つ編みをやめて普通に伸ばして、そこから龍の鱗の様な感じで彫りを入れていくか。鱗は、俺とグレイスの鱗を再現してみるか。グレイスの鱗は楕円状でその上下の先端が尖っていて、上の部分は鱗が被さっていて見ようとしなければ見えない形状だったな。

俺のはどうだったか...ひし形状のが重なっているだけだな。


………………取り敢えずはこんな..いやもう少し握り合う手の大きさを大きくしたほうがいいな。あとは伸ばした先端を龍の首にするか。

グレイスの方は覚えているから描けるんだが...俺の方はどうしようか…………やっぱり首はやめよう。

そうだな、先端は龍の眼の中に埋め込んでしまう様な形にしてしまうか。


「こんな感じでどうだ?」

「拝見させていただきます。

………………素晴らしいデザインですが、再現は可能ですか? 指輪のサイズで加工をするのは非常に難しいと思いますが...」

「問題ない、その手の作業の経験はある。それに魔法を使っていけば龍の眼以外の加工は鱗を彫る以外ならば早々に片付けられる」

「ほう左様で。それでは早速作業を開始しますか?」

「あぁ始めよう。出来上がった物を見ながら意見やらをくれないか?」

「えぇ、お任せ下さい。本日の予定は空けておりますので」


それじゃあ、作業を始めるとするか。

取り敢えず繋ぎ合う手はホワイトサファイア、伸ばす曲線はオニキス、鱗の細工は溶かした翡翠でやろう。

指輪のサイズならば在庫は山程あるし、多少の失敗は問題ないな。龍の眼は机の端に置いておこう、これに関してはスペアがないからな。

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