無詠唱魔法と詠唱魔法
「さて最初に言っておくが、どうしても構築出来ないのならば詠唱を呟いてもいいぞ。
ただしその場合構築する場所は杖の先や手のひらの上には構築するなよ。生成地点がブレて、ろくな魔法の形にならんからな」
「はい、質問です!!」
「なんだ、言ってみろ」
「詠唱とは具体的にどんな感じですか!」
「適当でいい。
『私は今から魔法を矢の形で頭の横に構築してそれを真っ直ぐと対象に向けて射出します』
これで十分詠唱になる」
「ぇぇ、凄い適当じゃないですか」
「詠唱はそんな物だぞ。形がない物にどんな形を与えるのかを教えてやるのが詠唱だ。
それを無詠唱でやるのは、イメージを叩きつけて形がない物をその形に捻じ曲げている、だからこそ強いイメージ力にどういった意思でそれを撃つのかを考えなければいけない」
だから、今のお前では難しい。
そう締め括れば納得がいったように頷き、どうすればいいかと視線を向けてきた。
このまま口で説明しても良いが、それだと少し分かりにくいと思うので実践を交えながら説明する。
「最初はこうして歩きながら魔法を構築しろ、形は特に問わないが決して飛ばすさず、そして歩くことを止めない事だ。どこでも良いからこうやって魔法を構築し、三秒から五秒間その状態を維持しその後は飛ばさずに霧散させる流れを繰り返せ。
そうだな...三十回程度繰り返せたら次に進める」
歩き続けながら魔法を肩の上や頭の上に構築、それを維持して霧散させるという動きを話しながら見せる。
簡単な動きだが、これを行う事で立ち止まった状態でしか魔法を構築出来ないという心理を無くさせる。
魔法は動きながら扱うのは難しい、そんな内容を無意識のうちにに思い起こさせるように教えがあったのだろう。失敗すると爆発するとかの脅しを交えながら。
とりあえずじっくりと進めれば良い。
基盤を全て叩き込んで、回避と防御をしながら魔法を扱えられる様になれば、あとは実戦の中で身に付くだろうし、レメならば容易に身に付けられるだろう。
「もう少し丁寧にしろ。今重要なのは速度ではない、精度だ。歩いて、構築して、維持して、霧散する。これらを一つずつ丁寧にしろ」
「はい!!!」
………筋は良いが、やはり少し粗が目立つな。
魔獣にモンスターを相手取るには心許ない様な気もするし、アコニトぐらいになってくるとこの粗は突かれて不利になる気もするな。
やはり詠唱を使った方を教えるか...
「グレイス、幼龍時代の遊びは覚えているか?」
「薄れ始めていますが、大体は」
「だったら次の指導をお前に任せたい。幼龍がよくやる遊びでもしてやってくれ。魔法戦は無しだぞ」
「分かりました。では言葉遊びの方は?」
「そっちでも問題ないし、もう一つでも大丈夫だ」
「了解しました」
────────────────────────
「そこまで、足を止めて魔法を消してください」
「はい!!」
「威勢があってよろしい。ですけれど、今の結果は実行回数168回、形になったのは54回、その内規定時間である三秒から五秒だったのは26回でした。
特に試行していた前半と正しい形式を見つけた中盤は問題ありませんが、手慣れて疲労して来た後半は魔法の構築が雑でしたので其処は考えて下さい」
「はい!!」
「それでは次ですね。子供向けの詠唱で私も忘れかけていますが、それでもあなたに教えられますし、今のあなたはこの基礎からじっくり魔法を構築していくべきなのです。勿論体を動かしながらですが」
「はい!!」
「という事で取り敢えずは
「………へ?」
「では今から詠唱を言いますので記憶して下さい。
聞き返すのは一度だけ許します」
「え、ちょ、えぇ!?」
酷いスパルタを見た。
いやまぁ確かに俺の指導は甘い気がしたから強引に、そして無理矢理矯正させられるような意図でグレイスに頼んだんだが、想定の十倍はスパルタだな。
いやまぁ、龍に魔法の指導を頼めば概要を話して即実戦だからそれに比べればマシなんだろうが。
あと割とイキイキしているから、グレイス視点でもレメの才能は高い方なんだろうな。人間という貧弱スペックな肉体が原因で強くないんだが。
「お待たせしました、こちらが学院での指導内容を取りまとめた本になります」
「おう、感謝しよう」
グレイスに指導を放り投げて、俺は庭の端で隠れて監視していた人間に言って本を持って来てもらった。人間の魔法指導がどんな物かまとめた本を。
といってもサルバが商売のネタになるかもしれないと集めた書類の塊なんだがな。
ほんほんほーん、へー、クソほど面倒で厄介極まりない手順で魔法を扱ってんのね。
ようはこれあれか、一生懸命火おこしをするからその火種になりそうな薪を探すところから始めましょう、とかいうクソみたいなところから魔法使ってんのか。
そりゃ動きながら魔法を使えないわ、だって俺でも歩きながら火おこしをしろって言われても無理だし。
「あの、質問してもよろしいでしょうか?」
「うん? いいぞ、今はグレイスが見ていてくれるからな。聞きたい事にはある程度答えてやろう」
「ありがとうございます。
でしたら、お二方の魔法と我々の魔法の違いは何なのでしょうか? 前回から見させていただいていますが、魔法を構築して撃ち出すまでの時間は非常に短いですし、その形はとても自由ですし」
「あー、そこか。割と単純だぞ」
「それは一体?」
「詠唱の有無だ。お前たちの魔法はどこを辿っても最終的な始まりは全て詠唱に帰結している。対して俺たちが此処の指導で使っているのは無詠唱、そもそもこの指導の時間で適当に作り出した名前も何もない魔法だからこそ形は無いし、即座に構築出来る」
「それは...」
「魔法をあくまで魔法という物質として扱うのがお前たち。魔法を素材にあらゆる物を作り出しているのが俺たち。そういう違いがあるからこそ、レメにはこれまでの学びを捨てさせて、ついでに人間の常識を捨てさせている最中という訳だ」
質問の本当の意味は其処だろう。お前たちの主人の娘を好きで虐めている訳ではない。
そういう意味を込めて言葉を返して、質問を投げかけて来た男に視線を少しだけやって、現在指導中のレメたちへと視線を戻す。
現在レメは円を描く様に歩きながら、先ほどグレイスが言った詠唱を口遊んでいる。魔法の構築まではいっていないからハッキリとした形は出来ていないが、それでも詠唱を進めるごとに体から魔法が浮かび上がっていっている。グレイスはその側に立ちながら浮かび上がった魔法の内体の中に戻る物の余分になる部分だけを切り取っては捨てている。
あと数分ほどもすればレメは動きながら体から魔法を引き出す感覚を掴めるだろうから、その次は実際に魔法を構築してみる事になるだろう。
そして、おそらく俺と同じ結論に至っているグレイスはこの遊びの間は絶対に魔法を使わないだろう。
まぁそもそも、炎雷に氷風に土砂流なんて名前のついた魔法は存在しないんだが。適当な名前を言って適当な詠唱を言っただけで、グレイスもそんな詠唱をしながら魔法を使った事がないはず。
それがどんな魔法なのか、それはどんな風に使うのかなど聞かれればそれで頓挫していたが、その点で考えるとレメは自分でイメージするから優秀だな。
「あ! 掴めました!! こうですね!!」
「えぇ、それで正解です。やはり優秀ですね」
「本当ですか!? ありがとうございます!!!」
こうしてすぐに理解して、手中に収めているしな。
というか随分と器用だな。三つの指向性を持った魔法を揺蕩わせて、体を中心に渦巻かせるているし。全部しっかりと独立していて、重なり合っても混ざらずにスッと分離させるとは。本当に器用だな。
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どうも作者です。
魔法に関するちょっとした説明を火おこしを例にしてします。
普通の人の場合
平たい場所を探す→薪を探す→薪を組む、棒と板を用意して火種を用意する→その火種を組んだ薪まで運んでいく→息を吹きかけて火を移す→火が点く。
こんな感じで一から百までの工程をやって普通の人間とかは魔法を使います。だからこそ基本的に立ち止まった状態でないと魔法を扱えませんでした。
優秀な人の場合
火を点ける棒を手に持つ→懐からマッチを取り出す→マッチを擦って火を点ける→手に持った棒に火を移す→火が点く。
こんな感じで出来るのが人間の中で優秀な部類、並列詠唱なるものの原理です。このマッチを手に入れられる人間が少ないですし、手に入れた人間は何故かどうやって手に入れたかを絶対に教えられません。
歴史に名を残す人の場合
ライターを手に持つ→スイッチを押す→火が点く。
これを出来るのが歴史に名を残せる人です。こういう人の場合は大概自分でライターを作るところから始めるので、基本的に継承されたとしても劣化して廃れていきます。
龍の場合
魔法を火に変える→火が点く
龍の場合はこれ。比喩でも何でもなく、本当に空気中や体内にある魔法を一瞬で火に変えてます。
周りが一生懸命科学をやっている中、横でファンタジーやっているのが龍です。
リーズィ・ウルティム・ヴィクトリーツァの場合
考える→火が点く
最早バグだが、これを出来るのがリーズィ。
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