契約と指導Part2

パパッと庭の全域に防護と状態保存の魔法を貼る。

色々と安全性の面の事を考えて三重程度、魔法を吸収するのではなく触れた面から分解するような動き方にしておく。魔法を分解した後の残骸は掻き集めて此方へと流すようにもしておく。


「……ふむ、まぁこのくらいでいいだろう。それじゃあ最初は想像しやすい物からいくぞ」

「……へ? あ、はい!!」


反応が少し変だが、まぁ放っておいていいだろう。


「最初は炎、というより火だな。その手に持った球体、それが物質を燃焼させる火だと想像してみろ」

「はい!!」

「これはそこまで引き締めなくていいぞ。緩く、楽な感じでやった方が思った通りの形になる」


…………お、もう魔法揺らめき始めたな。流石に優秀だな、少なくとも始めたての俺より早いぞ。

それじゃあ、俺も手本代わり兼暇つぶしにやっておこう。取り敢えず数は控えめに、40程度でいいか。

炎の種類はどうしようか? 狐火、鬼火、灯火は作り出すとして...最終到達点として龍炎と黒炎も作り出そうか。


「ん、ん、ほっ!! んーー、出来ました!!」

「うん? おぉ、早かったな。熱さは感じるか?」

「いえ、感じません!! どうしてでしょう?」

「形だけをイメージしたからな、もう少し火に対するイメージが深くなれば熱がある火になるぞ」

「ほえー、そうなんですね! 先生は...ほわぁ」

「どうした?」

「あ、えっと、先生は何をしているのかなって思ったんですけど、なんかとっても綺麗です!!」

「そうか? まぁイメージを形にするのに慣れて来たらこんな事も出来るようになるという手本だ。

ほら、触るなよ燃えるからな。手を近付けてみろ」

「はい!! ……熱さを感じます!!」

「火や炎というのはそういう物だからな。

で、だ。取り敢えず、この炎という属性を扱う上での最終到達点というものを見せてやる。見ていろ」



「ドラフラン、ニグラフラン」


────────────────────────


青い炎、赤い炎、紫の炎、緑の炎を空気中に浮かべていた先生が手を振ってそれらを一瞬で掻き消す。

魔法を形成している時も思ったけれど、あまりにも無駄がなさすぎる。無詠唱なだけでは片付けられない、人間の常識の枠内に収まらない魔法技術。

驚くし見惚れてしまう美しさのある魔法技術、何度か反応が遅れてしまうし声を漏らしてしまう。それだけの技術を持っている先生が、私の前で初めて魔法を扱う時に言葉を放った。


その結果、形成された魔法は凄かった。


赤く煌めきながら揺れてその中にドラゴンの幻想が見える大きな炎。呪術的な雰囲気を感じる全てを飲み込む黒の煌めきを発している炎。

父が見せてくれた記録の中にあった、湖を干上がらせて大規模な儀式魔法よりも遥かに高い火力を持っているのがこうして座って見ているだけで分かる。

それを平然と、疲弊した様子もなく扱っている先生の姿は、本で読んだ神様みたいに感じれた。


「さてと、一応これが炎という属性に魔法を変化させた上での最終的な到達点だ。龍のブレスの如く万物を灰燼に帰す龍の炎。有機物も無機物も関係無しに触れた対象を塵にするまで燃え続ける黒炎。

こういった極限的に純粋な状態で形成された魔法っていうのは相応の威力があり、研鑽を積み重ねた末に辿り着ける最終的な到達点だ」

「ほわぁ...すごい、です」

「それはなにより。まぁ世界には、このクラスの魔法を無詠唱で尚且つ無尽蔵に多種多様な属性で永遠に打ち続けられる化け物もいるんだがな」

「え? え? そんな人がいるんですか?」

「人じゃないが、まぁ俺に魔法の基礎も応用も何もかもを教えてくれた奴だな」

「はえー、先生の先生は凄いお方なんですね」


先生をして化け物なんて、もうこの世界で横に並び立てる存在がいないんじゃないですか?

…………ん、難しい事を考えるのはやめよう。私は魔法が好きで、それを上手に使いたいだけの女の子。先生に教えてもらうのは、私がより洗練された状態で自由に魔法が扱えるようになるため。

世界をひっくり返せるような存在の事は考えないの。


「うむ、それでは次の属性にいくか。何か希望する属性はあるか? 無ければ扱い易いのにするが」

「………………あの、練習の前に全ての属性の最終到達点を見せてもらってもいいですか? えっと、そっちの方が、あの、イメージがし易い気がするんです」

「そうか? まぁ大した労力じゃないから構わん。

それじゃあ順番に、どんなものか言いながらいくぞ」

「お願いします!!」


や、やった!! 先生の魔法がもっと見れる!!

あんな魔法を見せられて、もう集中なんて出来ません!!! もっと見たい!!!

正直に言うと抱きつきながら、どうやって魔法を形成しているのかゼロ距離で見たい!!!!

素敵な結婚したての奥さんがいるみたいだから、絶対にやらないけど!!!!




「では次は、水属性だな。デイスティラ」


そう言って前に突き出された先生の手の中に出現したのは太陽の光に反射してキラキラと煌めく水だった。

ほんの一雫の水だけだと思っていたら、時間が経つのと同時に手の中から溢れる事なく体積を増やし、水面に石を叩きつけた時にできる王冠の様な形になる。

それでもさっきの炎より大きさは小さいけれど、構成されている魔法の密度はさっきの炎より遥かに高い。


「水っていうのは癒しであり、同時に災害でもある。

災害方面の魔法も使えるが、それは流石に色々と巻き込むのでこの場所では使えない。

という事でこれは癒しとしての側面、傷口に触れればその場所を保護して再生能力を高める神の雫。治療という側面に特化した魔法に比べれば貧弱だが、それでも即時的で簡易的な治療にはなる」

「ほへぇー、水属性ってそんな感じなんですね。

あんまり本にも載ってないので、知りませんでした」

「そうなのか? ……まぁ俺も規模がデカいし使い所が無いからあまり使わないんだがな」

「え? どうしてですか?」

「傷の治療はこれを使う必要がないし、水属性を使わないと勝てない相手に出会ったことがないからな」

「なるほど」


……確かに、水属性を扱う必要がある存在は中々いませんよね。学園で読んだ本にも、僅か数例の特殊環境にあるダンジョンのモンスターだけでしたね。



「次は何にするか...地味だから土と風を纏めてでいいか? 一応それで四大属性が全部だし」

「あ、はい!! 全然大丈夫です!!!」

「じゃあいくぞテェラ、プロチェラ」


…………………これが、地味?

脈打ち続けながら赤熱して白い煙を上げている岩の塊に、絶えず動き続けている黒い風の球体。

……確かに密度としてはさっきの水属性よりも低いし、見た目から感じ取れる物は炎よりも弱い。それでも内部で莫大な何かが蠢き続けているし、今この瞬間に先生が殺意を持って解き放てばこの都市では済まないかなりの範囲が吹き飛ばされる。私はそれを幻視した。


「ん? 危険性を察知したみたいだな。その通りで間違いないぞ、抑え込んでいるし規模もかなり小さくしているが、水属性と同じ様に常用出来ない魔法だ。

土属性の方は、言ってしまえば大地そのものを魔法の形に凝縮して再現している。だから馬鹿げた量の魔法が内包されているし、解き放ってしまえばとんでもない範囲が消し飛ぶ。まぁ、それに関しては俺の魔法操作の技術が低いからなんだが」

「ほへぇー...え、先生で低いんですか!?」

「低いぞ、俺が教わった場所では子供でもこのレベルの魔法を常用して、一切大きな被害を出さないしな」

「ぇぇ...」


何それすっごい、行ってみたいなぁ...


「話が逸れたな、それでこっちの風属性だが、一応今回のは吹き飛ばすより切り裂くイメージが強い。本来の風ではそんな現象は起きないが、まぁそこがイメージの活かし方だな。この魔法はこうあるべきだ、そういったイメージを明確に持てば魔法はその形になる。

俺はこの作り出した風に、物を引き裂くというイメージを持っていたかその特性を持っているという訳だ」

「なるほど」


確かに、もう忘れたけれど人間の魔法を使う時には、使う前に映像や写真でこの魔法はこういう形なんだっていうのを覚えさせられていました。

なるほど、想像力が大切なんですね。魔法を認識してからは、詠唱文を覚えるのではなくて自分がどんな魔法を扱いたいのかっていう想像力が。



「よっと、それじゃあ実践と行くか。

取り敢えずさっきと同じ様に球体を作り出して、水に変化させて、その次は土、それから風に変化させてみろ。形は指定しない、想像しやすい形でやってみろ」

「はい!!!」


取り敢えず、先生の指導を全うしよう!

間違いなく学園では知る事が出来ないし、絶対に出会えない人に教えて貰っているんだから!!



────────────────────────


あるぇ? 指導一日目が終わらないぞぉ?

本来一話で一日目が終わる筈だったんだけどなぁ?


多分次回かその次には一日目が終わります。

それからデートして、指導があって、交流があって、それから二章の終盤かな。


それでは作者でした(・Д・)

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