契約と指導Part1

「よろしくお願いします、先生!!」

「………あぁ、よろしく」


分厚い本と色んな鉱石が先端についた杖を持った若干の幼さが残る人間の少女がそう言って頭を下げる。

元気の良いその声に少し気圧されつつも言葉を返す。


少女の後方、屋敷の影には二人ほどが待機していて、屋敷を見下ろせる位置にはサルバの二人の妻とグレイスがお茶会をしながら此方を見下ろしている。

あとは幾つか観測用の魔法が俺たちを囲う様に設置されて起動している。

………契約とはいえ、少々面倒だな。

反骨精神に溢れているのならばやり易かったんだが、ここまで真っ直ぐな相手だとは思わなかった。


────────────────────────


昨晩、グレイスと互いに愛を確かめ合いながら晩酌を続けていると夜は過ぎて、太陽が顔を出した。

眠っていた人間が活動を再開し始めたのでその場を解散し、酒の匂いが残っていそうだったので消臭してから起きて来たサルバと合流した。

そのまま軽く談笑しながら食堂に移動し、目覚めの一杯として紅茶を飲みながらサルバから頼まれる。


昨晩の深夜に娘が帰って来ており、魔法を教えてもらう事は出来ないだろうか?


サラッと出されたその頼みを、やりたい事といえば食事に出るくらいでそれ以外にないので了承。グレイスも協力すると申し出てくれた。

とはいえ最初から二人体制は圧を掛けてしまうと思ったので、今日は取り敢えず俺一人で相手を可能な限り行うと言ってグレイスには待機してもらっている。正直この発案を後悔し始めているが、もう引けない。


という事で朝食をその場でサッと済ませ、人間の魔法に関する情報を纏めた本を読みながら此処でサルバの娘を待っていた。

……人間の魔法はかなり面倒な手順の様だが。体内にある魔力を認識して、それから空気中に広がっている魔力(本には魔素と書いある)を認識する。そして体内の魔力と空気中の魔素を接続して、それを詠唱によって魔法の形に変化させる事で魔法が使えるとの事。

非常に面倒で、非効率的な方法だと思う。そもそも体内の魔力を認識出来るのならば簡単だろうに。



「さて、指導を始める前にだ...名乗れ」

「あ、はい!! 魔法学園特務魔導クラス所属、万能のレメ・ロスプロブです!!」

「そうか。レメ、まずはお前がどれだけ魔法を使えるのかを知りたい。的を用意するから、その的に目掛けて魔法を撃ってくれ」

「はい!」


という事で冒頭に繋がって今に繋がる。

サルバの娘、レメに魔法を扱う様に言うと元気の良さを感じる返事があるので、軽く頷いて人間が隠れている方とは反対側に的を創り出す。

強度は低めに、アコニトの本気で壊れる程度が丁度良いくらいだろう。特務魔導クラスとやらがどれだけ凄くて、万能とか言うのが何を示すのか知らないが。何を教えるにしても、そもそもの基準が分からないとどうしようもない。


「ほわぁ....」

「それじゃああれに向けて、どうした?」

「...凄いです!! あんなに綺麗に、それも無詠唱で魔法を使うなんて!! しかもあんなに綺麗な状態で固定される魔法なんて、初めて見ました!!」

「そうなのか?」

「はい!!!」

「……まぁ、取り敢えず魔法を使ってくれるか?

全力で、あれを微塵も残さず破壊するイメージで」

「分かりました!! 先生!!!」


この程度の魔法で驚くのか...いや、そうなるか。俺たちの様に魔法を創造力で形成して利用するのではなく、固定化されたイメージでしか魔法を扱っていないみたいだからな。



「星辰の導きを宿し、銀翼は光り輝く。我が身より引き出されるは白銀の魔、捻れるその形は万象を薙ぐ爪牙。我が声に従い運命を排斥せよ。

ノーブルドレッド・ファングロー!!!」


フワッと魔力が流れて行き、レメが伸ばしている杖の先端に集まり、パンッと弾ける様な音と共にジグザグとした軌道を取りながら創り出した的へと伸びる。

その姿は爪や牙と言うより雷の様であり、詠唱から取れるイメージと作り出された形に相違が見える。

…………なるほどな、人間の中で詠唱は魔力を集めるための手順でしかなく、指導者はそれをそのまま伝えてどういった形にするかを固定させているのか。

無駄だし、愚かだな。成長の芽を潰しきっているな。


「………!!! 当たりました、けど壊れていません。それどころか傷一つありません!」

「うん? あぁ、それは大体察していたからいい。

それよりも本格的に、基本から教えてやろう」

「なんと!? お願いします!!!」

「おぉう、近い近い。少し離れろ、説明しにくい」

「はい!!!」


────────────────────────


詰め寄って来たレメを引き離し、椅子を創り出してそこに座らせる。杖と本は邪魔なので椅子の横に創り出した机の上に置かせる。

そのまま少し距離を取って、俺が魔法を使う全体像が見える様な位置を取る。


「よし、まず最初にやるのはこれまで学んできた事にやってきた事を全部忘れろ」

「はい!!」

「……返事が良いな、というか本当にそれいいのか? 反発があるなら聞くぞ?」

「大丈夫です!! 私が次のステージに進めるのならば、私はこれまでの学びを捨ててみせます!!」

「そうか、じゃあ捨てろ」


威勢のある返事が返ってくる。目を見る限り本気で捨てるだろうし、おそらく俺がいえばある程度のことはする気概を感じる。

……それだったら、龍の魔法形態よりかは俺の魔法形態の方が教え易いか。


「まずは基本中の基本。心臓を基点にして全身を巡っている魔法を感じ取れ。魔力とは違うぞ、血の流れと同じように全身を巡り続けている物だ」

「はい! …………どうすれば、いいでしょうか?

魔力が動いているのは感じ取れますが、その魔法という物は感じ取れません」

「脈を感じられる場所に手を添えて、目を閉じてその場所に集中し続けてみろ。動き続ける脈拍と同じように魔力ではない物を感じ取れるはずだ」

「はい!!」


分からなければ、色を付けて視覚で認識出来るようにして強引に感じ取らせよう。別に感じ取れ無くても魔法は自由に使えるんだが、感じ取れていると魔法をイメージ通りに形成させるのがかなり楽になる。

まぁ、成体になって力を求めて鍛えている龍クラスの魔力量ならば態々感じ取らなくても、無理矢理空気を捻じ曲げる勢いで魔法を構築できるんだが。


「あ、あ!! 感じ取れました!!!」

「おぉ、意外と早かったな。手を放しても感じれるか?」

「……はい! 感じ取れます!!」

「よし、それじゃあ次だ」



「手を前に出して、手の中に球体をイメージしろ。出来る限り声を出さずに、流れる魔法を感じながら集中して手の中に球体があるイメージを浮かべろ」

「はい!!」

「手本としては、こんな感じだ。

柔軟性がある方が後々楽になるが、取り敢えずはしっかりとした球体を作ることをイメージしろ」

「はい!!」


次の指示を手本を見せながら出せば、元気の良い返事と共に実践に移り始める。

じわじわと体内の魔法が少しずつ外に流れ出て、レメの伸ばした手の中に集まっていく。とはいえ今は目をつぶっていて、手の中に球を作り出す事だけしか考えている様で無色透明の球体だが。

…………根源を開かせてみるか? いや止めておこう直ぐには戻って来れないだろうし、潜らせている間の生存を保証出来ないし。


「……はっ!! あれ? 感触はあるのに形が見えません...先生、どうしてですか?」

「球体だけをイメージしたからな、その握った状態のまま色がある様にイメージしてみろ。

そうだな、んー銀色あたりにしてみるといい」

「はい! ………わぁ! 出来ました!!」

「うむ、飲み込みが早くて良いな」

「ありがとうございます!!」


時間的に、まだ昼食の時間にもならんな。

だったらもう少し進めようか。取り敢えずは球体状にした魔法を変形させるか、それとも増やして体の周囲を浮かばせるか。

……………少し、楽しめる事にするか。




「それじゃあ、次は魔法に属性を持たせるか。

取り敢えずその球体は持ったままだ、あと少しばかし準備をするから待ってくれ」

「分かりました!!」

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