話し合い
軽い話を交わしてサルバは椅子に座り、それに遅れる形でサルバの後ろを歩いていた二人もサルバの両脇に座り、そこへドテルが紅茶を置いていく。
そのままサルバは紅茶を一口飲み、カップを机の上に置いてから口を開き始める。
「さて、取り敢えずは私の妻を紹介してもよろしいですか?」
「いいぞ」
「それでは...私の右側の月の髪飾りをしているのがルズナ、私の幼馴染です。私が仕事で忙しい時に家の管理をしてくれています」
「どうも、旦那様がとても世話になったみたいで感謝しているわ。ありがとうね」
「左側の太陽の首飾りをしているのがプロサ、私が仕事上で最も信用している相手です。私が今回の様に外を回っている時に、代理として此処商会の本拠地管理してくれています」
「旦那様をお救いいただき、その上ダンジョンの産物を商会に提供していただき感謝しております。本当にありがとうございます」
「再三サルバにも伝えたが偶然の結果だ、そこまで気にする必要はない。
聞いているかもしれんが俺の名前はドラコー、こっちは暫定妻で現在は婚約者兼同行人のグレイスだ」
「...ん、どうもです」
サルバからその妻二人を紹介されて挨拶と礼をされたので、気にしていないという事を伝えながらグレイスの紹介をする。一瞬グレイスの反応が遅かったので、チラッと見てみれば振られると思っていなかったのか紅茶のおかわりを要求していたらしく、体の向きが斜め後ろに向いて戻っているのが見えた。
……いやまぁ、確かに此処からの話し合いにそこまで深く関わらないからそれでも良いんだが、そんなに喉が渇いていたのか?
「ふふ、それでは別室でお茶会を開きましょうか。
小難しい商売のお話は旦那様とドラコー様にお任せして、私たちはそちらでゆるくお話しましょうか?」
「………どうしましょうか?」
「行っていいぞ、実際難しいし少し長くなるだろうからな。幾つか相談する事もあるかもしれんが」
「じゃあ行ってきますね。あと、決める事は勝手に決めて下さって大丈夫ですよ」
「そうか? まぁ決定した事はすぐに伝えるし、あまりにも悩んだら相談するからな」
「はーい」
「それでは参りましょう」
「そうね。ソフィア、ドテル着いて来て」
「「承りました奥様」」
軽く会話を交わして、俺とサルバを除いた全員が部屋を出て行き二つ隣の空間に入っていくのを認識する。
入り終えたタイミングで肩の力を抜き、足を組んで先程よりも軽い調子でサルバに話しかける。
「さぁ、本題に入ろうか?」
「えぇ、入りましょうか」
────────────────────────
本題に入る、そう言ってからサルバが取り出したのは二つの魔法が込められた小さな長方形の黒いプレートだった。
「まず命を救って下さったお礼、それから此処まで連れて来て下さったお礼を兼ねての物です」
「ほう...簡易的な契約と証明の魔法が内包されている様だが、これは?」
「これは、簡単に言いますと国家間を行き来したり都市への入場したりする時に利用できるカードです。
取り敢えず証明書が必要になる国家全てに認可されていまして、これ一枚で諸々の面倒な手続きを全て省く事が出来ます」
「それは、良いな。二枚分という事はグレイスの分もという事だな?」
「はい、そうなります。とはいえこのカードは一人が提示すれば問題ありませんので、緊急時にお二方が別れて移動される場合にご利用いただければと。
追加が必要になられましたら、私に言っていただければご用意致します」
「なるほどな...感謝する」
感謝を述べてから差し出されたカードを受け取り、魔法空間の中に収納しておく。
「はい、それで続きましては此方になります」
「……それは、人間の貨幣か?」
「はい、此方は人間社会で基本的に利用されている貨幣になります。銅貨一枚一モネ、大銅貨一枚十モネ、銀貨一枚百モネ、大銀貨一枚千モネ、金貨一枚一万モネ、大金貨一枚十万モネ、白金貨一枚百万モネです。
とはいえ大金貨と白金貨は日常生活では基本的に使いませんし、高級な店でも無い限り金貨もほとんど使用はしませんが、各種一万枚ずつ入れてあります」
「ほう...そんなに、大丈夫なのか?」
「この程度ならば問題ありません」
だったらいいんだが、人間にとってはかなりの価値だろうに。凄い奴だと思ってはいたが、俺の想定以上に人間の中では凄い奴なのかもしれんな。
………まぁ、今更対応を変える必要はないか。そもそも人間の基準に縛られるつもりもないし、それで何かしら文句を言われたら離れればいいだろう。
取り敢えずこの貨幣は魔法空間に仕舞っておいて、後で半分程度に分けてグレイスにも渡そう。
「さて、次は商売の話なんですが」
「商売? もう奴隷の選別は終わったのか?」
「いえ、そちらはまだですが...今すぐに用意しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。家族サービスをしろとお前に言ったのに俺がお前に仕事を頼むのはどうかと思うしな。
だが、そうなってくると商売とは何だ?」
「あのダンジョンで手に入れた品物に関する話です」
「ダンジョンの? あれは全部お前にやると言った筈だぞ。あれでお前から金を貰う気はないぞ」
「それはいけません。あれだけの品を受け取って何も対価を渡さないというのは、私の商売人としての誇りに反します。どうか受け取っていただきたい」
「とはいえだぞ? 金はもう要らんぞ」
「それは分かっております。ですので、こちらのカタログの中から欲しい物を選んでいただくか、お望みの物があれば用意させてみせます」
「そうか...少し待ってくれ」
「はい、いくらでもお待ちします」
カタログ、は別に見なくていいか。必要な物は無いし、足りなければ旅の途中で取ればいいしな。
となると、要求する物だがこれも無いな。
…………奴隷の購入費をそこから引いてもらうか。それから暫くはこの街に滞在するから滞在場所を提供してもらおうか。あとは...あぁそうだ。
「取り敢えず、奴隷の購入費と暫くこの街に滞在するからその滞在場所の提供費と滞在費を其処から引いてくれ」
「分かりました、それ以外に何かありますか?」
「服とか装飾品に関する情報を教えてくれ。
その情報代とか相談費を其処から引いてくれ」
「その程度でしたら別にお金は不要なのですが?」
「いや、デザインするのにも金は掛かるだろう? それに一度購入してみて、それから相談する可能性があるからその購入費を引いてくれ」
「ふむ、なるほど。でしたら大丈夫です。
………ところでどう言った情報でしょうか? 見た感じですがドラコー様は特に装飾品が必要には思いませんが...」
「必要なのは俺じゃない...グレイス、現在婚約者であり近い将来俺の妻になる女に対して渡す装飾品についてだ。特に指輪のデザインとか、割と激しく動く事になる彼奴に合った装飾品を教えて欲しい」
「………なるほど、えぇ構いませんよ。
貴方様より若輩の身ではありますが、二人の妻がいる男です。微力ながら協力いたしましょう」
「助かる、本当に」
好意を持った女に物を渡す経験が記憶に無いし、元々は適当な指輪でもと思ったが...サルバの妻が身に付けている装飾品のセンスが良すぎた。
一目見た瞬間の美しさと魅力を高めるワンポイント、それでいて体の一部であるかの様な自然な装飾。
………あれを見たからには、流石に適当な物をグレイスに渡してお終いにする訳にはいかない。
「早速どういったデザインにするか話し合いましょう、と言いたいところですがいい時間です。
明日かそれ以降にして、今日は食事に致しましょう。話しは通してありますので本日は我が家の料理人が作ってくれた食事をお食べ下さい」
「そうだな、取り敢えず後日だな。呼びに行こうか」
「えぇ、参りましょうか」
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