番外:戦の権能を持つ神々

此処は神界、ドラコーたちが生きる世界から一層上の神々が生きる世界。その中でも役職が特殊すぎて暇であり、下界を眺めるか適当な試練を作って下界に放逐するしかやる事がない神々の溜まり場。


「暇じゃあ!! 下界に行ってもいいじゃろ!!」

酒瓶を片手に暇を叫ぶ赤い長髪を纏めた戦の神


「駄目に決まっているだろう。お前は特に駄目だ」

叫び声をバッサリと切り捨てる金髪の本を片手に持った武の神


「暇なのは貴女だけじゃないんですよ、それに暇ならば審判と裁定の神の仕事でも手伝ってくればいいんじゃないですか? 神材要請がありましたし」

投影された画面を見ながら戦の神にその言葉を返す青い短髪の眼鏡を掛けた魔法の神


「おぉ!! この人間すげぇ! 農具で竜と戦ってやがる!! 軟派な割には気概あるじゃねぇか!!

おいおい、お前らも見てみろよ!!」

それらを無視して投影された画面の一つを見て騒ぎ立てる闘の神


「酒がうめぇ!!」「野菜がうめぇ!!」「ほう、こんな遊びで勝敗を付けるのか」「ふむ、修練のやってみないか?」「良い考えだ、やろうか鍛錬の」

その他五十数名の神々



此処は人間の言葉で戦神、戦いに関わる権能を持った神々の溜まり場である。

彼らの役目は終結、あらゆる争いが混沌となった時にその権能を持って争いを終結させるのである。故に今の世界全土を巻き込む争いがなく、創世神に刃を向けるような神が存在しない現在ではやる事がないのである。言ってしまえば彼らはニートである。


それ故に酒を飲んで騒ぎ、野菜を食べて騒ぎ、意味のあるよう見えて意味がないことをし、暇を叫ぶ。

下界を眺めはするが、それは彼らの中にある欲求を刺激するだけで、すぐに飽きて見る事を止めてしまう。

他の今は役目がない神々の様に趣味の没頭すればいいのだが彼らの趣味は総じて戦いであり、権能を持つ彼らがその趣味に没頭してしまえば神界への被害が多数出てしまう。なので審判と裁定の神は彼らが役目を果たす以外で戦う事を原則的に禁止している。



「……相変わらず、騒々しいですね此処は」


そんな溜まり場にブロンドの美しい長髪を揺らした女神が、億劫とした表情と声を隠しもせずに現れる。

彼女が現れた瞬間、一瞬だけ騒ぎは収まりその場の神々が全員彼女の方へと目線を向け、その億劫とした表情を見た瞬間に元に戻って再び騒ぎ始める。

その様子を見た彼女は額に手を当てて、大きくため息を吐いて近くに座っていて酔っ払った様子がない武の神に話しかける。


「武の神、連絡があるので貴方に伝えます」

「何だ?」

「練戦の塔が攻略されました。ですので貴方たちに精霊を生み出す権利、そしてその精霊と共に管理するダンジョンを作り出す許可が下りました」

「……ほう、それは真実か正義の神?」

「審判と裁定の神に誓って真実であると」

「なるほど了解した。注意点はあるか?」

「簡単に見つからず、人間種の生息地からある程度距離があり、付近にダンジョンが無い場所であるという事が大前提です。それから試練という形を取り続ける様にする事、ドラコー・ウルティム・スペー特異例を基準にしない事、人間の英雄が踏破出来る難易度である事です」

「うむ、了解した。それでその手に持った資料は?」

「これは別件ですが...魔王の活動開始に伴って勇者たちが現れましたので、彼らに適当な加護か試練でも与えておいて下さい」

「む? それは別にいいんだが、本来ならお前の役目じゃないのか?」

「特異例の一件が後を引いていまして、我々は下界に対して加護を与える事が出来ませんので」

「なるほどな。うむ、了解した」

「では、私は仕事がありますのでこれで失礼します。

くれぐれも、暴れすぎる事がありません様に」


そう言って正義の神と呼ばれた彼女はその場から背を向けて歩き去っていく。

それを眺めて見えなくなった頃合いに武の神は先程までの喧騒が嘘の様に静まり返って、一心に自身を眺めている神々の方へと顔を向けて告げる。


「暇神共、丁度良い暇つぶしが出来たぜ?

勇者共に与える加護は五名、ダンジョンは全員許可されているが取り敢えず十名だそうだ。

まぁ、何が言いたいかは分かるな暇神共?」

「「「「「………」」」」」

「あぁ、そうだ言葉はいらねぇよな?

十五名がこのクソみたいな暇を潰せるんだ。たったそれだけしか席がない、だったら奪いとらねぇとな?」

「「「「「………」」」」」


武の神は嗤う、凶暴に悪辣に歓喜しながら嗤う。

受け取った資料を放り投げながら、手の中に棒を創り出しながら声を上げる。


「勝者だけが正しい。十五の席を奪い合おうぜ?

勿論独り占めをしても全然良い。全員叩きのめして、十五の席を独り占めしてもいいぜ?」


そう言葉を告げられると誰からという事もなく、全員が同時に各々の手の中に創り出した武器を近くにいた神へと叩きつける。

怒声、咆哮、罵声、破砕音など少なくとも先程までとは全く違う喧しさがその溜まり場を支配していく。





「………始まりましたね」

「分かってて煽った癖に...正義の神がそれで良いのかい? バレたら怒られるよ?」

「失う物は何もありませんから。それに知ってて止めなかった貴女も同罪ですよ、善悪の神」

「僕もやる事ないから別にいいんだよね、どうせ止めたところで無駄でしょアレ」

「多分ですけどね.....審判と裁定の神はどのくらいで訪れると思います?」

「馬鹿げた量の仕事が追加されてたし終わらせてから来るとして、20分くらいじゃないかな」

「でしたら逃げましょうか」

「まぁ、そうだね。アレに巻き込まれて怒られるのは流石に勘弁してほしいしね」


爆発音まで聞こえ始めた戦神たちの溜まり場の近くにある通路で、先程彼らに話しに向かった正義の神とブカブカで袖が垂れている白衣を着た善悪の神と呼ばれた女神が話している。

悪戯をし終えた子供の様な、或いは道連れを作り出せた満足感に浸る様な顔をして、話しながら急ぐ様にその場を去っていく。


溜まり場からは騒がしさに乗って、多種多様な色の光が通路に漏れ出して来ていた。


────────────────────────


この後、十分後に来た審判と裁定の神に全員揃って殴り倒されて、六十時間にもなる説教をされる。

なおその前に正義の神と善悪の神は捕まって、審判と裁定の神の仕事の代行をさせられている。



どうも作者です、焼肉行ってて投稿遅れました。

久しぶりの肉は美味かった、タレも良いけどやっぱりワサビと塩であっさりと食べるのが一番良い。


ちなみに今話の存在意義は、ちょっとした箸休め兼この世界を管理している神って基本こんな感じなんですよっていう紹介です。まともな神はとても少ない。

イメージとしてはギリシャ神話、あんな感じでクッソ自由だし好き勝手やってる。違う点は無闇矢鱈に人間に直接ちょっかいを掛けることが無いくらい。


次話は主人公視点に戻ってようやく街に到着です。

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