ミゴンへの道中(夜)
「おや? 日が沈んできましたね。そろそろ止まって野営の準備をしますか?」
「野営の準備? 休憩が必要な様だったら取るが、どうした疲れたか?」
「……必要ないのですか? 魔法を使いっぱなしで疲労感とか、今歩いている馬も休憩だとか、そもそも夜だと先が見えないから止まるのが定石なのですが」
「疲労感は無いしコイツらはそもそも魔法で創った生物だから疲れない、前が見えない問題も魔法で周囲を照らしながら移動するから問題ないぞ? 獣が寄ってきても追い払えるし、襲ってくる様ならすぐに殺せるしな」
「………なるほど、流石ドラコー様と言うべきところでしょうか...ドラコー様に休憩が必要ないのでしたら野営はしなくても問題ありません。こちらとしても特に休まねばならない事もありませんので」
「そうか、それじゃあこのまま夜行だな。眠くなったら寝てくれていいぞ、俺は睡眠の必要が無いしな」
「左様ですか、でしたら少しばかし眠らせて貰ってもよろしいでしょうか?」
「いいぞ、後ろに行くか?」
「此処で構いません、それでは失礼します」
そう言うとサルバは背もたれに全身を預けて、目を閉じて数秒ほどして小さく寝息を立て始めた。
死に掛けながらも気丈にそれでいて奴隷の主として相応の態度を取っていて疲れたんだろう、命が一度しかない生物にとっては精神的に大きな負担だろうしな。
取り敢えず、暗くなる前に馬車の周囲を照らしておこう。輝きがサルバに当たらない様にしつつ、スヴァジルファリたちの視界を確保しつつ周囲に忌避の呪いを浮かばせて安全を確保しておこう。
……………やる事が無いな、魔法操作の練習でもやるか。
「スパエラ・プラエスタ」
手の中に球体を作り出して上に投げる。それを六回繰り返して、後ろに落下していった球体に魔法を纏わせて手元に転移させ、少し大きくしてから投げる。
投擲、転移、肥大化のサイクルを繰り返し続ける。
間隔は一定、投げる場所は適当、速度は段々と速くしていく。球体同士が接触する事もなく、同時に二つ以上の球体が手元にある状態にならず、それでいて地面への落下も乗っている籠への接触もさせない様に。
……六個じゃ少ないな、増やすか。
取り敢えず十個増やして、交互に投げるか。
大、小、大、小、大、小と繰り返すこと六回、新しく作ったのが四つ余ったので同時に上に投げる。
「いいな、暇つぶしには丁度いい」
速度を速めて投げる目標を決めて回転と指向性を持たせて当たらないギリギリに投げる。落ちてくる球体にも意識を向けて転移させる速度を上げて、手首と指を活かして転移させた物を大きくさせながら投げる。
動き続けている場所でやるからこそ、落ちてくる場所はズレるし、投げる場所も修正をし続けなければいけないが、普段の魔法操作に比べれば数千倍も簡単なので暇つぶしとして考えるには丁度いい。
『ブルフゥン』
「うん? あぁ分かった」
遊んでいたら前から抑え目な嗎が聞こえ、視線を向ければ暗闇に薄らと光る赤い目が複数見えた。浮かばせている忌避の呪いに反応していない点から考えるに異形共、サルバ曰く魔獣という相性の生物が寄ってきたんだろうと考えられる。取り敢えず位置は把握出来たので投げていた球体を魔獣共の頭上に転移させて、その球体を起点に魔法を炸裂させる。
出来る限り音は出さずに、手早く処理する。ついでに呪いを叩き返しておくのも忘れずにやっておく。あと叩き返した呪いが許容限界になる気がするので、呪いを集めて凝縮させる魔法も追加で放り込んでおく。
「ほら、処理したぞ。今後も見つけたら頼むぞ」
『『ブルフゥン』』
「うむ、気張れよ。もう暫く歩いてもらう事になるからな」
『『ブルルゥ』』
気の良い返事をしてくれる、本当にいい馬だ。
リーズィの幼少期に出会った馬で、幼いとはいえリーズィの四肢を噛みちぎるくらいには胆力があった馬らしい。呪いの奔流に巻き込まれて全滅したらしいが。
リーズィの話、それに追加して最近表層だけだが情報を引き出せる様になった神性の呪いに飲み込まれた生物群の情報から創り出した。完全な再現では無いし、そもそも血が流れている生物じゃないけどな。
それより暇つぶしだ、暇つぶし。
ジャグリングをもう一回してもいいが、もう少し難しい事をして楽しみたい。何をしようかな?
………召喚魔術で遊ぶか。
────────────────────────
「
籠と馬を吸収しない様に気を付けながら魔法を俺を中心とした空中全体に広げる。その広げた魔法を一部分取り出して、それをゆっくりと成形していく。
そのまま作り出した形に更に魔法と呪いを注ぎ込み、一つの命を創り出していく。
『キュイ?』
「成功だな、俺の魔法が広がっている場所なら自由に動いてくれていいぞ」
『キュイ!』
創り出したのは魚、十数センチ程度だが魔獣を瞬殺出来るくらいには強さを内包させている。ただ一匹では可哀想なので、同じサイズの魚を数十匹ほど創り出しておく。取り出した部分は追加して埋め直しておく。
『『『『『キュイ!』』』』』
「うむ、お前たちも自由に動いていいぞ」
『『『『『キュイ!』』』』』
「うむ...あぁ、そうだ。パティシピ」
『『『『『キュ?』』』』』
「今共有した変なのは見つけ次第殺してくれ」
『『『『『キュイ!!』』』』』
そう言ってやると、気の良い返事と共に魚たちは空中を泳ぎ始めていく。自由とは言ったが、俺と籠を中心にして回るように動いていく。魔法の輝きで周囲を仄かに照らしながら、ゆっくりと揺蕩う様に動く。
魚だけじゃあ見栄えが悪いので、もう何種類か創り出していく。取り敢えず鳥とリスは創る。
「
「
『『『ピィ!』』』
『『『キュア!!』』』
サッと鷹と鷲と孔雀を創って滞空させ、宝石と角が額に生えたリスを創り出して空中を歩ける様にする。
そのまま命を吹き込んでやれば、元気のある声を上げて羽をバサバサさせたりタンタンと跳ねる。
鳥に関しては昔、ただ死んで再生する時期に俺の体を啄み続けた奴らを元にして、リスに関しては龍峡の家畜兼ペットになっていた色んな姿があったリスを元にした。まぁ性格を再現する気は無いし、戦闘用にしていないから元からの弱体化は激しいが。
「物凄い魔法精度ですね」
「サルバ? 起こしてしまったか、すまんな」
「いえ、十二分に休めました。それにしても凄い光景ですね、魔導協会が見れば興奮しながら気絶しそうなくらいの光景ですね」
「そうなのか? まぁ確かに創り出して、動かすのは結構難しいが慣れると簡単だぞ。
それに自律行動しているからな、今動いているのは」
「………報酬は支払いますので、うちの者たちに魔法を指導してもらえますか?」
「相手によるな、ある程度滞在する予定だからその時に数回だけならばしてやってもいいぞ。しっかりとした指導が出来るかどうかは分からんがな」
「それで十二分でございます。それにしても、本当に素晴らしい光景ですね。四十数年生きて来ましたが、この様な光景は見た事ありませんね」
「そうか?」
リソースは永続的に消費されているし、動き回っている軌道に夜空の輝きを作り出しているが、この程度ならば大したことないと思うがな。
多分やらないがグレイスでも出来ると思うがな。
「はえー、すっごい。なんかとんでもない事してますね、何でこれ制御出来てるんですか?」
「自律行動させている、お前も出来ると思うぞ。魔法と呪いを程よく混ぜ合わせてやるだけだ」
「なるほど? ………いや、無理ですが?」
「慣れれば蛇王だな、お前なら数日で出来るようになるさ」
「頑張りますね」
「…………魔法が使えない一般人からしますと、どちらもとんでもないのですがね。多分世界の天下を取れますよ」
「興味がない」
「必要ありませんね」
籠から出て来て俺の隣に座ったグレイスと目を覚ましたサルバと共に話しながら、夜道を進んでいく。
────────────────────────
今日の一幕
起きたら18時、本日更新分150文字
二度の書き直しを挟みながら辛うじて毎日更新継続
ちょっと後日修正するかも?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます