番外:神界にて

「興味深い、非常に興味深い」

「同意、元人間とは思えない力。興味深い」

「力、精神力、思考能力、実行力、成長性、どれを取り上げても卓越している」

「観測を続けるか?」

「肯定、あれは見続けるべきである。何一つ残らなかった彼女の形見であるような物だ」

「了承、では観測を続ける。周囲への監視はどうする? 元龍、元ゴブリンも同じ様に変化が起きていると見て取れるが」

「………観測の眼を広げる。あの者と関わった生命も新しい方向で成長している」

「了承」


白と黒の大理石が入り混じった部屋の中で、壁一面に様々な光景を映し出し続ける画面を広げた状態で、首に半分に欠けた天秤のネックレスを垂らした少年と少女が話し続ける。

その顔は無表情で声も無機質だが、視線は映し出された光景へと向けられ続けて、何処か楽しそうな雰囲気を醸し出している。


「龍王と獣皇が接触。龍王は無傷、獣皇は死亡。

龍王もどうやら成長している模様、魔法の精度が蝶王との戦闘時よりも遥かに高まっている」

「確認完了。龍王だけではない、龍峡の龍全てが同様に成長しているようだ。それに衰退していく可能性が潰え、現状最も繁栄していく可能性を抱いている」

「…………理解、あの者が要因か?」

「……推測だが肯定、あの者との関わりが戦い以外の道を切り拓いたようだ。植え替えた環境も根絶やしにならずに、無事に共存している模様」

「理解、龍峡の観測も数を増やす」

「了承……竜は一部を除いて変化無し、該当の一部もあまり生き永らえなさそうだ。魂を呼び寄せるか?」

「……否定、管轄の者が話を聞く可能性もある。我々から干渉することは止めておこう」

「了承」


少年と少女は画面を眺めては、そこに映る物を見て位置を変えて並べて纏めていく。雪山から海底まで様々な物が順番に並べているが、一部だけ遠くに話した状態で重なる様に移動させていく。

その一部に写っているのは龍の街であったり、ゴブリンの集落であったり、歩いている黒髪の男と灰色の髪の女であったりする。


「連絡、繁栄の神が裁定を下して欲しいと。

やり残した事は全て終わり、新しきを生んだと」

「拒否する、繁栄の神の責務はまだ終わっていない。

冥府の神と死の神の下へと向かい、そこで己の生んだ命が弄んだ魂を介助し、次へと転じさせる責務に移るように伝達せよ。我々が裁定を下すのは全ての責務を果たし終えた後であるとも伝達せよ」

「了承、伝達する。

………土の神と野の神が繁栄の神を何とかして欲しいとのこと」

「不干渉、責務を果たし終えるまで繁栄の神と関わる気はないと伝達せよ。どうしても気になるのならば、死傷沙汰にならない限りは自由に対応しても良いと伝達せよ」

「了承」


忙しなく、それでいて落ち着いたように画面を動かして、手元にある紙とペンを動かして、頻りに届く連絡に対応している二人。時折重ね合わされた画面を広げては見回して、再び重ね合わせた状態に戻すという事を続けながら動き続けている。

不意に少年の方が動かし続けたペンを机の上に置き、自身が書き連ねた山の様な紙を抱え上げる。


「少し持って行ってくる」

「了承、こちらは対応を続ける」

「感謝、すぐに戻る」


短い受け答えをした後に紙を抱え上げた少年は姿を掻き消し、少女は届き続ける連絡への対応を続けながら画面を見回し続ける。

途中で何度か止まって手元の紙に書き記すと再び連絡への対応と画面を見回す作業に移る少女。

そして少年が消えて二分弱、少年は腕の中に二本の瓶と灰色のコップ二個を抱えて再び現れる。


「帰還、菜の神からの差し入れだ」

「感謝、菜の神に連絡を入れておく」

「肯定。何か異常はあったか?」

「報告、人間の教会が神の名を偽って不条理で不合理の審判を下していた。偽った神の名は正義の神と我らだったが、認可を下していたか?」

「否定、あの日以降我らも正義の神も真実の神も理の神も律の神も全員、人間に神の名を使う認可を下していない」

「理解、審判を下すか?」

「下す、正義の神に報告を入れた後に審判を決める」

「了承」

「他にあったか?」

「肯定、ドラコー・ウルティム・スペーとグレイス・シュテル・グラムが草原に到着。殺し合いではないが本気の戦いを行う模様」

「…………???」

「地上に影響がありそうだが、どうする?」

「守護の神、理の神、律の神、再生の神、大地の神の下へと向かう。多大な影響が起きた場合に即座に対応が出来るように準備を行う」

「了承」


戻り椅子に座ってコップに瓶の中身を注いで傾けていた少年は、同じ様に中身を注いだコップを傾けていた少女の報告を受けて困惑と焦りを含んだ雰囲気を醸し出しながら立ち上がり、次は少女を連れて部屋の中から姿を掻き消す。



この部屋は神が住まう世界、神界に創られた一室。

審判と裁定の神である二人が全ての世界を観測し、それぞれの世界に起きている神の権能が必要となる事態を先んじて発見して対応、及び神界にて神々の間で起きた問題や創り出した精霊が問題を起こした時にそれらの内容を把握し、それに相応しい審判や裁定を下す話し合いを行う部屋である。

なお数少ない創世神に直接話が出来る神であり、それ故に神々の中でもかなり上の権威を持っているが直接的な戦闘能力という物はかなり低く、世界そのものを捻じ曲げるような問題への対応能力は持っていない。


そんな神の最優先観測対象は元人間で全ての呪いを背負い切ったドラコー・ウルティム・スペーであり、特出した事例が無い限りはドラコーに関する報告を纏め上げ続けている。今回はその特出した事例、精霊の過剰暴走への対応及び他の精霊が同じ様に暴走していないかの観測結果を全て纏め上げていた。

それが終わったタイミングで、ドラコーが本気で戦うという想定外の事例が起きそうになっているため神々の中でも強いと言える者たちを招集し、問題が起きたタイミングで即座に対応出来る準備を表情にも声にも出ていないが、急ぎ尚且つ焦った状態で進めている。


なお、ドラコーに対しては悪神フルーフ・フェアニッヒ及び神骸デエスモルトに関する恩義を多大に感じているため、彼が行うことに対して事前に捩じ伏せるという事を禁止してしまっているために起きた後の準備をしている。最近繁栄の神の精霊の一件でさらに恩が積み重なったので、もう暫くは対応が後手に回ることになりそうである。そもそもドラコーが元々大して力を持っていなかったのに神々と同じステージに並び立ち始めているので、世界を生贄にしてでもその成長の果てを見たいという意見が神々から出ているので、基本的に神々はドラコーとその隣や後ろに立つ者たちの活動を否定する気はない。


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