鍛錬verゴブリン
洗い物を終えたグレイスと合流し、アコニトに続いて修練場へと移動する。
昨日と同じ様に活気があり、それ以上に集落内から受け入れられている感は強まっている様に感じた。
何故強まったかはよく分からんが、アコニトかグレイスのおかげだろう。
「こちらで取り敢えず見学していて下さい。
己らの鍛錬で疑問とかありましたら、近くに教官役を置いておきますのでそちらにお伝え下さい」
「あぁ、分かった」
「ではじっくりと見ていて下さい。
……昨日散々無茶をしたから今日の前半は休みだ。後半には参加しても良いから」
「リョウカイデス」
「………よろしく頼むぞ?」
「コチラコソ、ヨロシクオネガイシマス」
そんなこんなで修練場に辿り着き、全体が見える場所まで案内されてアコニトとは別れる。
アコニトの代わりに若そうな傷の多いゴブリンが近くに残っている。アコニト曰く昨日結構な無茶をしたらしいので、ゴブリンたちの鍛錬は休ませてその後の俺たちの鍛錬に参加させるようだ。
という事で軽く挨拶を交わすが、まだ言葉を発するのに慣れていないようで若干片言なので、あまり話しかけてやらない方がいいだろう。緊張しているのか腕と足が強張っているみたいだしな。
「武器を持って走れ、取り敢えず修練場を5周だ。
距離の間隔は一定、武器が前後左右を走る者に引っ掛からないようにしろ、足音は鳴らすな。
無駄なイメージを省け、意識を合わせろ、出来る限り合わせて速く無音で走れ。さぁ、行け」
アコニトの話が終わると同時に、修練場内にいる百数名のゴブリンたちが各々の手に持った武器を構えて修練場の端に三列で並び、それぞれ拳一つ分の空白を開けて走り始める。
ザッザッザと時々音は鳴るが、それでも基本的には音を立てずに走り続け、中々の速度を維持したまま走っている。だが、それだけだな。
各個人の間隔は歩幅とステップの違いで一定じゃ無くなっているし、持っている武器同士が重なったりぶつかったりしているな。それに武器の持っている位置もズレているし、持っている手も過剰に力が入りすぎているな。あれでは武器を振るう際に振り過ぎて、二の矢三の矢に繋がらんな。
…………だがまぁ上々だな。個では無く群としての動きは固まっているし、基準として何が足りていないのかをアコニトが分かっている。それでいて実践している奴らも理解して合わせようと自ら修正をしている。
「……中々、上出来じゃないか。なぁ?」
「えぇ、これは想定以上です」
「ふぅむ、こうなると群としての動きより、一撃を磨き上げる手段を伝えてやるべきか?」
「そうですね...急所を打つ一撃とそれを連続して打ち込み続けられるようにしましょうか」
「あぁ、なるほどな。確かにそちらの方がいいか」
「はい」
体作りはしっかりとしているようだが、それでも一撃必殺には届かんようだしな。それならば渾身の一撃よりも、急所の連撃を複数回打ち込めるようになった方が為になるか。
「終わったのならば並べ、しっかりと間隔を広げながら互いに武器を振って当たらない様にしろ。
並べたら縦振り、横振り、足削ぎ、下からの斬り上げの素振りをしろ。斧を持った者は斬り上げでは無く両手での振り下ろし、槍を持った者は突きをしろ。
各種百回、乱雑に一つずつでは無く、順番にそして丁寧に振れ。並んだか、ならば各種百回始め」
「丁寧にやっているじゃないか」
「そのようですね、なるほど。こうやって一つずつ丁寧にやっていくのが定石なのですね」
「そうみたいだな、使い方を教えて残りは実戦で覚えろ、という形じゃ無いみたいだ」
「なるほどなるほど、でしたらこの後の鍛錬は丁寧にやらねばなりませんね」
「だな」
走り込みの次に始まったのは素振り。
それも定石通りの振り方に、それぞれが持った武器に合わせた振り方を混ぜて順番に振らせている。
丁寧、少なくとも俺とグレイスはそう考えた。
一つ一つの動きを教官役のゴブリンがしっかりと見て、ズレていたり振り方が甘ければ教えている。素振り一回一回に休憩を挟まずに、続けて行わせる事で疲労した状態でもしっかりと振れるような基礎の作成。
実戦で慣れて身に付けろという形じゃないので瞠目しつつ、この後の鍛錬の内容を考える。
予定通り投石を教えてもいいんだが、脱力した状態から急所を穿ち切る一撃を教えてやってもいいな。
悩みどころだが………予定通り投石にしよう。近接の訓練をここまで充実させているなら、少し毛色が違うのを教えてやるのもいい息抜きになるだろう。
投石の鍛錬ならば遊び感覚で出来るしな。
「うむ、ご苦労。少し休憩を挟みつつ組を作れ。
最低二名、最大三名の組だ。作り終えたらある程度の距離を取れる様に位置を取り、その後打ち合え。
模擬戦闘でもないからな、踏み込みと振り方を確認する軽い物だからな。そこを考慮しておけ」
「位置は取れたな? ならば始めろ。
お互いにしっかりと受け止めつつ変だと感じたところは指摘し、より良い物になるようにしろ」
「今日はこの後が本番だ、だからこれで今日の己から下す鍛錬は終了だ。しっかりと集中して行え」
うん? これで終わりなのか?
……いや結構な時間が経っているな? もうじき太陽が中天に昇るな。
ふむ、それじゃあそろそろ鍛錬を始められるように準備をするか。
「グレイス準備だ」
「分かりました、ところで今日はどのような形で行いますか?」
「そうだな.....疲労感を見た感じ俺たち両方の鍛錬を実行するのは酷だ。だから今日はお前の考えた鍛錬を実行しよう。
元々これを行いたいと言ったのはお前だしな」
「分かりました、ではサポートをしていただけますか?」
「勿論、そのつもりだ」
立ち上がりグレイスと話しながら、打ち合っているゴブリンたちを見る。
良い雰囲気だ、しっかりと良いと思った点は褒め合い、変だと感じた点は伝え合う。教官役たちもしっかりと見回りながら気付いていない細かいところを、程々に伝えて纏まりを感じさせる。
良いな、これならば武器さえ整えられればこの森の中で覇者になれるだろう。取り敢えず、そろそろ移動を始めるか。
「行くぞグレイスに、若いの」
「はい」
「リョウカイ、シマシタ」
「アコニト、あとどのくらいだ?」
「もうじき終わります、あそこの教官役二名がこちらに戻って来たら終了ですね」
「そうか、この後の鍛錬にはどのくらい参加する?」
「基本的には全員参加する予定です。ただ何人かは狩りに出向くので、その者らだけが抜けますね。
あとは今は来ていない者たちが何人か来ると」
「なるほど、分かった。取り敢えず今日の鍛錬はグレイスが主導だ、明日は俺が主導する鍛錬を実行しようと思っているが、それでいいか?」
「勿論です、是非ともよろしくお願いします」
あれから少し時間を置き、アコニトが定位置に戻った時に近くへと移動して話しかける。
簡単に予定を話し、それで問題無いかを聞いてから、少し下がって鍛錬が終了するのを待つ。
俺が移動して来て程なくまだ伝える作業に出向いていた教官役が戻って来て、アコニトが地面をそこそこの力で叩いて終了と集合の合図となる音を出す。
「ご苦労、これから狩りに出る予定がある者は残念だが抜けて、狩りに出れる準備をして来い。
予定が無い者はこのまま待機、ドラコー様とグレイス様が直々に己らに鍛錬をつけて下さる。
全力で取り組み、少しでも己らの物とするぞ。
………では、よろしくお願いします」
「あぁ、それじゃあグレイス行け」
「はい」
「さて、それではみなさん今日はよろしくお願いします。今日は私、グレイスがお相手します。
どうぞ気楽に、それでいて自由に取り組み下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます