狩る側と狩られる側
・・・・・いるな。
なるほどここまで奥に移動していたか。もう森の外からの光は感じない、木と葉の屋根で上からの光も碌に無い奥地。
倒された木を見るに、何かしら巨体がここを移動したのだろうな。年輪は均等だ、つまりはここまでエネルギーは届いていないのだろう。
「グレイス、感じたか?」
「はい、これは何の気配でしょうか? 虫にしても小さ過ぎる様に感じますが」
「うむ、俺もそう思ったんでな少し気配を辿った。
気配を感じる先は土の中、という事は土の中にいる幼虫の気配を感じているのだろう」
「なるほど、確かにそうみたいですね。気配の数も順調に増えて来ましたし」
「あぁ、という事でもう少し奥へと進むぞ。
奥には大きいのがいるだろうから、それを判断基準にするぞ」
「了解しました」
これが幼虫じゃ無くて成虫だったりモグラだったりするならば、それは想定外だが。
流石にそんな事は無いだろう、深さ的にそこまで深くにはいないようだしな。
しかし仮にこの下にいるのが成虫やモグラならば、俺もグレイスも軽く魔法を使えば、それだけでこの辺り一帯の何もかもを殺し尽くせるぞ。
軽い雑談を交わしながら二人で森の中を歩く。
キノコばかり見つけるので湿気の多い場所なのかと思って土を軽く掬って、手の中で弄ってみたがそこまで湿気が多い訳では無さそうだった。
途中で何回かグレイスが上に飛び上がって太陽の位置を確認したが、まだ中天にも昇っていない様だったのでまだ暫くは進めそうである。その時枝を確認してもらったが寝袋を乗せて、寝転んでも問題無さそうだったらしいので広い場所が見つからなければ木の上で寝る事になるな。まぁ寝なくても問題無いんだが。
「あ、蝶」
「うん? 蝶だな、という事は予想通り奥に行けば動物が見つかるかもしれんな」
「ぽいですね。
いやー、それにしても小さいんですねぇ」
「あの場所を基準にしたらダメだぞ? 100m越えの蝶なんて物はおそらく存在しないぞ」
「その半分のサイズも無いんですけどー?」
「50mもデカいな。最大でも10mくらいだろう」
「ほへー、とっても小さいんですねぇ」
「まぁ龍峡の外はそんなもんだろう」
あの森はドギツイ神性にドラゴン達のエネルギーを大量に吸って成長しているからな、化け物じみたサイズにもなるし、ドラゴンが傷だらけになって倒すくらいの怪物達が育ってるんだろう。
あれが標準なら、龍峡でドラゴンが呪い背負いなんてしなくても普通に世界が存続するぞ。
取り敢えず進むか、手加減はしてるし出来る限り気配も抑えている。気配だけで逃げ惑ったりショック死したりする事も無いだろう。
アオォーーーン!!!
オォォーーーーン!!!!
「………来るか」
「引きますか?」
「いや、応戦しよう。あまり本気は出し過ぎるなよ、どれだけ影響が出てしまうのか分からんしな」
「了解しました」
俺たち以外の生物の気配を見つけてから十数分、大きな気配が増えて来た頃、狼の鳴き声が響き渡る。
気配の位置と鳴き声の方向から判断するに、俺たちが奴らの縄張りに立ち入った事による威嚇だろう。
引いた方がいいだろうが、力を知りたい。
狼共には申し訳ないが、殺させて貰おう。
「こっちだな、行くぞ」
「はーい」
気配を感じる方向に向けて足を進める。
狼であろう気配も俺たちの動きに合わせて近付き、分散し、外敵を排除するための動きを取っている。
随分と知能が回るんだな、立ち去る気が無いのを理解した時点で囲い込み、あらゆる方向から攻撃を仕掛けられるように位置を取っている。
………待つか、止まれば仕掛けてくるだろう。
どうせこっちが死ぬ事は無い、なら先手くらいは譲ってやろうじゃ無いか。
「待つぞ」
そう言葉に出して足を止めれば、グレイスも同様に足を止める。狼共の動きも鎮まりじわりじわりと囲い込みを狭めて来ている。
頭が優秀なのか? 即座に判断を変えて、集団行動なんてたかが獣には出来んだろうに。こうした点では突撃粉砕が基本のドラゴンよりも賢いかもしれんな。
………・あぁ、そうだ。逃がさない様に牢でも作っておく事にしようか。この程度ならばまぁ、大した影響は出ないだろう。
さぁ、来いよ狼。お前たちの力を見せてくれ、お前たちを確認させてくれ。
俺たちがこの大地を旅するための、贄になってくれ。
_______________________
狼達の中に芽生え蠢き広まっていた感情、それは恐怖だった。
一見すると猿の近縁種にしか見えず、己らの様に鋭い牙も爪も持たない、所詮は狩られるだけの肉。
そう思い仲間を集め、威嚇をし、そして囲い込んだ。
妙な気配が増えたせいで肉が取れなくなった環境の中で久しぶりの肉に歓喜し、着実に追い込んでいった。
追い込んでいたはずだった。
空気が突如として黒に染まり、最後尾にいた若い狼が首だけを残して消えた。
異変を感じ逃げようと黒くなった空気に触れれば、触れた若い狼が異常に軽くなって地面に崩れ落ちた。
追い込んでいた? 違う誘い込まれたんだ。
狼達がそれに気付くには遅すぎた。逃げることも出来ず、狼達は広まりかけた動揺を噛み殺して、獲物だった二匹の猿を睨みつけた。
あちらからは姿が見えていないはずなのに、睨み付けた瞬間黒いオスは、灰色のメスは静かに笑った。
ようやく気付いたのか
狼達の頭の中にそんな言葉が響き渡る。
狙ったのは間違いだった、それを生き残った狼は実感しながら遠吠えを上げる。
せめて一矢報いてみせる、遠くにいる同胞が狙われない為にも、命を賭してみせる。
誰からという訳でも無い、自然と皆同時に飛び出していった。無防備に立つ二匹の猿に向けて。
グルアァ!!!!
「…………過ぎたか」
「……ですね」
決死の突撃は、平然と薙ぎ払われた。
鋭くも何とも無い前足で草を退ける様に軽々と。
それだけで、狼達の首は弾け飛んだ。何匹か辿り着けても、牙も爪も二匹の肉を貫通することなくスッと払われる。
「じゃあな、お前たちの犠牲は無駄にはしないさ」
静かに淡々とその言葉を告げられながら、狩る側だった狼達はその命を散らす事になった。
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