森の中を探索
「弱いなぁ、服の一枚すら貫通出来ないのか」
「みたいですねぇ、それにあの程度の魔法で死んじゃうんですね」
「だな。まさか大して力も込めてない片手間感覚の魔法で死ぬのは想定外だわ」
「それに軽く力入れたら消し飛びましたし、花を摘むようにそっとしなきゃですねぇ」
「そうだな」
まさかまさかの適当な魔法で大量に死ぬとは思わんかった。確かに多少の生命力吸収の呪いを混ぜたとはいえ、龍峡じゃマッサージくらいにしかならん様な力だったから油断していたな。
それに軽く力を込めて手を払うだけ首が消し飛んだし、噛ませてやっても服の一枚も貫通しなかったし。
………加減なぁ、もうちょっと被検体が欲しい。どのくらいで消し飛ばなかったり、耐え切れなくなるのか知りたい。
「さてと、取り敢えず死体は溶かしてしまおうと思うんだが、要るか?」
「要らないです、服とかの予備も持って来てますし、こっちで作りたくなった様に素材とか食材を山程狩って持って来てますし」
「そうか? じゃあ全部貰うぞ」
「どうぞどうぞー」
死体を残しておくのもあれなので、溶かしてまたいつか魔法を使う時のリソースにさせてもらう事にする。
……六十九匹か、そんなに大した事ないな。魔法炸裂の時に使う事にしよう。
それはさておき、何処に行くかねぇ? 狼でこの程度なら、極力接敵しない様にしたいな。
接敵し続けると、その内この森の生態ピラミッドを捻じ曲げかねない。
「……………あ、そうだ」
「何かありました?」
「グレイス魔法を体の周囲に纏えるか? 別に魔法じゃなくても、周囲を威圧出来たらそれでいいんだが」
「?………! 出来ます、やりますか?」
「やっておこう、それなら多分襲われなくなるだろうし、変に近づかれたり囲まれる事が無くなるだろう」
「なるほど、それじゃあ纏っておきましょうか」
「あぁ」
という事で魔法を纏い始める。
不定形であるという特徴を最大限に活かし、魔法の流れを捻じ曲げて体の周りで循環させる。時間経過で消えない様に、適度に体や空気中のエネルギーを取り込んでいけるようにしておく。
ついでにそうだな、感じ取れるイメージも付与しておこう。んーーー、どうしようか?
形を崩して、煌々と暗い輝きを放って、触れれば飲み込まれる化け物のイメージで良いか。
流石にこれならば早々寄ってくる事は無いだろう。
「よし、こっちは出来たぞ」
「私も出来ました、よ? 何か凄い、ですね?」
「普通に纏うだけじゃ頭が足りん獣は襲ってくると思ってな。本能的に避ける様な化け物をイメージした」
「なるほどー、私もそうした方がいいですか?」
「別にいいだろう。俺から離れる予定は、今のところ無いだろう?」
「そうですね、じゃあ別にいいですか。
ところで次は何処に行きます? 思った以上に弱過ぎた気もしますし、森でも抜けます?」
「いやしばらくはこの森にいよう。
ここらの木の実やら薬草だのを調べておきたい。あとはあっちの森みたいに湖やら洞窟も探したい。
そこでこっちの水質、鉱物も後々のために知っておきたい。ついでに綺麗な景色が見れるかもしれんから、その辺りも探したい」
「なるほどなるほど、それでは何処に向かいます?」
「何処に何があるか分からんからな、取り敢えず湖でも探しながら歩き回る事にしようか」
「分かりました」
グレイスと言葉を交わしてから、歩き始める。
水場は比較的に気配が多い場所の近くだろう。もしくは全く気配がない場所か。
水が流れる様な音はここまで歩いて来て聞こえなかったから、おそらく川は存在していないと思う。
だからこそ大きい湖がある気がする、無ければ地下に馬鹿みたいな量の地下水か、この森に大量の雨が降っているんだろうが、地面や木の濡れ具合を見るにおそらく雨はそこまで大量に降っていないだろう。
………この規模感の森林を形成するならば、おそらく始まりは水場の近くだろうし、取り敢えず古い木を探すか。
_______________________
「ん? これって毒草、か?」
「毒草ですか? 私は見たことないですけど」
「以前にテーレの農園で見たことがある。
確か根っこが..ほら、この別の草の根っこと絡み合っているだろ?」
「あ、本当ですね。何だか複雑に絡み合ってますね」
「こんな形で他の植物に絡んで、その植物から水気だの養分だのを吸うらしい。
それでこの葉っぱの部分が毒で、誰だったかな? 忘れたが、お試し感覚で食べたドラゴンが腹痛になるくらいには強い毒があるらしい」
「ほへー、ドラコー様はどうなんですか?」
「食ったことないから分からん」
「まぁそれはそうですよねー。
というか毒って効くんですか?」
「さぁ? 擬似的に毒の苦しみを受けた事はあるが、実際に受けた事は無いから分からん。まぁ苦しかったら死ねば治るし、どっかで実験したいな」
「それなら私もその時実験してみますね。
それで、これはどうするんですか?」
「ちょっと回収していく。
釣りをする時に餌に混ぜてやれば魚が麻痺して楽に釣り上げられる様になるからな」
「そうなんですね、探して来ましょうか?」
「うん? そうだな、この近くを軽く探してくれ。
あまり遠くに行かなくていいからな」
「分かりました」
この後二人で毒草を百二十株ほど採取して、葉っぱの部分だけを切り落として残りは地面に埋めた。
切り落とした葉っぱはここから加工するのに一手間掛かるので、一旦魔法空間に収納して時間と場所に余裕が出来た時に加工する事とした。
グレイスは見たがっていたが、流石に土の上で肉をミンチにして、葉っぱを煎じて、水を加えながら混ぜ合わせる工程は出来ないので我慢してもらった。
「??」
「どうした?」
「アレって何ですか?」
「……あぁ、アレはリスだな。ワンダーラットと同じ齧歯類だ。かなり小さいが」
「ほへー、随分と可愛らしいですねぇ。
ワンダーラットもあれくらいの大きさなら億劫にならないんですけどねぇ」
「あいつらが億劫になるのは大きさというより数だろう? 一度に数千単位で出て来る割には肉は硬いし臭い、毛皮も他より脆いから使い道ないしな」
「まぁ確かに、アレで美味しかったら文句は無いんですけど、どう頑張っても美味しくなら無いですしね」
「だな、それじゃあ移動しようか。
あっちも俺たちに気付いて硬直したしな」
「本当ですね、毛を逆立てて固まってますね」
「だろう? それじゃあ移動するぞ」
「はい」
リスを始めとした色々と小さな動物を見つけて、その都度遠くから眺めながら俺の漠然とした知識と共に教えて、気付かれたら移動を再開するというのを繰り返す。
グレイスが一番気に入ったのは鳥で、木にしがみついてコンコンと叩いていた鳥だった。俺も見たことも聞いた事も無いタイプの鳥だった。
どうやら動きが可愛らしかったらしく初回発見以降も何度か見つけては気付かれるまで眺めていた。
ちなみに一番反応が悪かったのはウサギ、グレイス的には食用のイメージが強くて、肉があまり取れなさそうな小さいウサギは気に入らなかったらしい。
まぁそんな感じで動物を見つけては見物、薬草や毒草、キノコを見つけては採取して加工できる時には加工してを繰り返しながら移動を続けた。
何度か進む先が暗くて見難くなったので木の上で寝たり、地面の草を刈り取って簡易的なキッチンを用意して食事を取ったりもしつつ、のんびりと移動した。
その途中で水音が聞こえたのでそちらへと進み、誘われる様にその場所へと辿り着いた。
「ほぉー随分と綺麗な湖、じゃねぇな水の流れ的に泉か。綺麗な泉じゃねぇか」
「えぇ、本当に綺麗ですね。水の透明感も、水底に輝く石も綺麗ですし。あれって多分ですけど、翡翠ですよね?」
「多分な、まぁ取り敢えず暫く居座らせてもらおうじゃねぇか。採取した毒草の加工とか、手加減用の武器とか作ってしまおうぜ」
「はい!」
それじゃあ始める前に、許可だけ取っておくか。
どうやら先住者が居るようだしな。
泉の中心部、水が湧き上がって来ている場所に向けて比較的大きめに声を掛ける。
「という訳で、暫く此処に居座るぞ!!」
『えぇ、どうぞ。殆ど誰も来ない場所ですごゆっくりお過ごし下さいませ。
魂を震え上がらせる恐ろしさを持ちながら、命への正しき礼節を持った猛きお方』
声を掛ければ、泉の中から全身が流水で構築され、瞳は翡翠のような輝きを放つ人型が現れる。
サッと覗いたが魂の在り方が普通の生物とは違ったので、おそらくコイツはリーズィから軽く話に聞いていた神の力の断片であり端末らしい、精霊と呼ばれている生物だろう。
まぁ言葉が通じるなら対して気にする程でもないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます