母親への誓いと旅立ち
「美味いな、これも」
「そうですね、お酒にもよく合います」
「満足いただけているようで、用意した身としてはとても嬉しいですね」
ヴァイスが持って来ってくれた海鮮料理に舌鼓を打ちながら、そっと思考をクリーンにする。
……ただ持って来ただけでは無いのだろう。何かを聞きたい、もしくは問い掛けか。
待つのも癪だな、こちらから切り出すか。
「……ふぅー、さてヴァイス一体どんな用件だ?」
「??」
「やはり気付きますか、流石ですね」
「当然だ、お前との付き合いも長いからな」
「ふふふ、それはそうでしたね。
もう千年近くですか? こうして交流をするようになりましたのは」
「そうだな、俺の傷を無くした日から考えると、確かにそのくらいにはなるか?」
「であるならば、溜めておく理由はありませんね」
「龍峡の外で生きる覚悟はありますか?
この極限的に恵まれ、満ち溢れている環境から出ていく事に覚悟は持っていますか二人とも」
「何もかもが落ち、龍王陛下の代わりとなる供給源を見つけなければ蜥蜴に堕ちます」
「その覚悟がありますか?」
覚悟ねぇ、俺に取っては不要だな。
食わなくても生きれる、死ねばエネルギーは回復するし、もう堕ちる限り堕ちているからな。
………グレイスはそうはいかないが。
かつての龍峡のドラゴンは死を避けるために龍王に依存しなければ生きれなかった。それ故に、未だに龍峡には龍王の力が流れ込みそれを取り込みながら子は育ち、成龍は生き続けている。
その龍王の力がない場所に行く、それは次第に力を落とし理性を溶かしていく事に帰因する。
「俺は覚悟済みだよ、最初からな。
そうでなければ、態々此処を出ていくなどという理由がないだろ? 俺は生きれるよ、堕ちれるとこまで堕ち切っているからな。
俺は最初から底に生きているんだよ、ヴァイス。
もはや堕ちる場所など、あとは死なない俺が死んで地獄に堕ちるだけだよ」
「なるほど、グレイス貴方は?」
「出来ています、というかもう龍峡のドラゴンではありませんよ私」
「はい?」
「は?」
「シアンティ様が研究していたドラコー様の血。
それを取り込んでいますので、私の力の供給源はもう既に龍王陛下から外れ、ドラコー様ですよ?」
はぁ!?
いやちょっと待て、聞いてねぇぞシアンティ!!!
確かに誰で実験したとか聞いてないが! その実験結果がどうなっているか聞いてないが!! 実験の成功検体が此処にいるってどうなってんだ!!!
「……いつからですか?」
「どのくらい前でしたっけ? 三ヶ月くらい?
シアンティ様が検体を探しておられましたし、ドラコー様に殺されるのならば一興でしたので。
普通に適合しましたので、こうして生きてますが」
「そうですか.....ドラコー様はこの件を知っておられましたか?」
「全く知らん、今初めて聞いた。
なんならあいつが研究に使った検体がドラゴンだっていうことも今知った」
「………そうですか」
ふぅーー、落ち着け俺。
血を取り込み適合したとはいえそれは俺と同じ特性を持っているというだけだ。呪いを取り込み、死と再生を繰り返すという種族的特性。
・・・・・・・ついでに不老で不死で不変だな。
責任問題じゃねぇかなこれ。
「想定とは違う事実が分かってしまいましたが、分かりました。貴方達がこの龍峡より外に出て生きていく覚悟があるという事が。
そうであるならば、私は貴方達の旅立ちを祝福いたします。より良い物となりますように」
「あ、あぁ感謝しよう」
「ありがとうございます、ママン」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ついでに聞いてくれヴァイス」
「……どうぞ」
まぁ仕方ない、こうするしかない。
元々嫌いでは無いどころか好きな部類ではあるのだから、俺的には問題ない。
グレイスの気持ちは、分からん。分からんが、俺に殺されるのならいいと考えているくらいだし問題ないだろう。
「意図しない形とはいえ娘の種族を変えた。
あいつの考察が正しいのならばもうグレイスは俺と同じだ。死んでも再生し、不老になり、不死になり、不変である種族的特性を望まずとも持ってしまう。
その責任を取りたいと思う」
「……はい」
「グレイスを俺の伴侶にする。
これが腹を切って詫びれない俺が出来る最良だ」
「へ!?」
「娘をお願いします。
気が付いたら種族を変えているような変な子だし、当たり前のように成龍を捻じ伏せるような豪傑ですけれど、良い子ですので」
「あぁ、任せてくれ」
「いやーあのー、お二人とも恥ずかしいんですが。
結婚出来るのは嬉しいですけれど、人の目が比較的にある場所で、そんな会話をされるのはいくら私でも恥ずかしいんですよ?
…………私が悪いのか? いや悪いな。言わなければよかったかもしれない。もう少し後になって、心を鷲掴みにしたくらいに言うべきだったか...」
_______________________
俺の肉体が変質させられているという事実以上の衝撃的な真実を知り、結婚を誓った宴の翌日。
日が中天に昇った頃合い、真体のリーズィに見送られながら俺とグレイスは龍峡の外に向かっていた。
しばらくは戻って来ない、次に戻ってくる時は定住地を見つけた時くらいだろう。
あの後盛り上がりが最高潮を超えた宴の中で別れを告げ終えたので、思い残すことは無い。
「じゃあなリーズィ、行ってくるよ」
「行ってまいります、龍王陛下」
「あぁ、さらばだ。良き旅路となるようにな」
リーズィに最後の挨拶をして、グレイスを連れて龍峡の外の大地へと降りて行く。
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