龍峡での大宴会
「うむ、本来ならば本日の主役に挨拶をさせる予定だったが、何を言えばいいか分からん、そもそも声がとどかないと言われたので、俺が代理で挨拶を行う。
存分に楽しめ!! 我が友が我らの代表と共にこの龍峡を旅立つ前夜だ!! 祝い! 騒ぎ! 我が友らの旅路が愉快で素晴らしきものとなる様に、楽しもうじゃないか!!!」
「「「「「ウオオオォォォ!!!!!!!」」」」」
リーズィに押し付けた音頭とそれに乗ったドラゴン達の歓声と同時に宴の幕は開かれた。
皆思うがままに食事を摂り、酒を飲み、談笑する。
それを見つつ、宴前に掻っ攫ってきた酒を飲む。
「・・・良い景色だ」
活気があり、見ているだけで不思議と心の奥底から満たされるように感じつつ、言葉を溢す。
珍しい肉に目を眩ませ一心不乱に食べる幼龍、そんな幼龍の姿を優しく眺めながら同じように肉に舌鼓を打つ成龍、酒を片手にはしゃぐ若いドラゴン。酒の自慢を始めた老龍に、余興代わりの相撲を始めたドラゴン達。
素晴らしい光景だと、心から言える。
そう多くは見れないだろうが、こうした光景が見れるような場所に生きてみたいと思いつつ、酒を傾ける。
「おう! 食ってるか!」
「ん? いや、まだ食ってないな。
酒をじっくりと嗜みつつ、ここから眺めていた」
「そうか! まぁそうだと思って持って来てやった!
何の肉だったか? まぁ取り敢えず美味いぞ!」
「くく、それは心配していないさ。
………リーズィ、感謝する」
「こちらこそだ。お前がいなければこうして大勢で食事を共にする事も、我らは無かったのだからな。
こうした面でも、俺はお前に感謝している」
「それなら、良かったさ」
肉を片手にいつの間にか近づいて来ていたリーズィと軽く話し、酒を軽く飲んで肉を手に取る。
木で作られた串に肉の塊を刺した
...美味いな。言葉に出来ないほどの旨みが溢れ、塩味と美しく混ざり合って、美味い。
味はかなり濃いが残り続ける事なく、二口目三口目と食欲を刺激する味わい。だが同時に酒と合わせれば、より一層酒の味を際立たせる。
「……………あぁ」
「これからどうする? 俺は久しぶりにあいつらと食事を共にしてこようと思っているんだが」
「俺は、此処にいるかな。
こうして眺めながら酒を飲むだけで充分だし、多分お前のように料理を持って来る奴もいるだろうしな」
「そうか、では存分に楽しんでくれ友よ」
「お一人ですか?」
「ん? あぁそうだ」
「それではご一緒してもよろしいですか?」
「いいぞ」
「では失礼します。あ、野菜を献上します。
大農園の新鮮野菜ですので、美味しいですよ」
「なるほど、ならばこっちからは肉をやろう。
よく見てなかったが、かなりの量を置いていかれたのでな、食うのに協力してくれ」
「分かりました、お任せ下さい。
母からお前はよく食べすぎると言われた私に」
「まぁ、存分に食べるといい」
リーズィが去って数分後、グレイスが野菜を抱えて現れたので、隣を空けて座らせる。
美味しそうに口に肉を運び込んで行くのを眺めつつ、持って来てくれた野菜を食べる。手に取ればすぐに分かるくらいの質量に瑞々しさ。スッと口に運び噛めば、野菜の独特な甘みが口に広がる。
酒と肉に染まった口の中をリフレッシュさせてくれるその甘みは、何処となく優しさを感じる。
良い物を用意してくれたし、持って来てくれたな。
「ん〜、美味しいですね」
「あぁ、そうだな」
「あ、そうでした。マクシムさんから伝言がありますけど聞きますか?」
「ん? 何だ、聞かせてくれ」
「分かりました。
えーっと、『無様な敗北を喫したから会わす顔が無い歩む旅路がより良い物であるように、この場所からお前たちを祝福している』とのことです」
「そうか、最後に会っておきたいと思ったんだがな」
「浴びるようにお酒を飲んでましたし、もう少ししたら酩酊する気がしますので会いに行ってみます?」
「いや、止めておこう。会わす顔が無いと言っているのならば会ってやらない方がいい。
寂しいが、あいつならばその内吹っ切れるだろう」
「そうですか? あ、そのお酒下さい」
「そうだ、これか? ほら、コップはあるか?」
「持ってますよとご安心ください。
……ん、美味しいですね。これって秘蔵酒ですか?」
「ジジイどものを掻っ攫って来た。まぁ無くなった事に気づかれても、俺たちは既にいないしいいだろう」
「そうですね、楽しみましょうか」
グレイスと二人、宴の中軽い会話を回しながら飲食を共にする。肉を食べ、酒を飲み、野菜を食べ、酒を飲み、そして肉を食べる。
途中で料理のお裾分けに来ながら話しに来る者の相手をしつつ、ゆったりとした時間を過ごす。
程よい時間を過ごしながら、今後の事に思考を回す。
何処に行こうか。
一人旅だからこそ道を決めなかったが、一人じゃなくなったのならば道を決めたい。とはいえ世界の地図があるわけでも無いし、行く宛があるわけでも無い。
………国か集落でも探そうか。
取り敢えず龍峡の外がどんな感じなのかを知りたいし、そうした知識がありそうな場所を探そう。
見た目は純粋な人間じゃ無いが、まぁ受け入れられなかったら記憶だけ抜き取れば良いか。手を出されたのならば消せばいいしな。
「悩み事ですか?」
「悩み事ですかだったな。もう解決した、問題ない」
「そうですか?」
「そうだ」
「なるほどー、でしたら何か食べたい物はありますか? ちょっと無くなりそうですので」
「?? 何が起きた? っと、食べたい物か?
海鮮類があれば、その辺りを食べたい物だが」
ちょっと考え事をしていると、軽い山くらいにはあった肉が底が見えるくらいには減っていた。
理解は出来なかったが、取り敢えず望みを聞かれたので味変のために海鮮を要求してみる。
「でしたら取って来ます。確かあったはずですので」
「そうか、すまないな」
「問題ありません、従者ですので」
「そろそろ海鮮が欲しくなる頃合いだと思いました。
娘と仲良くしていただいているようで、母親としてはとても嬉しいですね。
適当に並んでいた海鮮を集めて持って参りました、どうぞご賞味くださいませ」
「ヴァイス? 態々すまないな」
「ママン、ありがとうございます」
「いえいえお気になさらず。
それより席を一緒してもよろしいですか? 旦那が飲んだくれ達に取られてしまいまして」
「あぁ、いいぞ。いいよな?」
「勿論です、ママンはそこの椅子にどうぞ」
「では、失礼します」
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