エピソード2 王国での待ち時間編

第19話 都の片隅にある酒場にて

「すぐに大金がもらえたりは……しないかあ」

 赤い髪の可憐な美少女姿のエイヴェリーが腕を組んで難しそうな顔をしながらぼやいていた。

 そのまま色々と諦めたように椅子から両手を上に伸ばしてのけぞると、形の良い胸の膨らみが突き出して強調されるような姿勢になってしまい。周囲の荒くれ者の男たちから嬉しそうな視線を向けられてしまっていた。

 いわゆる冒険者たちの集う酒場で僕たちのパーティは卓を囲んでいるのだけれど、この可憐な美少女剣士が昼間から出入りして、泥酔こそしていないけれど飲み食いする姿は、他のお客の注目をかなり浴びている。

 僕と戦士のクレイグは、うちの可愛らしいリーダーに絡んでくる男が現れないように周囲に険しい顔で睨みをきかせつつ飲み食いをしていた。

(もっとも、僕の睨みが何の牽制になるかはわからないけれど)

 自分でも迫力がないと思っている僕はそう思いながらもリーダーの隣に座って周囲を見回していた。

 ここは、マクワース国の都であるカッキーサの街。その片隅の酒場。

 魔族の国と隣接して小競り合いを日々繰り広げているこの国は伝統もあり、前線に近いながらもこのカッキーサの都は強力な軍と立派な城壁に囲まれて安全な都だった。

 それでも魔族との戦いで活躍を、あるいは北方の珍しい迷宮を探索して一攫千金を狙う荒くれ者も多く流入しているので、こういった酒場には気性の荒いものもいる。

(まあ、僕たちもそんな荒くれ者のうち……だったはずなんだけれど……)

 僕も果実水に口をつける。

 もう片方の腕には赤ん坊がすやすやと眠っているのであまり動かないように気をつけながらだった。

 僕たちは、美少女姿のリーダーとこの赤ん坊のおかげであまり荒くれ者のパーティには見えないのだろう。若いのにすっかり落ち着いてしまったパーティか、どこかの貴族が趣味で冒険者をやっているのだろうかとひそひそ話をされているのが聞こえてきてしまう。

「キーリー! エイヴェリー!」

 そんな酒場の微妙な雰囲気の中で、よく知った声が聞こえてきた。

「お、ルーシー姉さん」

 エイヴェリーは嬉しそうに立ち上がると、その女性に対して両手を広げて出迎えた。

「久しぶりー。元気だった?」

 背の高い彼女はそのままエイヴェリーに勢いよく抱きつくと、少し身をかがめて頬ずりしていた。

 彼女の名前はルーシー・エリザベス・マーカム。

 長い耳が特徴的なエルフ族で、弓が得意なエルフの中でも素晴らしい腕を持っているちょっとだけ年上のお姉さんだった。案件によっては時々、パーティに入ってもらって手伝ってもらう準パーティメンバーのような間柄だ。

「置いていっちゃうなんて、寂しかったわ」

 エイヴェリーに頬と頬を密着させたままで僕の方を見ながらそう言った。エイヴェリーの赤い髪と、ルーシーの白い肌と銀の髪がいい感じの対照的でいつまでも見ていたくなる。

「すでにルーシーは他の依頼を受けて街にいなかったし、あと大迷宮に何日も野宿予定だったから……」

「えっ、ああ、迷宮で連泊? それは嫌ね。お断りだわ」

 僕の答えにいつも通りに楽しそうな笑顔でばっさりとした物言いで応じているルーシーだったけれど、抱きしめたままのエイヴェリーの何かに気がついてしまったらしくて、一瞬目を丸くしていた。

「ん?」

 エイヴェリーの両肩をつかんだままで、少し距離を離して上から下までじろじろと観察を始めた。

「え?」

 同じ様な驚きを何度もしている。

(まあ、それは驚くよね……)

 前のエイヴェリーを知っているなら、それはそうなるだろうと思う。特にルーシーは、男だったときのエイヴェリーのことがかなりお気に入りだったのでなおさらだろう。

「これは! 何?」

 いきなり両手で、エイヴェリーの胸の膨らみを鷲掴みにした。

「すごい。なんか、私より大きいんですけれど!」

 胸が無い……じゃなかった。スリムな体型のルーシーお姉さんは羨ましそうに顔を近づけてその膨らみを観察すると何度もその柔らかい感触を確かめるように揉みしだいていた。

「あ、あの。ルーシー姉さん」

 さすがにエイヴェリーも、姉さんだと強引に払いのけていいのか戸惑っているようで、恥ずかしそうに顔を赤らめつつされるがままになっていた。

(こんなエイヴェリーも貴重だな……)

 ここまでされるがままで照れている表情をみることは珍しいなと、この無遠慮なエルフの姉さんに内心では感謝していた。

「あまり揺すると乳がでちゃうから……」

 エイヴェリーは恥ずかしそうな表情で、ルーシーの両手首を掴んで押し返そうとしていた。

「え? 乳?」

 出した経験はなさそうなルーシーは、明らかに戸惑いつつ。『そういえば、さっき何かを見たような……』と思い出したかのように、視線を僕の腕に抱かれている赤ん坊に向けた。

 一瞬、変な顔をしながらも納得したかのようにうなずくと、そのまま今度は僕と目を合わせた。

「キーリーと、魔法を使った……そ、そういうプレイ?」

(何を想像したんだ?)

 ルーシー姉さんは、変な顔のままで視線が僕とエイヴェリーの間を何度も行ったり来たりしていた。

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