三花三星の少女たち ~Fates Entwined in Shadows~

雪広ゆう

プロローグ

EP0 Christmas Eve, 2025 ~惨劇~

 腹部から溢れる鮮血に悪寒を感じると、次第に意識が混濁し始める。

 今日は聖夜クリスマスイブ、月明かりが燦爛と照らす夜――そんな素敵な日には似付かわしくない血肉が焼け焦げる異臭が周囲を漂う。死の瀬戸際を彷徨う程の重傷を負いながらも、懸命に命を繋げ様とか細い声を上げる者達で溢れている。

 常日頃から大勢が訪れる大型複合商業施設モール・オブ・カーレッジ、加えて特別な日ともなれば当然にも賑わいは普段以上で、その分負傷者の数も多い。

 こうして傷を負って天を仰いでいる自身の無力さに感情が込み上げてくる。


「の、乃衣……」


 時間を追うごとに減り続ける助けを呼ぶ声に私の心は摩耗する。

 いっそ楽になりたいと、刹那的に脳裏に過る最低な思考を振り払う。まだ心残りがある……此処で諦められる筈もなく、遠のき始める意識を保つ為に親友の名前を呟き続ける。

 彼女は逃げ切れたのか? 私は花術フロリスを扱える生徒会役員と共に、今回の事件の主犯である私立山吹女学園の生徒会長、雨小衣しずくの凶行を食い止める為に命を賭した。

 雨小衣に気付かれる前に、非適正者の生徒会役員や親友である乃衣には、この場から出来る限り遠くへと避難するよう伝えた。

 でも残念ながら死闘の結果として被害の範囲は想定より拡大してしまう――。


「救護班は治療優先度決定トリアージを開始、分け隔てなく重傷者から優先的に治療しろ」

「はいっ!」


 そう遠くない場所から私立カルミア女学園の生徒会副会長、九冬春妃くとうはるひの声が耳に届く。

 彼女の指示に呼応する救護班の女生徒達、私の姿を発見するのに時間は要さなかった。発見した女生徒が春妃に報告する。そして駆け走る足音、霞む視界に春妃の蒼白な表情が映る。

 格好悪い事に最終局面で雨小衣の攻撃を食らい鋭利な氷針が腹部を貫いた。多量の出血が血溜りを形成し、意識が薄れ始めた事から致死量寸前のはず。

 動揺を隠せない春妃を安心させようと、私は精一杯の虚勢を張る。


「待ち……くたびれた、わ。……遅かったわね」

「あ、あぁあ……よく頑張ったな。沙枝、会長の治療を頼む」

「副会長、救急も警察もまだ繋がりません」

「ふうぅ……仕方ない。全島停電状態だ。私立ル・リアン女学院ル・リアンの冷泉会長に支援を要請済みだ。とにかく今は目の前の命を一人でも多く救え。踏ん張るぞ」


 切迫している状況下で頼み事し難いけれども、乃衣も含めて仲間達が心配で仕方ない。


「乃衣たちから……連絡は?」

「心配するな。私に任せておけ。すまん、アリシアから連絡だ」


 生徒会執行部に在籍する広報部長のアリシア・ヴェルヘルミナ・エーレンフェルトからの着信、連絡を受けた春妃の表情が少し陰る。

 会話内容を聞かれたくないのかに場を離れて会話する春妃。私に聞かれたくない内容なのだと容易に察する事が出来たが、今の私にそれを問い詰める気力はない。


「千華流が到着した様だ。陣頭指揮のため離れるが、心配するな。後は任せろ」

「そう、ね……千華流に、よろしくと。……任せたわ。少し、疲れた」

「ああ。沙枝は引き続き涼花を頼む。これ程の大惨事だ。救急の到着も時間を要さないだろ」


 脳裏に過る最悪が拭えない――ただ今の私は無力、無事を祈る以外に他なかった。

 そして惨劇から数日後、私はまだ病床に伏せていた。そんな私の下に、残酷な結果を伝えに来た春妃、そう祈りは儚くも散り、あの時脳裏に過った結末通りの結果となった。

 己の不甲斐なさに自責の念を抱いていた私には追い打ちを掛ける言葉で、私の精神的支柱であったと言っても過言ではない親友、私に寄り添い続けてくれた白守乃衣しらもりのえ

 だからこそだった。乃衣が死亡したとの知らせに瞬間は人生で一番と言っても良い程に泣きじゃくった記憶がある。茫然自失の状態と言えた。

 その惨劇が現在いまから約二十年前、昔の話――。

 春妃は私が乃衣の呪縛に囚われていると言うけれども、私は彼女が想像する以上に執念深い性格だ。乃衣を運命の楔から解き放つ、救う事が私の悲願、そしてその悲願が達成出来る段階まで私は辿り着いた。

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