輝く未来へ

人間宣言

 昭和二十年十二月二十五日、西暦に直して1945年12月25日。ヴァチカンである宣言が発表された。通称、「人間宣言」である。それはキリスト教の敗北を意味し、同時にその宣言を以てようやく白人種は人間の仲間入りをすることとなったのだ。

 その宣言の内容は以下の通りである。


 ・イエス=キリストはムハンマド同様に人間に過ぎない

 ・よって、ヴァチカンをはじめとしたカトリックは今までの詐術の罪科を償うために解散する

 ・同時に、キリスト教自体を宗教的に解散するのでプロテスタントは叛逆の矛先を速やかに収め、「神によって作られし土塊」ではなく「タンパク質という物質でできた一介の生物」として生きていくことを最後の神勅とする

 ・ゆえに、人間は特に神聖な生き物でも無ければ、人の優劣を肌の色などによって選別する行為は文明への犯罪である

 ・よって、ヤハウェ神は一介の山神としてパレスチナに帰還する

 ・但し、この宣言はムスリム諸君に対して一神教を棄却せよというものに非ず、我等キリスト教徒の文明的犯罪を、命以外の手段で償う宣言である


 ……まあ要するに、ヴァチカンの法王や枢機卿をはじめ、キリスト教徒繁栄の美名の下行われた植民地支配に対する償いへの、一つの答えであった。

 ここに、人間は人間たる所以を、神を名乗る形而上の存在より取り戻した!


 以下は、「ある海軍元帥」と従卒達の会話記録である。だいたい誰かわかるとは思うが、念のため名前は伏せておく。……尤も、聖上の正室を呼び捨てにできる立場と言えば、限られてくるだろうが……。

「……良かったんですか、こんな宣言強行させちゃって……」

「何、構わん。そもそも、キリスト教という物は共産主義者のいうところの「個人崇拝」を限りなく拡大解釈した物に過ぎぬ。それに……」

「それに?」

「自然の脅威を人間がどうこうできるなどという西洋の発想は、何れ行き詰まる。そんな自殺行為に、本朝の民まで巻き込んではならんだろう。やはり神は自然神が、自然に崇敬されるものでなければならぬ。誰かに強制された時点で、それは信仰ではなくただの洗脳なのだからな」

「……それは、そうでしょうが……」

「しかし、ここからが大変ですな」

「……よのう。人は、崇敬すべき存在無しに生きていけるほど、理性が発達しているわけでも無し、それに、崇敬する存在が無ければ、容易に獣にもなろうて」

「……故の、第三帝国ですか」

「まあ、若干荒っぽい手法じゃがの。白人種、生きるも死ぬも、かの伍長に託されたことになろうの。……さて、そんなことより五輪の準備をせねばならん。開催日はいつじゃったかのう」

「は、1948年7月から8月になりましょうか。昭和に直して五月ないしは六月から七月あたりですな」

「して、万博も同じ年に行うのじゃったか」

「ははっ」

「……したらば、従姪いとこめい良子ながこに伝えておこうかの」

「ははっ」

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