呂宋沖殲滅戦・離れ

 対空兵器は、近接信管が多数を占めていたこともあってか昇風に対して何の成果も出しえなかった。彼らの放った対空砲は一機の昇風も撃墜し得なかったのだ! そして、たまりかねて自棄になったのか、輸送船団に乗り込んでいたある海兵隊員が自衛のために輸送船に搭載していた対空ミサイルを昇風の編隊に対して独断で発射した! 当初、その対空ミサイルを発射した海兵隊員を見た他の対空要員部隊もまた、我も我もとミサイルを発射し始めた。何せ、乱発と言えるほどに素早くミサイルを発射した結果、彼らは死ぬまでに昇風の機数よりも多い数の対空ミサイルを空中に発射することに成功した。その濃密なミサイル弾幕によって、彼らの想定通りミサイルは昇風めがけて打ちあがり、炸裂した。当初彼らはその光景に歓喜し……爆風から飛び出してきた昇風を見て落胆した。まあ尤も、大半の彼らは落胆する前に命を終えることができたがゆえに、最悪の光景を見ずに済んだのだが。

 そして、彼らの不運はこれからであった。何せ、戦争の狂気に飲まれたのか、あまりにも多くの対空兵器を昇風に対して撃ちまくったのだ、いかな合衆国軍とはいえ、現場にまで物資を運ぶ必要があり、物資は物質である以上有限である。……そう、彼らは対空兵器を昇風に対してあまりにも多く放ってしまった。結果、後ほど飛来した攻撃部隊に対して、彼らが発射しえた対空兵器はよくてボフォース機関砲などの対空機銃、悪ければ海兵隊員などの小銃程度しか残されていなかった。何せ、戦後調査によれば拳銃を昇風に対して発砲した者すらいたらしいのだ、それはまさしく、局地的末期戦とすら言えた。

 そして、飛来した攻撃部隊本体は、「ゼロ・ファイター」こと零式艦上戦闘機の五二型、つまりは戦場の経験を経た後期形態が護衛する、空冷彗星をはじめとした流星や銀河などといった、外観だけでも奇抜に過ぎる昇風と比較すればごく普通の設計思想にのっとった、よく言って正統派、悪く言えば合衆国軍にとっては「いつものごちそう」に過ぎない、ジュラルミンでできた航空機であった。この攻撃部隊本体に対して先ほどの昇風に対してのような狂気じみた乱射をすればさぞかし大いなる被害を敵軍に計上させることができただろう。……まあ、そもそも昇風が突出した理由というものは、彼らに対空兵器を「むだづかい」させるための手段であったので、そのあたりは大日本帝国の方が何枚か上手であったといえるのだが。

 かくて、昇風に対して可能な限りの迎撃をした彼らは、本命の攻撃部隊への反撃能力を完全に亡くしていた。そして、悲劇は続く。流星こそ普通の雷爆撃に過ぎなかった(それでも脅威ではある)のだが、今回が初陣である銀河はなんと、アウトレンジ攻撃用の兵器を搭載していた! 実験も兼ねたことによって三種類に分かれていたが、その三種類の兵器は以下に分けることができる。

 1.我々の世界での通称「エロ爆弾」、対艦ロケット兵器

 2.スキップボミングをラーニングした、反張爆撃部隊

 3.新兵器、航空酸素追尾魚雷

1番は「ロ号弾」として有名であり、2番は敵の戦術をコピーしたものに過ぎなかったが、衝撃的なのは3番である。航空酸素追尾魚雷。文字通り、酸素魚雷の航空魚雷版であり、さらにそれはドイツ第三帝国の技術力によって魔改造された追尾性能を備えていた。ロ号弾こそ科学力の限界からあまり多くの戦果を挙げることには成功しえなかったが、2番を避けようとして3番によって爆沈する艦艇が多発した!

 解説は次号以降に譲るが、この「航空酸素追尾魚雷」がどれだけ恐ろしい兵器かは、戦果が証明している。何せ、この「殲滅戦」の結果、彼らは本当に誰一人として、生きて帰っては来れなかったのだから!

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