第6話


 時計を見た。


 時刻は7時20分。



 バスを降りて、大通りに出て、見晴らしのいい歩道橋のど真ん中で、すれ違う人の流れを見てた。


 相変わらず賑やかな街だ。


 錆びた柵の上に肘をつき、流れていく景色を追いかける。



 と言っても、別に景色を眺めたかったわけじゃない。


 探してたんだ。


 この道を通るのを知っていたから。


 ——友達で、幼馴染。


 私のよく知っている、1人の女子高生を。


 


 5分くらい経って、次第に車の流れも多くなった。


 会社に向かう人、学校までの通り道。


 眩しい反射光がフロントガラスにぶつかり、チカチカと煌めいている。


 コンクリートが揺れている音が聞こえた。


 アスファルトに染み込んだ大都会の騒がしさが、地鳴りを上げながら近づいてくる。


 見慣れたシルエットが横切ったのは、唐突と言えば“唐突”だった。


 雲ひとつない空。


 ビルの隙間に落ちてくる、青。


 街中の交差点を渡ろうとしていた。


 神戸高校の制服を来て、どすっぴんのボーイッシュヘアー。


 …相変わらず、手入れも何も行き届いていないな。


 歩道橋から見下ろしてた。


 信号が変わるのを待っている、彼女の姿を。



 とりあえず、元気そうで何よりだよ。


 サプライズでこっそり後ろから声をかけようと思ったが、やめにした。


 どうせなら、もっとびっくりさせようと思ったんだ。


 例えば、ほら、急に背中を押した時のように。



 「楓!」



 ヒッ!


 と驚いた様子で、彼女は視線を上げた。


 歩道橋の柵を掴み、私は身を乗り出してた。


 やっぱ、第一印象って大事だろ?


 彼女とこの世界で会うのは初めてだ。


 だから、思いっきり声を出そうと思ったんだ。


 久しぶり!


 なんて、照れ臭くて言えないから。




 ドタドタドタドタッ



 

 階段を駆け降りて、そのまま立ち止まっている彼女のそばまで一気に走った。


 少し怯えてる気がしなくもないが、まあ良しとしよう。


 逃げられないだけマシだ。


 楓は足が速いから、逃げられたら追いつけない。


 だからセーフ。


 膝に手をついて息を整え、落ち着いたところで顔を上げた。


 「おはよう!」


 そう言うと、彼女は首を傾げた。

 

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