初仕事
「明日はお昼前に
今日は学校でプールが解放される日だったのに、行けなくなっちゃった。最初に話を聞いた時は断ろうかと思ってたんだけど、サファリパークに連れてってくれるなんて言われちゃったら、流石に行くしかない。だって行きたいし、サファリパーク。
今は夏休みで早く起きる必要は無いけれど、学校に行ってる時と同じ時間に起きるようにしてる。一応学校でラジオ体操とかやってるし、友達も来てたら遊ぶ約束だってできるからね。
それにもし約束できなかったとしても、夏休みの宿題だってあるし、ちょっとずつ進めておけば夏休みの終わりの方でも慌てる事も無いし、早く終われば沢山遊べるしでいい事ばっかりだ。
今日も朝は学校まで行ってラジオ体操をしてきたんだけど、今日は友達が来てて「今日学校のプール行かない?」ってせっかく誘ってくれたのに行けないのは、少し残念だった。
でもまだまだプールが開放される日はあるし、その時に行けたらいいな。
宿題を進めてたら約束の時間まであと三十分も無かったから、急いで準備をして研究所に行く準備をして
「
今日は天気も良くて絶好のプール日和。プールで遊んでるみんなは絶対に楽しいだろうな。なんて羨ましくなっちゃうけれど、今日の用事が終わったらサファリパークに行けるから、そっちも楽しみなんだけどね。
十分くらいで研究所に到着し、メインホールの扉を開けて中に入ると、休息スペースのベンチにおじさんが座ってるのが見えた。手に持ってる紙を見てて私には気付いてない。
「こんにちは、おじさん」
「やあ、悪いね。夏休み中なのに呼び出しちゃって」
「いいよ別に。だって、サファリパークに連れてってくれるって言ったから。それで私は今日、何をすればいいの?」
「今日来てもらったのは、これがあるからなんだ」
「え、なにこれ?」
いきなり持ってた何枚かの書類を渡してきた。
そこには顔写真と名前とかどこの学校を卒業したとかが書いてあった。
「それは今日入ってくる新人の履歴書さ」
「これ私が見ても大丈夫なの?」
「全然問題ないよ。だってこの後会うからね」
「会うの?私がこの人たちに?」
何をするのかと思ったら、まさか新しく入ってくる人たちと会うなんて思わなかった……それなら先に言ってほしかったな。
「そうだよ。今から彼らの所に行くんだ」
「……それって私が行く必要無いと思うんだけど」
「いや、今回は君の協力がすごく必要なんだ。行く途中その説明をしながら行こう」
「今回君に来てもらったのは、さっきも言った通り新人たちと会ってもらうためだ。問題は、その新人の中にうちの事を探りに来た
「この人たちの中にそんな人がいるの?どれも普通の人にしか見えないけど」
「この中にいるのは確実なんだけどね……誰なのかまでは分からなくて」
「それで私を呼んだんだ。でも、子供の私が行っても大丈夫なの?怪しまれたりしない?」
「どう説明するのかは知らないけど、その辺は上手く誤魔化してくれると思うよ」
おじさんはこう言ってるけど、ちょっと不安だ。私の事を一体どんな感じに説明するんだろう?
「さ、着いたよ。ここだ」
着いた部屋はいつも会議とかで使われてるような部屋。ここって確か結構大きな部屋だったと思うんだけど、今回入ってくる人の数がこの書類通りならもうちょっと小さいところでもよかったと思う。
それにここって、メインホールからわざわざエレベーターに乗る必要があるし、距離もあるから、もうちょっと近いところでもよかったんじゃないかな。
「失礼します——ってあれ?まだ誰も来てないみたいだ」
「本当にここで合ってるのおじさん?間違えたりしてないよね?」
「えっと、ここで合ってるはずなんだけど……少し座って待つことにしようか」
本当にここなのか私は知らないから少しハラハラしたけど、私たちが座ってすぐに次々と人が集まり始めたから安心した。
研究員さんと戦闘部隊の人が十人ずつ来て、おじさんはその人たちと何か話してる。私は知ってる人がいないから、何にもすることが無いし早く始まってほしい。早く終わったら帰って宿題とか進めなきゃ。
「入ってくれ。この部屋で最終面接と、説明を行う」
外から所長さんの声が聞こえてきたのと同時に、さっきまで緩かった雰囲気が緊張感のあるものに変わって、なんだか私まで緊張してきた。
所長さんと一緒に入って来たのは、大学生くらいの人たちと博士っぽい見た目のおじいさんで若い人の方が多い。
今から私は、この中にいるスパイを探さないといけないんだ。上手くいかなかったらどうなるかって考えると、イヤな想像が止まらないし、緊張で体に力が入る。
「そういえばおじさんからもらった
「それは大丈夫。スパイが紛れてるのは研究員の方って事までは分かってるから」
「そこまで分かってるなら、もうちょっと調べたら分かりそうだけど」
「いや、その通りなんだけどね……時間が無くって」
「別に成功しなくてもいいんだし、そんなに緊張しないで大丈夫さ」
私の様子を見て気を使ってくれたのかもしれない。でも四人しかいないから、多分大丈夫だとは思うけど……とりあえずやってみよう。
前に見たスパイものの映画とかだと、結構年上の人が凄腕のスパイだったりしたから、最初は四人の中で一番年上の——あの髪が白くなったおじいさんから調べてみようかな。
(まさかこの年になって新しい職場が見つかるとは……人生何が起きるか分からないものだな)
結構怪しいと思ってたんだけど、違うみたい。一番怪しいと思ってた人だったのに、予想が外れちゃったけど残りの三人の中にいるかもしれないって事なんだよね。
何だかみんな怪しく見えてきた……ササッと確かめて終わらせたいな。
(ま、まさか僕が最終面接まで残るなんて……で、でもまだ詳しい説明すら聞いてないのに、合格したとしてもこれからやっていけるのかな……?)
猫背で落ち着きのない人も違う……キョロキョロ見てるから怪しい感じがしたんだけど、またはずれ。
(う~眠い……最終面接が今日だった事忘れて夜遅くまで起きてたから、眠いったらありゃしない)
目の下に大きなクマのある人でもないし、残ったのは何というか普通って感じの人だけだ。なんだかもういないんじゃないかとも思っちゃうけど、この人は普通過ぎて逆に怪しいような気もする。
まあもし本当にスパイがいるなら、この人で確定なんだけど……どうなんだろう?
(ふぅ。とりあえず、ここに入れそうで一安心だ。あとは早く最下層の情報を得たいところだが、時間がかかるだろうな)
この人だ。だって最下層のこと知ってるし、間違いないよね?もし違ってたとしても今一番怪しいのはこの人以外に居ない。とりあえずおじさんに言っておこう。
「どうかした?もしかして、何か分かったのかい?」
「うん。もしかしたら間違ってるかもしれないけど、この人だと思う」
「なるほど……とりあえずここを出よう。ここであんまり話せない事だから」
さっきの人の書類を手渡すと、おじさんは私を連れて部屋を部屋を出る。どこに行くのかと思いきや、結局メインホールまで戻って来た。
「この人の可能性が高いのか……何か決めてはあったりする?」
「最下層の事知ってるみたいだった」
「やっぱり欲しい情報はそこか……ほぼ確定だな。本当に助かったよ、ありがとう。ちょっと電話してくるから、帰っちゃっても大丈夫だよ」
帰ってもいいっておじさんは言ったけど、まだ帰る気は無かった。
だってあの人がこの後どうなるとか気になるし、やっぱりとか言ってたのも気になるからそれを聞いてみたい。
「あれ?まだいたんだね。何か聞きたい事とかあった?あったなら先に聞いておけばよかったね」
「……あの人ってこの後どうなるの?」
「この後は……
普段なら言わないようなことを言うって事は、聞いちゃったら怖くて一人じゃ寝れなくなりそう。これは絶対聞かない方がいやつだ。
「う、うん聞かないよ。それともう一つ聞きたくって、さっき最下層の事知ってるって言った時にやっぱりって言ったけどなんでなの?」
「ここにスパイとして来る人のほとんどが、最下層の事を知りたがってるんだよ。彼女の持つ能力はとてつもなく強力だからね」
「ふーん。でも知ってどうするのさ、真似でもするつもりなのかな?」
「多分そうしたいんじゃないかな。完全再現とまではいかなくても、ある程度の真似はもしかしたらできるかもしれない。流石にそんな事されたら、とんでもない事になるのは間違いないからね……そろそろ行かないと。この後はやることが出来ちゃったし」
私としては冗談みたいな感じで真似するつもりって言ったんだけど、あんまり間違ってなかったみたいだ。
それにしても能力を真似できたとしても何に使うんだろう。ついでに聞こうかと思ったら、スパイの事で忙しくなるみたいだったから聞くのは諦める事にした。
「じゃあ、私も帰るよ。宿題とかもあるから」
「今日は君のおかげで、うちの情報が抜かれずに済んだよ。ありがとう」
「約束のサファリパークに行くのは夏休み中がいいな。……忘れて無いでしょ?」
「大丈夫、覚えてるよ。そうだな……八月の中旬くらいになるかも。また電話するから、その辺りは一日くらいは予定を入れないでね」
「うん!じゃあねおじさん」
帰った後は宿題をやったり、映画を見たり、漫画をいっぱい読んだりしてその日は終わった。夜更かししたから次の日はちょっと眠かったけどね。
そういえば、私の事をどう説明したのか聞いたら、私はおじさんの親戚の子供って事になってたみたいだ。ただの親戚の子供があんな所にいるなんて、普通じゃないって疑われると思うんだけど、もう終わった事だし気にしないことにしよ。
それよりも今度行くサファリパーク楽しみだなあ。
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