覚醒したその裏で

あたしが駅に着いた時には、空森彼方はすでに駅から居なくなっていた。


「改札近くって言ってたのにいないじゃんか……どこ行ったんだ?」


駅を出て周りを見渡すが、彼女の姿はどこにも見えない。どこに行ったのかは分かってないし、探すのに向いてないあたしの星典じゃあ時間がかかる。


「しまったな。こうなるって分かってたら、永塚に任せたんだが……とりあえず永塚にメッセージ送って探しに行かないと」


【彼女がいなくなった】とだけ書いて送信し、解析班にも捜索の手伝いを要請する。永塚が探すよりは時間がかかるだろうが、少なくとも自分一人で探すよりはマシなはずだ。


駅を出てすぐに返信があった。送り主を見ると解析班からで、あたしが着く数分前に駅を出ていく姿が駅の監視カメラに記録されていたようだ。

向かった方向は中河原美咲の家の方向、やっぱり心配になって見に行ったんだろう。とりあえず行き先は分かった。まだ数分前の事だから急いで行けば追いつくかもしれない。




「もう別のところに行ったのか。この辺は監視カメラとかも無いし、解析班も時間がかかるだろうな。目撃者は——ん?」

「さっきの子はもう追いついたのかな?」

「どうだろう?公園の方に向かうのを見たのはちょっと前の事だし——」


目撃者を探そうとしたら、近くで二人の女性の話し声が聞こえてきた。話を聞く限りだと公園の方に向かったようだが、ここから近くの公園を調べると彼女が向かった先に、一つあるのが分かった。


まだそんなに離れてないはずだから、駆け抜ければ追いつくかもしれないな。流石に人目の多い住宅街で星典を使うなんてできないから、普通に走るだけなんだが……これがまだごまかしの効く都心のビル街とかなら、もっと速くいけるんだけどさ。




公園に到着したはいいが、公園やその周囲には人の姿なんてどこにも確認できなかった。

手掛かりも無く、振り出しに戻ったかと落胆したその時——。


「なっ、なんなんだよ!お前のその目は!」


少し離れたところから大きな声が響いてきた。近くには大きな通りがあるにも関わらず、ここまで声が聞こえてきたのは運が良いと言ってもいいだろう。


(そのって事は……思い当たるのは一人しかいない)


叫んでる奴が目について言及してるのはもう空森彼方彼女で確定だ。

だが、不安なのは彼女の瞳が分かるくらいに変化してる事。彼女が宇宙の瞳を持つ者なら何が起きてもおかしくない。

下手したらここ一帯が丸ごと消え去る可能性だってある。発動する前に犯人をどうにかすれば、もしかしたら止まるかもしれない。


——しかし、現場に駆け付けた時にはもう遅かった。

犯人は自身の後方に発生したに吸い込まれて行く所をただ見ている事しか出来なかった。

そして彼女は疲労なのか、それとも精神的な安心感からか膝から崩れ落ちそうになるのを受けとめ、ひとまず横にする。

誘拐されかけた中河原美咲友達の方は雑に転がされてはいたが、目立った怪我は見当たらない。転がされた際に少々擦り傷があるが出血はしていないようだ。


「それにしても……覚醒したばっかだってのに、もうここまで使いこなしてるのか。いや、それとも瞳の性能か……?」


以前から宿していたとはいえ覚醒したばかりだから、彼女自身の才能である可能性は低いだろう。だとしたらとんでもない能力を持ってる事になる。

こんな性能を持ってるって知られたら、今まで興味を見せて無かった連中も手を出してくるようになるかもしれない。

まあもし手を出すつもりだとしても、この性能を目の当りにしたらそんな考え自体起こさないはずだが、多分高確率で命知らずの連中が出てくるはずだ。


「とりあえず永塚に連絡して、警察も呼んでおくか」


警察を呼んだのは、もし彼女らが目を覚ました時に説明してもらうため。あたしたちの事なんて言えるわけないし……上から許可が出たら言うかもしれないけど、言った所で信用されるはずがない。

それと救急車を呼んでおくか迷ったが、目立った外傷は無かったため、医療班を近くに待機させておくことにした。




「奥沢さん!空森さんたちは大丈夫ですか!?」

「声が大きい。もう少し静かにしてくれ」

「あ、すみません。つい……」

「気持ちは分かるし、まあいいよ。警察も呼んだし、到着したらここは警察に任せてあたしらは帰るぞ」

「警察に任せて大丈夫ですかね?」

「大丈夫だとは思うけど、心配なら見張ってるか?永塚なら目立たないようにできるだろうし」

「じゃあ……お言葉に甘えてここで見張る事にします」

「ならここで一旦解散だな。あたしは上に報告してから戻るから、もしかしたら少し遅くなる」


永塚と別れた後、先ほどの出来事を報告するために電話をかける。

今日は一日忙しかっただろうから出るまでに時間がかかるだろうと考えていたのだが、その予想に反して電話をかけてから十数秒で繋がった。


「もしもし、奥沢です」

「あ、奥沢?どうしたの……って報告の電話だよね?」

のぞみさんですか。こっちは落ち着いたので、先ほどあった事の報告をしようと思って」

「そっか。それなら母さんに代わった方がいいよね?母さん今暇だから代わるよ」


望さんが電話に出たと思ってたら返事をする前に話が進み、気が付いた時には当主様と代わる事になっていた。


「もしもし?今変わったわ。今日は大規模な作戦への参加ありがとう。あなたがいなかったら間違いなく時間がかかってたし、こんなに上手くいかなかったもの。それで報告があるって聞いたけれど、そっちで何があったのか聞かせてくれる?」

「はい、先ほど空森彼方の瞳が覚醒しました。その際、誘拐犯が瞳の能力によって排除されています」

「そうみたいね。私もさっき衛星からの映像で確認したわ」

「じゃあ、その後に誘拐犯を排除したあれは——」

「あれは黒渦ね、覚醒したばかりなのが信じられないくらい精度がいいわ。うちの孫と同じくらいかもしれないわね」


話はそれで終わって宿泊先のホテルに帰る事にした。少し距離があるから送ってくれると提案されたのだが、彼らにはまだまだやる事があるのに、わざわざあたし一人を送るためだけに時間を使わせる必要もなかったので断った。




「お帰りなさい。思ってたより遅かったですね」

「ああ、時間がかかったのは報告にじゃなくて、歩いて帰って来たから」

「あそこから歩いて帰って来たんですか?電話してくれたら迎えに行ったのに」

「今日あれだけ働いてるのに、しかも迎えに来てくれってだけの事で呼べるわけないだろ……」


ホテルに戻るとやっぱり永塚の方が先に帰っていた。あたしが歩きで帰ったってのもあるけど、多分タクシーで帰ったとしても永塚の方が早く帰ってきてたはず。


「そっちはどうだった?まあ早く帰ってたって事は特に何も無かったんだとは思うけど」

「あの後は特に何も無かったです。覚醒による反動も起きなかったので、とりあえず問題は無いかと」

「宇宙の瞳って聞いたことしかなかったけど、実際目の当たりにするとすごいな」

「そんなにすごかったんですか?」

「あとで衛星の映像を見せてもらったら分かるよ。今まで半信半疑だったあたしが目の前で見て考え直したくらいだから」

「奥沢さんがそこまで言うなんて……なんだか映像を見るのが怖くなってきちゃいました」


別に脅かすつもりは無かったのに、伝え方が悪かったのかちょっと引いてる感じがする。でもこの仕事をしてる限りは把握しておくべきだから、絶対に見てもらわないといけないんだが……。

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