覚醒
いくら待っても美咲は来ないし、電話をかけても全然でない。まさか美咲に何かあったんじゃ……。
(心配だし……ちょっと美咲の家まで戻ってみようかな)
急ぎ足で戻って来たけれど、途中で美咲に会う事も無かった。時間を確認すると駅を出てから五分程度しか経ってない。それなのに美咲が来なかったのは変な気がする。
車も無いし、少なくとも美咲の家族は帰ってきてないのは確実だ。
「まさか、まだ家に居たりして」
インターホンを押しても何の反応も無い。直接ドアを叩いてみようと近づいた時、ふと近くの植え込みに何かが落ちてるのが目に入った。
「……あれ?これって美咲の持ってる鍵じゃん。なんでこんなとこにあるだろ?……もしかして——」
美咲の家のドアには鍵がかかっていなかった。しばらくの間、全く理解できなかったけど、すぐに分かった。
おそらく美咲は私のお財布を持って家を出て、ドアに鍵をかけようとしたんだ。その時に後ろから誰かが来たのかな……?何があったのかは分からないけど、もしかしたら襲われたのかもしれない。
だって普段なら
何だかいつもより頭が冴えてるような気がする。いつもだったら、こんなにすらすらと推理みたいなことできないのに……まあ、想像でしかないんだけどさ。
でも美咲に何かがあったのは変わりない。早く探さないと。
「——さっきの子大丈夫かしら?意識が無かったように見えたけど」
「病院に連れて行くって言ってたから、大丈夫なんじゃない?」
「それにしてもあの子どこの子だったかな?この辺でたまに見るのに思い出せなくって……」
「確か中河原さんの娘さんじゃなかった?それに……あの男の人はこの辺じゃ見ない顔じゃなかった?」
二人の女性が近くの家の前で話してたのが聞こえてきた。そしてその話の内容は、中河原って言ってるから美咲の事で間違いない。
どうやら男の人が美咲を連れてったみたいだ。しかも美咲は意識が無いみたいだし、きっと何かに巻き込まれたんだ。
「すみません!その男の人ってどっちに行ったか分かりますか?」
「え?ああ、今の話の人の事?その人ならあっちの公園の方に行ったよ」
「ありがとうございます!」
公園の近くまで来たけど、周りに人は見当たらない。もう別の場所に行っちゃったのか、それとも車か何かで連れ去られた後なのか。嫌な想像が頭に浮かび始めた時だった。
「おっせえな、あいつら……!いつまで待たせんだよ。……しかも電話にも出ねえし、一人の子供に手こずってんのか?こっちは終わったってのに」
少し離れたところから怒鳴るような声が聞こえてきた。怒ってるんだけど、どこか焦ってるような感じがする。
それに聞こえてきた一人の子供ってのも気になる。もしかしたら美咲に関係あるかもしれない。
(いた!あそこだ……!)
建物の影に隠れて声のした方を見てみると、大通りに近い建物の影に誰かがいるのが見えた。ちょっと離れてるのと、影になってて暗いので見えずらいけど、大きな男の人がスマホを見てるみたいだ。
あの人すごく怪しい。待ち合わせしてるんだとしたら、あんな場所じゃなくてもっと見えやすい位置に居ればいいのに、隠れてるように見える。
美咲の姿は見えないけど、私の中ではあの人が連れてった人だと思った——っていうか根拠もないのに、そうだと確信していた。
(流石にここからじゃよく見えないな。あの人スマホばっかり見てるし、もっと近くまで行けそう)
隠れながら音をたてないようにこっそりと近寄ると、その人の後ろに何かが転がっているのが見えた。
(あれなんだろう?靴……なのかな?やっぱりあの靴って——)
「それにしても、こいつの
「おい!美咲から離れろッ!!」
売るって言葉が聞こえた時には、後先考えずに駆けだしていた。
「ん?何だお前……ってもう一人の方じゃねえか。まさか、あいつら失敗したんじゃないだろうな。まあいいや、とりあえず捕まえとくか。えっと、薬は——」
(何も考えずに出てきちゃったけど、この後どうしよう!?今から警察に連絡しても間に合わないし、でも美咲を置いて逃げるわけにもいかない。……そうだあの人には
そうは考えたものの……体が直立したまま動かなかった。しかも頭がフラフラするし、視界もなんだか立ち眩みしたような感じで前がよく見えない。
「なっ、なんなんだよ!お前のその目は!」
(なんだろう……?全然聞こえないけど、何か喋ってるのかな?)
さっきから何かがおかしい。頭も目も全然もとに戻らないし、しかも耳まで聞こえなくなってきた。
(——もう美咲と同じように気絶しちゃったのかな?)
「おいおいおいおい!体が——俺の体が、どうなってんだよこれ!?これやってんのお前だろ!?お前たちを解放するって約束するからやめ——」
さっきまで聞こえてる気がした大きな
「もしもし?大丈夫ですか?」
「うっう~ん……何かあったんですか?」
「通報があったんで駆けつけたら、あなたたち二人が倒れてたんです」
「そうだ美咲は!?」
「美咲さんはあなたより前に目を覚まして、今はあっちで事情を聞いてます」
誰かに起こされて目を覚ましたら、そこにいたのは警察の人だった。どうやら美咲は先に目を覚ましたようで、別の警察官と話をしてるのが見えた。
「それで、ここで何があったんですか?」
「美咲がそこに倒れてて……男の人が居たんです。そして私は美咲を助けようとして……その後の事は覚えてなくて」
倒れていたからなのか、起きたばかりなのかは分からないが、記憶が曖昧でよく思い出せない。
「彼方、無事だったんだね」
「私は何ともないけど、美咲は大丈夫なの?意識無かったように見えたんだけどさ」
「今のところは何の問題も無いよ。……それに家を出てからの記憶が無くて、男の人を見たのが最後なんだよね……」
「あのね、美咲はその人に誘拐されかけたんだよ」
「え?あたしが誘拐!?……なんで?」
「いや、流石にそれは私にも分かんないって……」
ここで何があったのかは分からないけど、とりあえず美咲が無事でよかった。ほっとしたのも束の間、次第に警察の人が多く集まり始めていた。そういえばまだ
「今この周辺で聞き込みをしたんだが、確かに夕方ごろ意識のない彼女を連れている所を目撃されている」
「じゃあ、やっぱりその人が誘拐犯って事でしょうか?」
「今日、この近くでその男の仲間と思われる人たちを捕まえてるんだ。その人かは分からないけど可能性は限りなく高い。だけど問題なのはそれ以降の行方が全く分かってない事だ」
「それじゃあ、その犯人はあたしたちを置いて逃げたって事?」
美咲が私の顔を見ながら言った。誘拐されかけた私が言うのもなんだけど、何で犯人は逃げたんだろう?逮捕はされたけど一応仲間もいたし、誘拐なんてするくらいなんだから他にもいたと思うんだけどな。
「聞き込みをした現段階では逃走したと判断してる。これから周囲の監視カメラなどの調査も行われる予定だ。——話はこれくらいにして、君たちを家に帰さない。って大丈夫かい?」
「どうしたの美咲?まさかまだ薬の影響が」
「ううん、違うよ。今まではそんなに怖くなかったんだけど、話を聞いてたら安心しちゃって腰が抜けちゃった……」
座りこむ美咲を見て薬の影響かと一瞬驚いたが、安心したからって聞いて少しホッとした。
犯人も逃げたから、安全の事を考えて私たちを家まで送ってくれるみたいだ。すごく安心したんだけど、パトカーに乗るのはなんだか緊張した。
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