危険度:レベル6 研究員の影

『今日の天気は快晴です。昼間の服装は薄着でも大丈夫ですが、夜は涼しくなりそうなので薄手の上着を準備しておいた方がいいかもしれません。以上天気予報でした』


テレビで天気予報が流れてるのを、朝ご飯のパンを食べながら聞いていた。朝のテレビなんて天気予報以外特に気になる事が無いから、いつもは朝ご飯をささっと食べて学校に行ってる。

でもこの日は、朝のニュースにしては珍しくて私もちょっと気になる事がテレビから聞こえてきた。


『——先日、奈良県の発掘現場で謎の発光現象が観測されたそうです』


ここに来る前だったら気にしないと思うそのニュースにご飯を食べる手が止まった。


『現場近くにお住いの方と、発掘していた大学教授にお話を伺いました』

『確か夕方の六時ぐらいだったかな?大学の先生とその生徒さんが発掘してる方向から真っ白い光が光って、この辺なんか昼間みたいに明るかったんだから』

『土を掘ってたらいきなりですよ。こう……ピカーッと辺り一面が明るく照らされたんです』


「茜ちゃん、もう時間だよ!早く食べないと学校に遅れちゃう」

「え?——うわっこんな時間!」


インタビューに夢中になって食べる手が止まってた事に気づいたのは、研究員のお姉さんに言われてからだった。


「ごちそうさまでした!いってきまーす!」


急げばまだ間に合う時間だったから、急いで口に詰め込んでうちを出た。




学校が終わって帰る準備をしてると、仲のいい友達が話しかけてきた。


「茜ちゃん。今日遊べる?」

「ごめんね……今日はこの後予定があるんだ。だから急いで帰んないといけないの」

「そうなの?残念だなー……じゃあまた明日ね!」

「またね、美咲ちゃん」


さっさと用事を終わらすために駆け足で寮へ帰り、ランドセルを置いて急いで研究所に向かう。

昨日突然おじさんから連絡があって、明日来てくれって言われてるんだけど詳しい事は何にも分かってない。

研究所あっちに行ってからもう一週間が経ってる。もしかしたら犯人でも見つかったから、その報告とかだったり。

——でも、報告なら電話とかでもできるから、多分違う。犯人探しの手伝いとかだったら、ちょっと嫌だな……。私なんてすぐに死んじゃいそうだし……。




研究所に着いたのにメインホールには誰もいない。いつもは研究員さんたちの話声とか、足音とかが聞こえるんだけど今日は私の足音だけがメインホールに響いていた。

この静かさに気味の悪さを感じながらエレベーターホールに行くと、ちょうど到着したエレベーターにおじさんが乗っていた。


「なんだ……静かだったから、みんなどっか行ったのかと思っちゃった」

「ははっ、いつもは賑やかだからね。今は急ぎの用事が出来ちゃって、大半が出かけてるんだ」

「急いでるって事は、また研究所が破壊されたの?」

「いや、今日は違うんだ。遺跡の発掘現場から発見された物の調査があってね、みんなそっちに行ってる」

「その話知ってる!朝のニュース番組で見たよ。奈良県の発掘現場で光を見たって言ってた」


そう——今おじさんが話した事は、もう朝に聞いてた事だったから驚いたりはしなかったし、私も何かあるだろうなとは思ってた。でもまさか大勢で調査に行くなんて想像はできなかったけど。


「知ってるなら話は早いね。今は人が居ないから臨時休暇みたいになってて、暇な人が多いんだ。ちょうどいいから会ってほしい研究員がいるんだけど……いいかな?」

「嘘は言ってなさそうだし、会うだけなら全然いいよ。変な実験とかするんだったら嫌だからね」

「実験なんてしないよ。会ってほしいのは超能力者なんだけど。……正確には少し違うと言えばいいのかな。待たせてるし、とりあえず行こう」


向かった先は、私が一度も行ったことの無い研究棟だった。自分のカードをスキャンして研究棟の中に入る。

研究棟の廊下を歩いてると、研究をしてるからか色んな機械とか実験に使いそうな物も置いてあったし、中には理科の実験で見たことのある研究道具もあった。

ここは超能力の研究所だから、やっぱり超能力の研究をしてるんだ。でも、銃とかの武器が沢山置いてある部屋があったのは何だったんだろう?ここでは超能力以外の研究もしてるのかもしれない。


「何か気になるところでもあった?」

「銃とかの武器が置いてあるのがちょっと気になって」

「結構目立つし気になっちゃうのも仕方ないさ。超能力者——変異生命体はね、みんなが友好的じゃないんだ。敵だったら超能力者君たちじゃない普通の人も先頭に参加することになる。だから武器の研究もしてるんだよ」


……超能力者でもみんないい人ってわけじゃないみたいだ。超能力にも色々あるはずだから、強い能力を持った人が敵だと戦うのも大変なのかもしれない。

もしかしたら、それを考えて今準備をしてるんだと思う。研究所ここもいつ襲われるか分かんないし、準備しておいた方がいいに決まってる。

その武器が襲ってきた奴に効くかどうかは分かんないけど……。




いくつもの研究室を通り過ぎて到着したのは休憩室と書かれた部屋。中はテレビとかソファとかが置いてあった。奥にはキッチンもあるみたいだし、ご飯もここで食べたりする人もいそう。


「あれ?時間通りに来たんだけど、まだ来てないのか……?」

「もう来てるぞー。今奥にいるから、ちょっと待って」


奥から聞こえてきたのは、女の人の声だった。

そして、その女の人は手にカップを持って奥から出て来てテーブルに座った。


「来るの少し遅いんじゃないか?」

「何言ってんだ……ちょうど約束の時間じゃないか。っていうか、この時間を指定したのはお前だろ?」

「うん?そうだったか?……まあ最近は色々と忙しいからな、気にしないでくれ」


おじさんとも仲が良いみたいだし、何だかクールな人って感じがする。でも、ちょっと目が怖い……。


「ああ、紹介がまだだったね。彼女は間中團まなかまどかって言うんだ」

「間中です。よろしくね。君は……最近入った最年少の新人だよね?」

「えっと、紅葉茜……です」

「やっぱり緊張してる?それとも間中の目つきは鋭いから、怖いとか?」

「目つきが悪いのは自覚してるが、今日は疲れてるんだから仕方無いだろう。ごめんね、目つきが悪いだけだから不機嫌とかじゃないんだ。あと呼び方はさん付けじゃなくてもいいよ」


怖いのは目つきだけで、間中さん——お姉さんは怖い人じゃないみたいだし少し落ち着いた気がする。そういえば超能力者に会いに行くって言ってたけど、間中さんが超能力者なのかな……?


「それで?今日は何の用で来たんだっけ?」

「その事も覚えて無いのか……。今日は最中もなかに会いに来たんだ。あいついつも暇だろ?今日も居るかと思ってさ」

「確かに最中はいつも暇してるが、今日は間が悪かったな。あいつにも出動要請が出て外に行ってるよ」


今日私たちが会いに来たのは最中って人みたいだ。残念ながら今日は居ないみたいだけど。おじさんたちの話では来たら会えるような人なのかな?いつも暇って言ってるし、そうかもしれない。


「……それ本当?最中まで行くとか、何が見つかったんだ」

「さあね。でもこれだけの人員を割くって事は、よっぽどの物が見つかったんじゃない?」


おじさんは最中さんが調査に行ったことをすごく驚いているみたいだった。普段外に出たがらない人だからなのか、それとも危険だからなのか——。

せっかく来たんだからどんな人なのか知っておきたい。


「その最中って人はどんな人なの?」

「最中は私によく似てて姉妹みたいな感じさ。超能力のは……どうする?今話すよりも直接会った方が分かりやすくないか?」

「直接会うって言っても、この先いつ最中と会えるか分かんないだろ。ただでさえ最近は忙しいから結構先になると思うし、今でもいいでしょ」

「お前がそういうならいいか。ライトをつけて……これでいいか。じゃあ茜ちゃん私の足元を見るといいよ。それですぐに分かる」


足元を見ても何にも分かんないと思うよって言いそうになるのを抑えて、おとなしくテーブル下に潜ってお姉さんの足元を覗いてみる。

そこにはあるはずのものが無かった。


「いや……あの、お姉さんの影が無いんだけど……」


さっきお姉さんがテーブルの横からライトで足元を照らしてるのに、お姉さんにだけ影が全くない。


「最中は私の影から生まれた変異生命体さ」


どうやら最中さんは影から生まれたらしい。…………どういう事なのかさっぱり分かんないけどお姉さんの言ってる事に嘘は無いし、おじさんも何も言わないし間違ってないみたいだ。


「……ふーん、影……から生まれたんだ」

「おい、茜ちゃん分かってないぞ。どうすんだよ」

「……流石に早かったかな。悪魔デビルとセブンに会ってるから大丈夫だと思ってたんだけどな」

「もう悪魔とセブンに会ってるのか。それでもあいつらとは違う……って言ってもセブンとは結構近い部類になるのか?」

「セブンはガス。最中は影の体を持ってるって言えば分かりやすいかな?」

「ふーん。セブンと似て影の体を持ってるって事?」

「まあ似たようなもんだよな?——おっと悪いもう時間だ。まだやる事あるからそろそろ戻んないと」


お姉さんはカップを片付けると、急ぎ足で行っちゃった。

セブンと同じって聞いて気になった事があったんだけど、お姉さんも忙しそうだったし聞こうとは思わなかった。まあ最中さんが帰ってきたときにまた会えたらいいな。

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