宇宙の外から

宇宙外のメガネ

変異物研究所

危険度:レベル1 一般家庭の少女

わたしが変わったのは今から半年くらい前の小学二年生の冬だったと思う。


家族旅行で富士山のスキー場に行った時に頭がふらふらになって少し休んだのを覚えてる。

初めてのスキーだったからだと思ってたけど、今考えるとこの時にわたしの中で何かが起こり始めてたんだ。


冬休みが終わって学校に行った時から何かが変だなと感じてたけど、この時は気のせいだという事にしてた。

でも変な感じは少しずつ大きくなって自分が分かったのは春に三年生になってすぐだった。


「ただいまー」

「あらおかえりなさい。今日は遅かったのね夕飯は外で食べてきたの?」

「いや、今日は残業で食べる暇無かったんだ」

この日はパパは夜ご飯食べてないって言ったけど、わたしはパパが嘘を言っているって何となくだけどそう思った。

今まで感じていた変だなと感じていたことは、もしかしたら嘘をついているのかもしれないとこの時初めて分かった。

だけど絶対にそうだと決まってないし、なんとなくでしか分からなかったし、この時のわたしはまだ普通の子供でいられた。


ゴールデンウィークが終わった後の学校で、なんとなくでしか分からなかったのが本当だと分かるようになってた。

「なあ小林さー、何で休み中電話してくれなかったんだよ。遊べたら遊ぼうって言ったじゃんか」

「父さんが色んな所に連れてってくれたからさ、そんな暇無かったんだ。中村ごめんな」

(ヒマな日はあったけど、家でダラダラしたかったし……でも悪い事したなぁ)

「そっか、それならしょうがないな!」

休み時間に聞こえてきた小林君と中村君の話。

小林君が話したときに心の声?みたいなのがわたしには聞こえてきた。

きっと小林君が嘘をついたから聞こえてきたのかもしれないけど、いきなり聞こえてきたからビックリして二人が話してる方を向いたら、友達から変な目で見られてはずかしい思いをした


このくらいの嘘ならショックを受ける人もいないと思ったし、わたしも特に気にする事は無いんだけど、大人の嘘は小学生みたいに優しくなかった。


学校からの帰る途中で商店街の近くを歩いていると、あまり聞きたくない事が聞こえてきた。耳を塞ぎたかったけど意味は無かったから聞き流すしかなかった。

(はぁ~この人の話は長いから面倒くさいんだよね。避けられてることに気付いて無いの?)


(ちょっと優しく接しただけで友達になるのは別にいいんだけど、頻繁に連絡してくるから鬱陶しいんだよな……)


他にも色んなことが聞こえてきたけど、あんまり思い出したくない。

でも、どの人もわたしの知らない人だったからそこまでショックは無くて、たぶん他人事のように見ていたからだと思うけど。


聞きたくもない嘘つきの心の声が聞こえるようになってから数日後

「ただいまー。ママいるー?」

靴を脱いでいるとリビングからママが出てきた。

「あらお帰り。寝てたから気付かなかったわ」

「はいこれ。漢字のテストが返ってきたの」

「へーどれどれ……七十点か。まあいいんじゃない?」

(まあまあな点数だけど、流石にこれが解けないのは……家庭教師か塾に通わせるか考えた方がいいかな)

ママは勉強の事はちょっと厳しいけど、今のところはわたしがショックを受けるような嘘をついてないみたい。

「次もこの調子で頑張るのよ」

「はーい」

テスト用紙を受け取るときにわたしとママの手が触れた時、わたしの頭に何かが流れ込んできた。


(やだ中川さんったら……お世辞が上手なのね)

(お世辞なんかじゃないですって。会うたびに綺麗になってますよ)

知らない男の人とママが高そうなレストランにいる光景がわたしの頭の中に入ってきた。


「ちょっとどうしたの?急にぼーっとしちゃって」

「ううん何でもない!」

何にも分からないままだったけどバレちゃいけないと思ったから、逃げるように自分の部屋に駆け込んだ。

閉めたドアに寄りかかり止めてた息を吐きながら座り込んだ。

「ママ知らない男の人と出かけてたんだ。浮気ってやつなのかな……?」


その日、ママと一緒に夜ご飯の準備を手伝っている時にパパが帰って来た。

「今日はママを手伝ってたのか。偉いぞー」

パパは笑いながら私の頭を撫でた。

そしてパパの手が触れた瞬間、ママと同じ事が起きた。


(藤田さんの娘さんはうちの子と違って表情豊かでかわいらしいですね)

(そんな事無いですよ。わがまま盛りで毎日大変です)

公園のベンチに座っているのはパパと女の人。そして二人が見てる先には私よりも小さい女の子が遊んでいた。


今笑ってるパパの顔は遊んでいた女の子を見てた時と同じ顔をしてた。

そして今パパの手が私の頭に置かれているのがすごく気持ち悪くて、すぐに振り払いたくなったけど何とか我慢できた。


そして五月最後の週私のストレスが爆発。

昼休みに男子のいたずらされた友達が泣いてしまう事が起きた。

しかもいたずらした理由がくだらない理由だったのに、謝らないから突き飛ばしたら先生も何人か来る大騒ぎになった。

怪我は無かったみたいだけど、先生は家に連絡をしたみたいで夜パパとママに問い詰められた。


「何で男の子を突き飛ばしたりしたんだ?」

「だって友達が泣いちゃったのに謝らなかったんだもん」

「本当にそれだけ?他に隠してる事とか無い?」

「怒ったりはしないから嘘を言わなくてもいいからな」

「嘘……?自分たちは沢山嘘を言ってるのに、嘘を言ってない私には嘘はダメって言うんだ」

急にこんなことを言ったから二人とも何も分かってない顔をしてた。


「ねえパパ?よく私を綺麗だねとか、かわいいねとか褒めてくれるけど……これ他の子にも言ってるよね?例えば……最近遅くなるって嘘ついて会ってる藤田さんの子供とか。そうだよねパパ?」

「あなた他の女と会ってるからってのは本当なの!?私たちに嘘までついて……」

「……何言ってるのママ。ママだってこの前友達に会うって言って会ってたの最近知り合った中川さんって人でしょ?それに出来が悪い娘だとか色々言ってたもんね?間違ってないよねママ?」

二人とも何も知らないはずの私が話したことに顔を青くして鯉みたいに口をパクパクとしてた。


「それにねー……」

今まで溜まってたモノをすべて吐き出すようにパパとママの嘘をすべて言った。

そしたら二人ともショックで変になっちゃったし、私の事を育てられないからって施設へと預けられた。


でも施設の先生とかも嘘ついて悪い事もしてたのに、子供には嘘はダメって言うから先生のやってる事を全部言ったら数日後には施設は解体された。


その後もこんな事が三回くらいあって、次の預け先が決まるまで大きな病院で預かってもらうことになった。


「やあ、こんにちは。君だね?最近児童養護施設とかを閉鎖させてるのは」

病院に来て二日目にいきなりおじさんがやってきた。

「なんですか、悪いのは施設の先生とかで私は悪い事してないです」

「そんなことは分かってるさ。それよりも君、人の心が読めるんだろ?」

何にも知らないはずのおじさんから心の声が聞こえる事を言われるなんて思わなかった。

「嘘をついてる人だけです」

「でも最初の時と比べて成長してるだろう?もしこのまま成長していくと色々と面倒なことになるんだ」

「最近いろんな事があって疲れてるんです。話が長くなるなら早く帰ってください」

数日ごとに施設を移動してたから疲れてたし、長そうな話を聞くのだけは嫌だった。


「じゃあ手短に。君をうちで引き取りたいと思ってね。そのお誘いに来たんだ」

「おじさんのところで?怪しいけど話くらいは聞いてあげる」

怪しいとしか思わなかったけど、私の事を知ってたから少しだけ気になって話を聞くことにした。

「うちは研究所でね。君みたいな超能力ってやつを持ってる人が何人もいるんだ」

「そんな所に私が行ったら今までの施設みたいになっちゃうかもしれないよ?」

「いやいや。君が入った程度で閉鎖するわけないじゃないか。そのくらいで閉鎖するんだったらとっくの昔に閉鎖してるよ」

おじさんが問題ないって言うならもう答えは決まってた。


「私そこに行きたい」

「えっと……そんなに急がなくてもいいんだけど、君はそれでいいの?」

「うん。ここに居るよりずっといいと思ったから。できるだけ早く行きたい」

お医者さんとか看護師さんたちは私のことを噂とかで聞いてるからか、あんまり近寄りたがらない。来たとしても嘘ばかりで気分も悪いし、別の所に移れるなら今までより少しはマシかもしれないし。

「分かった。手続きとかがあるから、行くのは明日にしよう」


次の日の朝十時にはおじさんが迎えに来てて、研究所に着いたのはお昼前だった。

「なんで周りに何もない森の中にあるの?」

研究所があったのは車の行き来も少ない静かな森の中にポツンと建っていた。外見は綺麗だったけど、こんな所にあるなんて思ってなかったから少し不安になった。

「うーん……簡単に言えば町中にあったらまずい物が沢山あるからだよ」

「まずい物ってなに?」

「流石に詳しい事はまだ言えないな」

「おじさん私の事を誘ったけど何も話してくれないじゃん」

「いや、話すよりも見た方が早いよ。特にここはね」

厳重な扉を開けて入ってくおじさんの後を追いかけて私も中に入った。


「なんか思ってたよりも普通」

「君はどんな想像をしてたんだ……」

おじさんから聞いてた話から気味の悪いイメージがあったけど、中は綺麗で不気味な感じは無くて少しほっとした。


「あらお帰りなさい。その子が例の?」

「そうです。今日からこっちに来たいって希望だったんで、今から案内する所なんです」

「これからよろしくね。お嬢さん」

すれ違う人たちはおじさんと話した後私にも声をかけてくれたけど、ここで働いてる人たちは私の事を知ってるみたい。


「ねえおじさん。ここ駅じゃないのに何で改札機があるの?」

「あの先は普通の人は入れないようになってるんだ。通るにはこのカードが要るんだよ。そしてこのカードが君のだ」

渡されたカードには名前と顔写真を入れるところが空白で、他にはレベル1と大きな文字で書かれてた。

「このレベル1ってどういう事?」

「その辺の詳しい事はエレベーターから降りた先で話すよ」

おじさんと同じようにカードを読み込ませてからエレベーターに乗った。


「そういえば超能力者が何人もいるって言ったけど一人も見てないよ?」

「ここの超能力者たちは普段は研究所の地下にいるんだ。これから会えるよ」

おじさんは私みたいな超能力者って言ってた気がするけど、絶対私よりも凄い超能力を持ってるに決まってる。

それに優しい人ばかりじゃないだろし、どんな人が居るのか考えるだけで緊張してきた。


「そろそろ着くよ……ってだいぶ緊張してるね」

「だってどんな人が居るか分かんないし緊張するよ」

「悪い奴はいないから大丈夫さ。まあ、クセが強い奴はいたりするけど」

おじさんがクセが強いって言ったのはいい意味なのか悪い意味なのか分からない。でもここでの生活が上手くいくかは不安になった


『地下研究エリアです』

そしてエレベーターが開いた先に待っていたのは———

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