第9話 神の子

「瞬君……っ!!」


鼓動は聞こえない。

それに普通の音とは違っていて……。


何かがおかしい。

瞬君ではないかもしれない、という希望が僅かにあった。


……でも。

見た目が完全に瞬君なんだよ……。


「……これじゃあ、真実を確かめられないじゃないですか……っ!!」


美麗は膝から崩れ落ちる。


「そうだ、皇さんは……?」


二人は一緒にいたはず。


「探しましょう。近くにいるはずです」


「ああ。瞬も倒してしまう強さだからな……。常に注意して、はぐれない様にするぞ」


「「了解」」


皇さんを探す。

瓦礫の下、家の中、道、木の上……隅々まで探した。


そしてやっと見つけたんだ。


皇さんと出会った、病院の中で。


「……こっちもかよ……っ!」


患者の手を握りしめたまま血で染まっていて……。


夏目の言う通り、こちらからも鼓動の音は聞こえなかった。


「あの時に別れていなければ……!」


「いや、別れて正解だろ。じゃなきゃ全滅だった」


「……私達は、仲間の想いも背負って戦うのですね……」


「受け入れんのは辛いけどな」


二人の声は震えていた。

一緒にいる時間は少なかったけども、同じ思いを共有したんだから。


「ねぇ、美麗のお父さんも、瞬君達も。『black back』に殺されたんじゃない?」


ふと、そう思ったんだ。


「ですがお父様は瞬さんにやられたと……」


「その瞬君は偽物で……。瞬君が殺したとなれば、私達は此処へ来る。もしそれを狙っていたとしたら?」


「……有り得るな。仮にそうだとして、俺等が此処に来るのを狙う理由は?」


「それは……」


話していると、背後から音が聞こえた。


……嫌な予感がする。

予想があっているなら……!


スタンガンを片手に、身構える。


「その通りだよっ……!彩音ちゃん、勘が鋭いねぇ!」


黒い仮面を身につけた男は、ゆっくりと拍手をしながら現れた。


オーラは只者ではない。

まるで金縛りにあったように……動けなかった。


「初めましてぇ!僕は黒羽だよ!宜しくね?」


「……誰だ」


夏目が口を開くと、黒羽と名乗る男は不気味に笑う。


「ふふふ……。そんな怖い顔しないでさぁ?僕と遊ぼうよ!」


「遊びだと……?」


「そーゆー事っ!ま、君達が僕に勝つなんて事、有り得ないんだけどね!」


「やってみないと分からねーだろうが!」


夏目は銃を構え、発砲した。


「無駄なのにぃ〜」


黒羽は、弾を掴む。


一歩間違えれば体に打ち込まれていたはず……。


「何だこいつ……!?」


「失礼しちゃうなぁ〜。……次は僕の番だよ?」


そして気づけば……目の前に黒羽の顔が。


「危ないっ!!」


美麗が私の前に現れ、刀を振り下ろした。


黒羽はそれも掴んでしまう。


「だから無駄なんだって。大人しくしててよ!」


「くっ……!」


美麗の表情は歪む。


まずい。

腕を掴まれているんだ!


「美麗っ!!」


私はスタンガンを押し当てようとする。


「おっと……させないよ?」


私の首を掴み、美麗に投げつけた。


「かはっ……!」


息が出来ない……。

どんだけ握力あるのよ……!!


「美麗!彩音を頼む!俺はこいつの相手するから!」


夏目はそう言って、黒羽に向かっていく。


駄目だよ……!

夏目だけじゃ……。


「待て」


その途端、皆の動きが止まる。

……体が動かないんだ。


声のした方を見ると、黒い仮面を付けたもう一人の男が立っていた。


「何?今良いところなんだよ?」


「傷一つ付けるなと言われてんだろ。怒られたらてめぇのせいだからな」


「あ、そうなの!?ごめんごめーん!じゃあ、帰ろうかっ」


「馬鹿。連れて行くんだろ」


その男はこちらを見て歩き出す。


すると、呪縛が解けた様に……皆が動き出した。


「黒羽の言う通り、大人しくした方が良い」


夏目は絞り出した様な声で問いかける。


「おい……っ!お前等は何者なんだよ……!」


「何って、知ってんだろ?」


「あの組長が言ってたと思うけど、『black back』だよ」


「……!!」


美麗のお父さんが言ってた組織だ……。

もしかして、この二人が追っ手なのかな……?


「……black backが俺達に何の用だ」


「実験……かな。五感が強化されるなんて事、本来は関係者以外に有り得ないんだから」


「実験?関係者?詳しく教えろよ」


「しょうがないなぁ……海和君、説明してあげて」


「……ったく。本当に消されても知らねぇからな」


そう言うと、海和さん?は淡々と喋り始めた。


「この世界には神がいる。そして5000年に一度、人類をリセットする」


「は……?」


「意味わかんねぇって顔だな。まあいい。だが、これは紛れもない事実だ」


神……?

人類をリセット……?


「リセットされる事で、築いてきた文明は白紙に戻される。そして人類は神の子を残して絶滅した。何度も繰り返されてきたのに、歴史の本には載っていない。それは何故だと思う?」


「……誰も、覚えていないから?」


私がそう答えると、彼は首を縦に振った。


「そうだ。正確に言うと思い出せなくなる」


「なら、貴方達は……?」


「昔の書物を解読した。神の子である俺等のボスは、記憶を受け継ぐ事が出来るらしい」


「でも神の子はね、自分を神に捧げなきゃいけないんだ!black backは神の子を創り出す組織だよ」


この情報は有り難い。

人体実験って、そういう事だったのか……。


「もしかして……この世界と関係あったりする?」


「ああ。優れた五感を持つ者が見つかるように、この仕組みを作った」


「……つまり、生き残った人達が神の子になると」


「理解したようだな。俺が此処にいるのは、お前達を神に捧げるため。実験体だよ」


まさか瞬君も……!?


「逃げ切ってみな」


私は咄嗟に走り出していた。


……が。


「動くな」


その言葉の通り、体が動かなかった。


「彩音さんっ!!」


「お前も動くな」


……何となく海和の能力が分かった。

恐らく『言霊』。


五感の中だと何だろう……?

瞬君のような、例外なのかもしれない。


「眠れ」


美麗と夏目が倒れていく。


意識が薄れる中、最後に見たのは……二人の首元にある何かの印だった。


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