第10話 black back

「ねぇ君、大丈夫ー?」


目を開けると、心配そうに顔を覗き込む女の子がいた。


「あ、起きたぁー!ねぇねぇ、大丈夫?」


「大丈夫……だけど此処は?」


「研究所!何か実験?するとか言ってたな~」


「……!!」


思い出した。

海和に眠らされた後……此処に連れてこられたんだ。


なら、美麗と夏目は!?


「そんなに心配しなくていいよ!無事に合流できるから」


「……どうしてそう言い切れるの?」


仲間の事なんて話してない。

それなのにどうして……。


「だって……私、能力者だし!」


そう言って彼女は、無邪気に笑った。


「それって、五感の事?」


「う~ん……ちょっと違う!折角だし当ててみてよ!」


「ええっと……人の心を読めるとか?」


「ぶっぶー!正解は、『未来予測』!これは五感が無くなる前からあったんだよー!」


五感が無くなる前……という事は、本当に超能力者なんだ。


「凄い……!でも貴方は何で此処に?」


「いやぁ~、食べ物を辿ってきたら捕まっちゃった!」


「ええ!?未来予測が出来るのに?」


「……私以外の未来しか予測できないんだよ!他にも相手の目を見なきゃいけないとか、色々条件があるんだ!」


それから詳しく教えてもらった。


まずは条件について。

1 相手の目を見なくてはならない。

2 自分以外の生物に限る。

3 未来を”予測”するのであって、予知している訳ではない。=未来を書き換える事も可能。

4 視認できる範囲にいないと効果は無効。


「こんなに詳しく教えてくれていいの?」


「良いよ!これから君の隣には、私がいるんだからねっ!」


「それってどういう……」


「私の事より、君の名前は?教えてよー!」


「……静間彩音」


「私は日野 希(ひの のぞみ)!じゃ、彩ちゃんって呼ぶねー!」


「……うん」


明るくて可愛い子だな……。


「……そろそろ来る。気を付けて!」


希さんは真剣な表情に変わる。


「時間だ。出ろ」


ドアが開いて、男が現れる。

……海和だ。


「何処へ行くの?」


「黙って着いてこい」


「……大丈夫だよ彩ちゃん!私がいるからね!」


私達は大人しく従った。

歩いている途中、助けを求める声や悲鳴が聞こえてくる。


助けたいのに助けられない。

自分の非力さに腹が立つ。


その空間に耐えられず、そっと耳を塞いでしまった。


「入れ」


そこは真っ白な部屋で。


モニターや医薬品、医療器具等がある。


「お前は見てろ」


彼は希さんの頭に手を乗せた。

希さんの顔色がどんどん悪くなっていく。


苦しそうな顔を見てられなくて、思わず目を逸らしてしまった。


この意気地なし……っ!!


自分に嫌気がさす。


「おい、こっち見ろ」


海和に顎を掴まれて、強制的に視線を合わせられる。


彼の瞳には、私が映っていた。


「彩ちゃん逃げてっ!!」


希さんは……いや、希は。

海和の腕を私から離そうとしていて……。


助けようとしてくれた。


「……私だけ逃げるなんて選択、どこにも無いよ」


隠し持っていた〈超強力ガムテープ!〉を海和の口に貼り付ける。


これで少しは時間が稼げるはず。


希の手を引き、扉に向かって走り出す。


後ろを振り返ると、海和が必死に剥がそうとしているのが見えた。

超強力だもん。

簡単には剝がせないよ!


「……ありがとう!」


希は震えていて……。

やっぱり怖かったよね。


……必ず助ける。


あと一歩……!

ドアノブに手をかけた時だった。


鍵がかかっていて開かない。


「どうして……っ!!」


「この研究所が無防備だとでも思ったか?」


いつの間にか目の前にいた海和は、嘲笑うかのように言った。


「俺の視界にいる限り、お前等は逃げられない。……神の子だからな」


海和は、私と希の首元に手を伸ばす。


「チェックメイト」


あぁ……まただ。

意識が遠のいていく……。



***


「目が覚めるまでに終わらせねーとな」


「何されるか分かんないもんね(笑)」


「うるせぇ!!あれは予想外だったんだよ!」


「ふぅ~ん?」


「チッ。面倒くさい奴が増えた」


海和と黒羽の声が聞こえる。


「おい……彩音を今すぐ解放しろよ!!」


名前を呼ばれ、ハッキリと意識が戻った。


「彩音さん……っ!」


辺りを見回す。


ガラスの向こう側には夏目と美麗がいて……。

希の姿は見当たらない。


「あの女も、今頃同じ目に合ってるはずだ」


私の考えを読み取ったかの様に、海和は答えた。


「カプセルの中ってどんな感じなんだろーねぇ!」


カプセル……?

自分の体を見ると、プカプカ浮いていた。


……そうか。

私はカプセルに入れられたんだ。


「能力の解析、培養、強化実験をする。まずは……」


「新たな能力に耐えられるか試さないと~!」


海和と黒羽は、こちらへ歩いてくる。


何が……始まるっていうの?


「行っくよぉ~!電気ビリビリー☆」


「あ゛あぁぁぁぁぁ……っっっ!!」


体に激痛が走って……。

痛い……痛いよ……っ!


頭がおかしくなりそうだ……。


「彩音っ!……クソっ!!」


「おお~!第一関門クリア~!次のレベル、行っちゃうっ?」


「やめとけ。このレベルに耐えられんなら十分だろ」


「じゃ、第二段階に移ろっか!何の能力を付与しよっかな~♪」


「普通に身体を強化してもいいよな」


「えー!面白くないじゃん!もっとこう、超能力っぽいのが良いな!」


「お前が面白いかどうかで決めるなよ……まあいいか。適当に付与するぞ」


私……また何かされるの……?


「彩音ちゃん、ちょっとだけ我慢してね?」


黒羽が私に向かって手をかざす。


熱い……っ!

息ができないくらい苦しい。


「お前、加減下手だな……」


「海和さんが上手すぎるだけだと思いますぅー」


時間が長く感じた。

早く……早く終われ……っ!!


「……ほら、出来たぞ」


「お疲れ様でした~!……あれ?これって」


「ああ、成功だ」


成功した……?


一体どういう事……?


「お前の新たな能力は……感覚共有だな」


海和は、淡々と説明を始めた。


「他の人間の能力を、一つずつなら使える。また、自分の能力を他の人間に使わせる事も出来る。つまり感覚を共有し合う事が可能になった」


「えっ!?それって凄くないっ?」


「ただし、俺等と同じように条件もあるからな」


「なぁんだ。でも、結構便利だよね~!」


「彩音の能力を勝手に増やすんじゃねえっ……!」


夏目は必死に叫ぶ。

私は神に捧げられるの?


すると……ゴンッ、ゴンッという音が聞こえてきた。

……扉の方だ。


よく見ると、扉が凹んでいる。

誰かが蹴っているようだ。


「この扉頑丈すぎない!?」


聞いたことのある声だ。

……いや、忘れるはずがない。

その人物の登場に、全員が驚いているようだった。


「……お待たせ。遅くなってごめんね!」


「助けに来てやったぞ」


そこには……!!


「瞬……!?それにあの医者……!」


なんと、死んだはずの二人がいたのだ!

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僕らは五感の中で生きている。 時雨 奏来 @suitti

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