彼女の髪は言葉を、彼の指は光景を
明鏡止水
第1話
ねえ、どうしてお母さんが、出ていかなくちゃいけないのかな?
あの日。母は父に出て行かされた。浮気したのは父の方なのに。その情景は、赤い夕日に、春色コートの母。でも、もう。声しか思い出せない。確かそんなような服装だったの。スマホに残った、わたしを呼ぶ母の声。
とある男子生徒は思う。父のことだ。
行ってくる、と言った気がする。喧嘩をしていた。なんでそんなに怒ったのかわからない。ただ、父は、会社に出勤せず女の人会っていた。その時の、見てしまった光景が浮かぶ。
声が。
光が。
呼水となって。
中学生。中学校の廊下。
ふたりの生徒がすれ違う。
彼女の長い揺れるポニーテールが、
彼が首筋を掻いた指が、
触れた時。
!
!
途端にすべての情景が流れる。会社に通勤する男性。そこへ入った非正規雇用の女性。自宅でズボラだけれど得意のポテトサラダを作る妻。
すべてのことの顛末。
この女生徒の父と、この男子生徒の母。そして、はじきだされたのは、女生徒の母。
娘は言葉が響き。
息子は光景が目に焼きつく。
二人が揃えば、この世全ての、問題が紐解かれよう。
貴方には聞こえた?
貴女には見えましたか?
わたしには声だけ。
僕には景色が。
でも、ふたりが揃えば。
すべてが明るみに出る。
彼女の髪は言葉を、彼の指は光景を 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます