彼女の髪は言葉を、彼の指は光景を

明鏡止水

第1話

ねえ、どうしてお母さんが、出ていかなくちゃいけないのかな?


あの日。母は父に出て行かされた。浮気したのは父の方なのに。その情景は、赤い夕日に、春色コートの母。でも、もう。声しか思い出せない。確かそんなような服装だったの。スマホに残った、わたしを呼ぶ母の声。


とある男子生徒は思う。父のことだ。

行ってくる、と言った気がする。喧嘩をしていた。なんでそんなに怒ったのかわからない。ただ、父は、会社に出勤せず女の人会っていた。その時の、見てしまった光景が浮かぶ。


声が。

光が。

呼水となって。


中学生。中学校の廊下。

ふたりの生徒がすれ違う。

彼女の長い揺れるポニーテールが、

彼が首筋を掻いた指が、


触れた時。



途端にすべての情景が流れる。会社に通勤する男性。そこへ入った非正規雇用の女性。自宅でズボラだけれど得意のポテトサラダを作る妻。


すべてのことの顛末。

この女生徒の父と、この男子生徒の母。そして、はじきだされたのは、女生徒の母。


娘は言葉が響き。

息子は光景が目に焼きつく。


二人が揃えば、この世全ての、問題が紐解かれよう。


貴方には聞こえた?

貴女には見えましたか?


わたしには声だけ。

僕には景色が。


でも、ふたりが揃えば。

すべてが明るみに出る。

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彼女の髪は言葉を、彼の指は光景を 明鏡止水 @miuraharuma30

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