届け!!

うさちゃん。

どういうこと?

「はあ・・・はあ・・・。はは・・今すぐあいつを!・・・を絶対に!!」

 誰かが、誰かの名を言い決意している。

 あたりは火の海でその人は傷を負っていた。

 ここはどこだろう。この人は何をしているのだろう。何が起こっているのだろう。そして、わたしはいま何を見ているのだろう。



「うわあああああああ!!!」

 朝、わたしは鏡を見た途端、悲鳴を上げていた。

 な、なんで?!なんで髪と眼の色が変わってるの?え、寝る前は真っ黒だったよね?それなのに今は緑色!もうわたしパニック!いったい何がおこってるの?

 はっ!これはもしやまだ夢の中なのでは・・・。ムニュッ。ほっぺたをつまんでみる。イタっ!ってことはこれは現実なんだ。

 ど、どうしよう。さらにパニックになっちゃって挙動不審!ほんとどうしちゃったらいいの~!?

 わたし、三浦愛利。都内の東星中学校に通う1年生。実は昨年、この町に越してきたばかりなんだ。いまは、佐倉が咲き乱れる季節、春。わたし、春が大好き。春って出会いと別れの季節だから悲しい感じもするけれど、新学期だったり、新しい友達ができたりとこれからも頑張ろう!って意気込める季節じゃない?

 あっ!そんなこと言ってる場合じゃない!なんとね、わたし髪と眼の色が変わっちゃったの!!

 どうしよう~。お母さんも気づいていないみたいだし、もうどうすればわかんないよ。

「愛利!早くしないと学校遅れるわよ!」

「ああっ!」

 うわあ!学校だったんだった!

 ていうか、今日始業式だから急がないと!

 急げ~!!最初が肝心っていうもんね!

 って、そんなことを考えている場合じゃない~!

 わたしは家を出て走って学校に向かった。


「小池奈々です。一年間、仲良くしてください、よろしくお願いします。」

 自己紹介が始まった。今は、小池さんという子の紹介。あと、もう少しすれば、わたしの番だ。

「前田晃です。よろしくお願いします。」

 次は、わたしだ。先生に名前を呼ばれ、返事をし、椅子をしまいながら立つ。

「三浦愛利です。好きな動物はうさぎです。これからよろしくお願いします。」

 教室に拍手が鳴り響いた。

 よかった。緊張してかんだりしなくて。

「よっ、よろしくね!」

 自己紹介が終わり、隣の子に挨拶をすると、その子はゆっくりこっちを向いた。

 青い瞳だった。うわあ、澄んだきれいな色だなあ。

「俺、一ノ瀬優希。よろしく。」

 その子は、わたしに興味がないような、ぼうな声で言った。

「こっ、こちらこそ!」

 な、なんだろう?もしかして、わたし嫌われてる・・・?

「えー、それでは一時間目を始めたいと思います。起立、礼。」

 先生の号令がかかり、あわてて立ち上がる。

 チラッと横目で一ノ瀬君を見ると、真摯で授業に集中しているかのような顔で礼をしていた。

 手足が伸びていてすらっとした体形。整ったその顔立ちは、まさに線対称。そして何よりも、その目が魅力的だ。花色という、伝統的な強い青色に似ている。

「なに。」

 気付かれちゃった!?突然、ギロッと一ノ瀬君がこちらを睨んできた。

「ご、ごめんなさい。」

 なんていえばいいんだろう。バレてるからいいわけすらができない。

「なに。」

 に、二回も言われた!

「ええっと・・・。その。」

 どうしよう!こういうとき、なんていえばいいの?

 え、えーい!もうズバッと言っちゃえ!

「あ、あの!きれいな眼してるな、って思ってみてたの!ごめんなさい!」

 数秒の沈黙。

 気になって、ちらっと一ノ瀬君を見ると、ぽかんとした表情でわたしを見つめていた。

 あ、あれ?わたし、もしかしてかなりすごいこと言っちゃった?

「おれの眼、何色に見えてるの?」

「へっ?み、水色だけど。」

 急に色なんて、どうしたんだろう。だって、みんな、そう思うでしょ。

「あ、へえ~。そうなんだ。三浦さん、見えるんだね。」

「み、見える?なにを?」

 なにがみえるの?わたしには変わったことはないけれど。

 それに、一ノ瀬君なんだか動揺してる…?

「いや。なんでもない。まさか、いやそんなはずは…。」

 ぶつぶつと、独り言のようになにかを確認する一ノ瀬君。

 な、なにかあったのかな。

「い、一ノ瀬君?どうしたの?」

「ああ、いや。もしかしたら、近々君に話さなければならないことがありそうなんだ。」

話さなければならないこと?わたしに?

「な、なあに、それ?」

なんだろう。ものすごく知ったらいけないような感じがする。

「機会があれば、またゆっくり話すよ。」

なに?何を話すの?いつ?

ものすごくその内容が気になる。

「お、教えて。今すぐ教えて。お願い。」

「悪いが、それはできない。」

「ど、どうして?」

「確信が持てないからだ。」

「確信がなくてもいいじゃない。」

「だめだ。頼むから、いまは勘弁してくれ。お願いだ。」

そういった一ノ瀬君の眼は、真剣だった。

そうか。いまは、だめなんだ。でも、いつかは話せるときがくる、のようなことを言っている。

わたしは知りたい。

けれど、一ノ瀬君はそのことを拒んでいる。

なら、一ノ瀬君が嫌がるのであれば、いまは知らないほうがいいんじゃないか。

また今度、話してくれるから。

渡曾はそれを信じて、静かにその時を待っていよう。

「わかった。けれど、いつかは話してよ。」

「ああ。だが、必ずおれの眼が水色に見えるということは、誰にも言わないでくれ。」

「うん、いいよ。約束。」

「それでは、この問題をーー。」

 先生の問いかけが入り、会話はそれっきりだった。


「愛利さんっ!ねえっ、わたしたちのこと覚えてない?」

「え?」

 いまは、中間休憩。声をかけられて後ろを向くと、後ろには女の子の双子ちゃんが立っていた。

 一人は、ポニーテールで元気そうなイメージ。もう1人は、ミディアムヘアで優しそうな雰囲気が感じられる。

 そしてこの2人、どこかで見たことがある。昔、どこかで会ったような…?

「私ね、山崎空っていうの。こっちは妹の日那。あのね、愛利さん私たちのこと、覚えてない?」

 不安そうな表情で話す空さん。その瞳は、期待しているような、戸惑いを含んだ色だった。

 空さんと、日那さん。私、この名前どこかで──

 

幼稚園の園庭。みずみずしい緑が、お庭を囲んでいる。空は真っ青な晴天。遊んでいる子どもたちは半袖だから夏なのだろう。

そこでわたしは、砂浜に絵を描いていた。両隣には、ふたりの女の子。三人が描いていたのは、動物のイラスト。




あっ!そうだ、思い出した約8年前。私は、ある幼稚園でこのふたりと遊んでた。とっても仲が良かったんだ。

「覚えてるよ。」

 私は静かにそう言った。大好きだった2人。まさかこんな所で再会できるなんて思いもしなかった。幼稚園を卒業直前、小学校に進学というところで、私はお母さんから告げられた。


「空ちゃんと、日那ちゃんとは学校が違うのよ。」

「どうして?」

「そういう決まりなの。」

「やだよ、私は2人と同じ学校に行きたいよ。」

「ごめんね、愛利。一緒に行きたいって言う気持ちはよくわかるの。けどね、これは仕方のないことなのよ。ごめんなさいね。」

 お母さんに唐突に別れてしまうことを知って、私はその日は眠れなかった。2人と違う学校の理由は、校区が違うだけだった。

 それから幼稚園を卒業し、わたしは東星小学校に入学した。入学してからは、学校が違うからなかなか会えなかったけれど、それでも一年に何回か遊んだ。

 ここまで思い出して、私は疑問を抱いた。

 あれ?三年生ぐらいまではあっていたはずなのに、どうして急に会わなくなってしまったんだろう?

 なにかあったっけ?なんでだっけ・・・?

「ほんとうっ?」

 日那が、嬉しそうにぴょこんと跳ねた。

「よかったあ!愛利、さっそくわたしたちと遊ばない?」

 空がそう言って、日那がそうだね!と、同意した。

「どこに?」

「体育館だよ!今日は一年生が使える日だもの!早速行こう!」

日那と空に連れられ、わたしは体育館に向かうことになった。

っていうか、この二人入学して間もないのに、よく体育館の行き方とか使用日とか知ってるな。冒険でもしたのかな。

そんなことを考えていたらいつの間にか体育館に着いていた。

スリッパを脱ぎ、体育館内にはいる。 

そこにはもうすでにたくさんの一年生がボール遊びや鬼ごっこをしていた。

「うわあ、多いね。」

私が思わずつぶやくと、空がそうだね。と相づちをうつ。

みんな来るの早いな。

すみっこにスリッパをそろえたおいた。

「よしっ!それじゃあ何して遊ぼっか!」

日那が元気よく笑顔でいう。

「はい、まず人数が少なくない?」

空がすかさずツッコミを入れる。

たしかに。3人だけじゃ、何をしてつまらないかも。

「うーん。そうだねえ。それじゃあここにいる誰か呼ぶか。」

日那が少し考え、ある男子たちに手を振った。

「おーい!一ノ瀬くんたち!」

「なに。どうした?」

数名、男子がボールを持ってかけ寄ってくる。

日那が呼んだ男子は、クラスメートの一ノ瀬くんや大林くんたちだった。

「あのね、こっち人数少なくてさ。良ければ何だけれど、合体しない?」

「合体?」

大林くんが少しだけ首をかしげた。

あ、もしかしてだけど日那の言い方が分かりづらかったのかな。

「そう!一緒に遊ばない?」

大林くんはなるほどね、というような顔をして、

「いいよ。」

と、短い返事をした。

やっぱり分かりづらかったんだ。

「じゃ、じゃあ鬼ごっこしない?」

わたしは発言を求めるように手を挙げ、緊張しながら言った。

どうだろう?もう中学生なのに子供っぽいとか、思われちゃうかな?

「いいね!わたし走りたいし!」

空が元気に賛成する。

「一ノ瀬君もいいよね?」

「うん、まあ、いいよ。」

空に尋ねられた一ノ瀬君も賛成する。

「じゃあ決まり!わたしが鬼になるから、みんな逃げてね!」

空はそういうと、いーち、にーい、と数え始めた。

それを聞いて、みんながその場から駆け出す。

空は10数えおわると、まず大林くんを追いかけに行った。

そして捕まった大林くんは、わたしのもとへ。わたしは焦って逃げ出すものの、あっけなく捕まってしまった。

うう、わたしは知るの遅いな。

そんなことを思いながらも、一ノ瀬君を追いかける。

さっきはにらまれちゃったから、これで仲直りできれば!

でも、一ノ瀬君は、走るのが本当に早かった。あと少しで背中にタッチできるのに、小柄だからか、ひゅんっと逃げられてしまう。

ぐぬぬ、、、。諦めないんだから!頑張れ、わたし!

そう自分に言い聞かせ、足のスピードを速める。これでも、一ノ瀬君に届かない。ならば、ジャンプすればいいのでは?

からだ全体の筋肉を使って踏ん張る。そうすると、わたしの体がものすごく上まで飛び上がった。

「ひえっ!」

今まで感じたことのない、鳥になったような感覚に思わず変な声が出る。

「愛利!?」

少し後ろから、日那の声が聞こえた。

わたしの真下で、驚いた顔の一ノ瀬君。

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