陰キャVライバーの内観
kgin
第1話 超絶かわいい
太宰が好きだというと納得されるような性格です。
眼鏡の隙間から見える世界は往々にして世知辛くて、今日も私はSNSを覗くのです。タイムライン上に踊る日々の由無しごとをかき分けていくと、ここでも現実感溢れる有象無象が溢れていて嫌になります。適当に本名も知らない友人にいいねをつけて無為にスクロールをしていると、ふいに、DMの通知。ポプン、という間抜けな音にハッとして急いでメッセージを開きます。送り主を見て、飲んだ息。相手は、畏れ多くも私の敬愛する絵師さまでありました。
「これは…っ!」
食い入るように文面を読みますと、なんと抽選で3名に当たるイラストプレゼントが送られてきた、とそのような内容でした。震える手でURLをタップすると表示される、なんとも流麗なタッチで描かれた美少女の立ち絵。「良子さんへ」とかわいらしい字で添えられたその少女、幼い容姿に豊満な胸部が強調されたカラフルな衣装を纏った姿を見て「私なんかにいいのか」という思いと「なんでよりによって」という思いが交錯しました。しかしながら、
一ヶ月後、私は配信アプリ『MoTTo』で配信デビューをしました。読者の皆様におかれましては、大変驚いていらっしゃると思いますが、一番驚いているのはかく言う私なのです。あの日以来、少女のイラストをこの場限りのものにしたくない、自慢し続けたいという下卑た思いは日に日に膨れ上がっておりました。それでもいつまでも二の足を踏んでいた私の背中を押したのは、いつも見ている翅の生えた彼女でした。センチメンタルな気分だった私は、その日何を思ったかコメントで我欲を吐露してしまったのです。コメントが画面に表示されてしばらく、彼女は考え込んでいる様子でした。他のリスナーもコメントしませんでした。私は「しまった」と思いました。しばらく黙った彼女は「うん」と言い聞かせた後、一言、
「いいんじゃない?やってみたら」
と言いました。リスナーの相談に乗るとき特有の深い声色でした。それに続くように、コメント欄には
『がんばれ』
『初配信行きます』
『配信日決まったら教えて』
という常連の方々のコメントが連なります。幸い、絵師さまは二つ返事で許可をくださりましたので、それから皆さんには彼女の配信に顔を出す度、何度も相談に乗っていただきました。所属事務所という後ろ盾も、気軽に相談できる友人もいない私にとって、この枠でいろいろと話し合えることは大変実り多いものとなりました。自己紹介の文面に始まり、入退室時の挨拶や配信のルールなど、決める内容は多岐にわたりました。右も左もわからぬ私に事細かに配信のいろはを指南してくれた彼女でしたが、ひときわ語気を強めて言ったことには、
「良子ちゃん、ライバーは“素”で勝負だよ!」
とのことでした。私は、唯一この助言だけは受け入れがたいものでした。馬鹿で卑屈な私などがどうして素の人間性で勝負できるというのでしょうか。幸い学生時代は演劇部に所属していましたので、演技力はそれなりにあります。あの美少女にふさわしい、瑞々しく熟れたキャラクターを演じなければいけません。
そうこうしているうちにとんとん拍子に話は進み、Vライバーとしての設定ができあがりました。あの美少女の立ち絵は、ちょうど「野菜」というテーマを企画にしたものでした。トマトをモチーフにした衣装を身に纏った、コケティッシュな魅力をもった美少女……私どもはこの娘を「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます