桃太郎が竜宮城から帰ったら鬼が支配する世界になっていた!?
ホークピーク
第1話 誕生
「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」
気がついたら、俺は鳴き声を上げていた。これは、産声だろうか。
体はほとんど思い通りに動かない。目もよく見えないが、ぼんやりと二人の人影が見えるようだ。
「あれまぁ!」と高齢の女性が言った。
「なんてことだ!」と高齢の男性も同じように言った。
『おぉ! これは異世界転生じゃないの!?』
俺は現代日本の東京に住むちょっと優秀なサラリーマンだった。
普段は、警備系のシステムエンジニアやフィールドエンジニアとして、客先での警備装置の設置や設定などをしていた。人と会話するのは苦手だが、かといってオフィスに年中座っているのは性に合わないと思ってここに就職した。もちろん仕事は大変だが、あちこちへ出張できるし、さほど対話も必要ないから満足していた。人々の安全・安心を作っていると考えれば達成感もあった。
最後の記憶は……なんだったか。普通に仕事から帰って夕食を食べて寝たような気がする。さほど食生活は健康的でなかったから突然死したとしても驚きではない。
転生の理由や経緯の記憶はない。眠りから覚めたら転生した赤子だった。転生ボーナスや転生の目的など、教えてもらえないと困るのだが。
それから数週間後。
目もかなりはっきり見えるようになり、いろいろと爺様と婆様の会話から知ることもできた。
間違いない。ここは「桃太郎」の世界だ。つまり架空の中世ぐらいの日本で、俺は婆様が拾ってきた、川上から流れてきた大きな桃の中から生まれたのだ。
試しに魔法でも使えないか、いろいろ試行錯誤してみた。だが魔力の欠片も感じられない。爺様婆様の会話にも魔法の存在をほのめかすものは全くない。
だが一つだけ。鬼や龍はいるらしい。いや、そんな危険なところだけファンタジーでも困る。だが鬼の脅威は比較的身近なものらしく、爺様や婆様の会話にも何度か出てきた。
ここは田舎の村でも少し中心から離れた、川に近い(氾濫時に危険な分、誰も近くに住まないので広く土地を使える)場所だった。爺様と婆様は子どもに恵まれないと諦めた後にここへ引っ越してきたらしい。多少危険だが便利な土地で、二人の高齢者だけで過ごすには相応しい場所だった。
畑で野菜や豆を育て、川で魚を釣ったり、山でウサギを狩って食べていた。
こどもはいないが、シロと言う名前の子犬を飼っていた。
俺はシロと一緒に育った。
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