小さじ4杯 栄養ドリンク

◇◆◇◆◇




 異世界転移して半年。

 毎日のように厨房に入り浸って調理している。

 私は聖女というより、料理人とかの扱いではなかろうか。


 朝は殿下の寝室に朝食を運び、殿下が王太子宮にいるときは執務室に昼食を。王城で過ごす日はお弁当を持たせている。

 夜、食堂で二人で私の作った夕飯を食べる。


「コノハ、これは何だ?」

「んー? あぁ、私の栄養ドリンクです」

「えーよードリンク?」


 こてんと首を傾げて、薄紫の髪をサラリと靡かせる姿は、ちょっとどころではなく美しい。チッ。


「疲れたときとかに飲むやつです」


 異世界生活は、王太子宮で安全に暮らせているものの、食事は毎日作らないといけない。

 なにげにハードワークで、休みなどありもしないので、本気で疲れた日にだけ飲むようにしていた。

 悲しいことに、これを合わせてあと二本しかない。


 ビールとサラミは随分と早めに飲み食いした。だって、こっちに普通にあったし。無限にしなくてよかった!

 大根と白菜はレアだったらしいけど、お吸い物にして使った。腐ったらもったいないしね。

 

「そいや、ガーリックソルトの残りが少ないなぁ。誰か作ってくれないかなぁ」

「料理人たちに開発を任せておけ。お前はするな」


 この半年で、私が大雑把だというのはバレた。

 でも、私のご飯は食べるらしい。


「そこが、唯一お前の美点だな」

「おい、もやし。しばくぞ」

「いひゃい、もうひばいへる!」


 王太子殿下の両頬を横に引っ張って遊ぶ。

 ガリガリじゃなくなった頰は引っ張りやすいのだ。

 最近は軽口叩いたり、謎のスキンシップが増えた。


「くそ。頬が赤くなったじゃないか」

「乙女か!」


 ツッコミつつ、栄養ドリンクをぐい飲みしようとしたら、殿下に瓶を取られた。


「一口飲ませろ――――⁉ おい!」

「なに? 勝手に飲んどいて不味いって?」


 栄養ドリンクの味って、独特だよね。


「これは何の魔法薬だ」

「は? なんとなく元気になる、栄養補助飲料?」

「なんとなくも何も、明らかに回復系の魔法薬だが?」

「まじで?」


 この世界には魔法薬というものがある。

 いわゆるポーションとかエリクサーとかなんとかいう感じの。名前だけで効果はよく覚えてないけど、そんなやつ。

 ただ、作れる魔道士などほとんどおらず、費やす魔力も年月も半端ないとのこと。

 そして、同じくらいの瓶で五年分の国家予算が飛ぶほどなんだとか。


「まじか」

「……


 なんで何本も飲んだと思うんだ! と抗議したら、私が転移してから今まで手元にあるということは、何本かあったはずだといわれた。

 少数本しかないなら、たぶん既に無いだろうと。


「チッ」

「舌打ちするな」


 アイアンクローされてしまった。

 暴力王子め。


「痛い痛い、それ入れたら十九本っ」

「っ! お前はっ!」

「痛い痛い痛い!」


 めっちゃ怒られた。

 たぶん、死にかけても復活する可能性がある魔法薬だぞ、と言われた。

 そういえば、飲むとめちゃんこ元気になれてたなぁ。


「おっふ、めんご。殿下の毒も消せたよね」

「っ! 私を馬鹿にするな! そんなのはどうでもいい!」

「へ?」

「お前に何かあった場合、救う為に――――っ」


 殿下がそこまで言っておきながら、顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 そっぽを向いて顔を隠したけれど、耳まで真っ赤になってるから、あんまり効果はなさそう。

 殿下、ちょっと可愛い。


「え……おぉん、ありがと」

「何も言ってない!」

「ふひひ。うん。ありがと」

「クソッ」


 どうやら、口も手癖も悪いもやしの暴力王子こと王太子殿下は、私のことをわりと気に入っていたらしい。



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