神域

@9zth7DcB

第1話

離婚したときに、元夫はどうしてもと言って聞かず、私の収入が不安定であることを訴えて娘の親権をとった。私は、離婚するのだから当然母親が娘と暮らすことになるのだろうと思っていたが、元夫の方が上手だった。だから…というわけではないが、彼は私に娘の養育費を支払わなくてもいいとまで言った。それでも離婚してからずっと支払ってきたが、今後は苦しいかもしれない。

 フリーランスの翻訳者など、家庭裁判所の調停員や元夫が依頼した弁護士から見れば、主婦のひまつぶしのような、職業とも呼べない不安定極まりない稼業に見えたのだろう。実際には、離婚した5年前には結構仕事量もあって、ひっきりなしに翻訳会社数社の連絡もあり、私生活はともかく充実していたのだ。

状況を変えたのは、2016年のGoogle翻訳のイノベーションだった。それから、あっという間に、機械翻訳は翻訳業界に席巻してきた。仕事は好きだったが、機械翻訳のせいか全体的な仕事量が減ってきていて、この先生活が成り立つかどうかというプレッシャーは心地よいものではなかった。

 生活の不安定さが原因になったのか、うつ病かもしれない、ひどい不眠に悩まされるようになった。薬をもらいに病院へ行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る