〜OB(office boy)〜

「はい、失礼致します。」


ガチャリ

一件社外のイレギュラー案件が終了した。

もっと燃えるかと思っていたが真摯に対応していたのが功を刺したのか意外とすんなりと終わってくれたようだった。


彼はこんな世界で営業として真面目に働く”男性”だ、男性が会社で働くとしてもお茶汲みや、受付、経理など矢面に立ってバリバリ働く者などまず居ない。


「お疲れ様、どうやら定時で上がれそうね」


そんな彼に声をかけてきた女性、どうやら彼女は彼の上司のようだった。


「お疲れ様です、課長。 はい、なんとかなりました」


課長と呼ばれた彼女は歳の頃は20代後半から30代前半に見える、若きエリートといったところだろう。

少しキツめの甘い匂いが鼻につくが、顔は良く整っており、まさに美人キャリアウーマンといったところだった。


「これも全部キミが真面目に取り組んだ成果だね」


「いや、そもそもご提案の段階で先方へ確認出来ていれば、こんなに拗らせることも無かったんですけど、僕の確認不足でした」


「いやいや、それでも良くやったよ、これで今月も契約ノルマ達成だね。凄いよ」


彼の肩を撫でながら彼女は褒め称えるが、何やら手つきが不自然だ。


「はは、ありがとうございます。この件だけまとめてチームに共有しておきます」


「そうだね、お願いするよ。ところでキミはこの後予定とかあるのかな?」


撫で回していた手にグッと力を込めて彼女は彼に問いかける。


「いえ、特には… 」


「そうか、そうか! じゃあ面倒くさい案件がまとまったんだ、羽根を伸ばして飲みに行こうじゃないか、なぁ」


「え、あっ。でも」


「予定は無いんだよね! じゃあ定時になったらまた来るから、一緒に退社しよう」


少し強引とも言える口調で約束を取り付け、掴んでいた肩をパンッと叩き彼女は自分の席へと戻って行く、彼の方からは彼女の顔を確認することはできなかったが、彼女の口元には歪んだ笑みが溢れるのだった。






「さぁ、もっと呑みなさい」


「あぁ… ふぁ、はい。」


定時になると同時にデスクに来た彼女によって彼は半ば拉致のようなかたちで居酒屋へと連行されてしまった。

既に呑み始めてから2時間は経っているようで彼は普段酒を飲まないからか、若干の酩酊状態のようだ。


「かちょ、すぃ、ません。ぼくぅ、しゅうでんが…」


「んー? そうか、そんな時間か、そうだねじゃあ駅まで送るよ」


「… はぃ、ぁりがとぉ、ご、いますぅ」


1人では立てない彼の肩を担ぎ店を後にする2人、歩き出した方向は駅ではなくホテル街だ。


「あぇ、こっち、ちがぅ… かちょ、」


「こんな状態のキミを1人では帰らせられないからね、酔いを覚ますために少しだけ”休憩”して行こう」


「あぁ… はぃ、そぅです、ね」


足取りのおぼつかない彼を抱えながら”ホテル”のエントランス、受付まで入って行く、手慣れた様子で部屋を選びエレベーターで選んだ部屋の階まで上がって行く。


ガチャリ


「さぁ、ベッドに横になりなさい、終電に間に合うように起こしてあげるからね」


「ぁあ… はぃ」


ドサッ、と音を立ててベッドへ横たわるなりスースーと寝息が聞こえてくる。


「ふふふ、キミが悪いんだぞ、私の課にこんなに可愛いキミが入って来るのが悪いんだからな」


彼女は衣服を次々と脱いでいく、スーツがシワになるのなんて気にしないように脱いだ服を乱暴に投げ捨てる。


「キミがぁ、大人しく受付業務に従事していれば、もしくは、違う課に配属されていれば違っただろうにねぇぇ…」


ニタァ、と気味の悪い笑みを浮かべ彼に跨るようにベッドへと侵入する。


「いいかい? 今から3つ数えるから、数え終わるまでにキミが抵抗しなければ、合意したとみなすからね?ね? いーち、にぃぃぃぃい、さぁぁ」


もちろん彼にそんな判断など出来るわけも無いが、しっかりと耳元に向かって彼女は言葉を吐く。

ねっとりとまるでこの時間さえも前戯と言わんばかりに、酷く興奮した声で数を数える。


「ぁぁん。 はい、合意。いただきます」


彼のジャケット、ベルト、スラックス、ワイシャツ、インナー、パンツ

彼を守っていたもの、ケダモノから己を守ってくれるものが剥がされて行く、ゆっくりと、高級な包み紙を破らないように丁寧に剥いていくように。

彼は目を覚さない、むしろ衣服が無くなったことで息苦しさがマシになったのか、より深く眠りに入っているようである。


こうして、その日彼は一度も目覚めることなく朝を迎えることになる。

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