盗作の女とゴーストライター
明鏡止水
第1話
今となっては会うのも苦労する、そんな女流作家の元へ。私はどうしても会いたいんだという新人、同じく女流作家として現れた。
パソコンのキーボードの上にすこし、女性にしてはごつごつとした、指を這わせて滑らかにキーを打つ彼女は。
どうしてあなたが、作家になれるの。
心底、幽霊でも見たように問いかけてくる。
当然のことを言ってあげる。最初から、私が書いていたから!
事故で昏睡状態の妹が。みんな、小説を、あるいは童話を、書き記していたのだろう。読書好きだから。そう思っていた。しかし、実際に鬱屈とした感情。もっと、はっちゃけるとは違う、躍動を味わいたい。この逆境からクラス全員から、勝ってやるっ。そんな感情を教室や部活動、定期代から部費、進学できそうな高校まで。さわやかとは遠くも、一人の女生徒の葛藤、青春奇譚として記していたのは。
わたしなのよ!双子の姉!
そして、実の双子よりずっと妹と仲の良かった貴女が、妹のデビュー作を掠め取った!
盗作だ。
……似たような物語、世界中にあるわ。たまたま、感情が、想いが符合したの。
人気女流作家は正真正銘まさしく自分の作品だとは言わなかった。
疑問だわ。本を読まないあなたが、なぜ、あの子の気持ちが表れた短編小説を書けるというの?
ふたごだからよ。
説明にはならない。
この世の真理でもない。
ただ書いた。そこに書くべき思いがあったから。それが、双子の実の妹の想い!
わたしは勧善懲悪の、将軍か同心のように、彼女に言う。
貴女の小説より、新進気鋭のわたしの作品の方が、売れる。宣言していい。貴女からヒット作はもう生まれない。なぜなら、
ネタ切れ。
妹の部屋に置いてあった全作品全て、なんらかの形で世に出、もうこれ以上の物語は残っていない。
そして、盗作。
当時はわたしのケータイ小説がそうだと言われそうだったけど、実際わたしが盗作したことになった。悔しかったわ!
眠る妹の想いも、打ち込んだわたしの思いも、すべてが持ち出されて空白になった。
盗難届でもなんでも出せばよかったじゃない。
人気作家がキーボードを操りながら言う。
妹のツラい、カナシイ、思いは!わたしが推敲して!ケータイ小説にしていたの!
妹のいじめっこへの、あるいは人生への呪いや醜さを受け止めながら、わたしはかわいい双子の妹の頼りない、姉で、編集者だった。
いまや、わたしたち、ふたりに編集がついている。
人気女流作家が、椅子をターンさせて、
それで、わたしへの要求は?世間への発表?
わたしは言う。
ゴーストライター。
なんですって。
わたしのゴーストライターになってもらう。でも、わたし自身も作品を書く。わたしは二重の収入を得る。妹の入院費、そして、いつか目覚めた時のための娯楽のための費用にするわ!
人気女流作家は静かだ。新人作家だけが、息巻いている。
二人の編集は、これも作品になる、と事実は小説より奇なり、と見守っている。金になる。スキャンダルだ。でも揺れる。それならば、
世界が揺れる。世間が揺れる。
証拠もあった。直筆原稿。当時のケータイ小説の日付入り下書き。わざわざ昔のアダプタと充電ケーブルを用意されて。そして、双子の、昏睡状態の妹の日記は。なぜか姉の机の引き出し。
元ネタ。
わたしに、収入を得ることも、世間に出ることすら奪う、と。
人気女流作家は、ただの、隠れた物書きになる。
あなたに、わたしと編集が生み出した作品を超えるモノが書けるの?妹の日記をケータイ小説にしていた、なんとか新人賞を受賞し、同じ出版社の編集たちを通じて、なんとかこの場に立てている貴女に。
今まで人の作品で、しかし確実に執筆、ダメ出し、取材、また執筆を繰り返してきた女。
書けるわ。
わたしは宣言する。
そのために、わたしは生きてる。
盗作の女とゴーストライター 明鏡止水 @miuraharuma30
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