高難易度ダンジョン最深部でスローライフ中の最強剣聖、世界中から攻略しようと集まる冒険者パーティーを撃退していく。 〜冒険者共、俺の家を荒らすな〜

ぺいぺい

第1話 侵入者 ー 駆け出しS級冒険者パーティー


 超高難易度ダンジョン攻略。

それは全冒険者の目標であり、夢である。

その理由はダンジョンの最深部には、持ち主に強大な力を与えるという”神器”が存在するからだ。


 しかし、神器はあくまで噂である。

なぜなら誰も超高難易度ダンジョンを攻略し、神器を持ち帰った者がいないから。


 ダンジョンには強力でおぞましい魑魅魍魎が待ち構えており、

普通の冒険者はおろか、修羅場を潜り抜けてきた歴戦の冒険者パーティーでも1層下に進むのでさえ至難の業であるとされる。

 

 そして極少数だけ存在する最深部の10層に到達できた冒険者の話によると、

そこには神器を守る主、魑魅魍魎たちも霞むほどの何かが待ち受けているという。

本日もそんな地獄に挑む、夢を追う命知らずな冒険者たちがいた。




超高難易度ダンジョン 第7層




 壁の松明を頼りに薄暗く細い道を進む3人の冒険者。

縦一列、震える足で少しづつ進んでいく。


 

「下に降りる階段は何処だ!」


「今探してるだろ!」



言い争いを始める男2人。



「怖い・・・帰りたいよ・・・」



 そんな2人を気にもせず、恐怖に怯える女。

パーティーには険悪な雰囲気が漂っている。



「こんな細い道、挟まれたら終わりだぞ・・・」



 最後尾で少し声を震わせながらそう言ったのは、どんな刃も弾く鋼鉄の鎧を身につけ、

背中には無骨で巨大な大剣を背負っている男。

見た目からして職業は重戦士。



「早く抜けましょうよ・・・」



 魔物がいないか不安そうにキョロキョロと前後を確認しながら言ったのは、

黒いとんがり帽子に震えた手で自分の体ほどある大きさの杖を持っている女。

職業は魔法使い。



「弱音を吐くな!俺たちは最奥にある神器を手に入れて、S級冒険者の頂点に立つんだよ!」



 チームを鼓舞し、先頭に立って進んでいく男。

職業は魔法剣士。



「私たちはまだ実力不足だったんですよ!ここまでも色々なモンスターに襲われて・・・」



 魔法使いの女は青ざめた顔で言った。

その表情からはここまでの道のりで幾度も死にかけたことが読み取れる。



「黙れ!」



 魔法使いの口を止める魔法剣士の大声がキンキンと細い道に響く。

大声を出すのは恐怖から来る、自分を奮い立たせる行動だった。


 しかし、ダンジョンにおいてその大声は災いを呼ぶものであった。

途端、冒険者3人の後ろから、声を聞きつけた者たちの迫り来る足音が聞こえる。



「まずい!後ろから来てるぞ!」



 最後尾の重戦士の叫び声を合図に3人が駆け出す。

ウゥ、と薄気味悪い呻き声が聞こえる。

近づく恐ろしい声に追われ、3人はあてもなくダンジョンを彷徨う。



「向こうは行き止まりだ!道はこっちしかない!」



 どんどんと減っていく選択肢。

気づくと進んでいるのは一本道であった。

3人の脳裏に最悪の結果が浮かぶ。



「とにかく前へ進めっ!」



 先頭の魔法戦士が1つしかない行き先を示す。

迫る魑魅魍魎、噴き出す冷や汗、荒い呼吸、脳裏に浮かぶ死。

その時だった、



「あははは!もうダメだ!私たち死ぬんですよ!」



 脳の処理能力が限界に達し、狂乱する魔法使い。

その目には涙が浮かんでいた。


 完全に壊れた魔法使いの背中を押し、重戦士と魔法戦士は一本道を走る。 

しかし、前方に見えるのは行き止まりであった。


 壁を目の前に立ち尽くす3人。

自分たちが走ってきた一本道の奥からドドドドッ!と迫るおびただしい数の魔物たちを視認する。


 実力、そして状況的に確実に勝てない。

まさに万策尽きた。



「くそ!くそくそくそっ!」


「俺たち、ここで終わるのか・・・?」



 情けなく呟く重戦士と魔法剣士。

残る生への執着、このダンジョンに足を踏み入れた後悔。

そして2人の脳を駆け巡る走馬灯。


 自分を育て、冒険者として送り出してくれた両親の顔。

励み、多難を乗り越え、その果てに出会った仲間。

S級冒険者パーティーに認定された喜び。

まだ知らなかった地獄への入り口。



「そうか!どうせ死ぬなら自爆すればいいんだ!」



 自暴自棄にそう叫んだ魔法使い。

その言葉に2人の走馬灯は強制的に遮られた。

途端に魔法使いから凄まじい魔力を感じる。



「やめろ!」



 2人で魔法使いを壁に押さえ込む。

壁を背に暴れる魔法使い。



「俺たちは冒険者だ!最後まで冒険者らしく戦うんだよ」



 魔法剣士の高潔な精神。

それに賛同した重戦士。


 その気高い意志が幸運を呼び込んだ。

魔法剣士は違和感に気づいたのだ。


 魔法使いを抑え込んだ壁。

その壁の奥に反響する音、どこかから感じる冷たい風。

それは数々のダンジョンを攻略し、修羅場を潜り抜けてきた経験から来る違和感であった。



「そうか!わかったぞ!」



 魔法剣士が重戦士に目を向ける。

長い間、冒険を共にしている重戦士は瞬時に魔法剣士の意図を理解した。


 重戦士が背中の大剣を抜き、目の前の壁を勢いよく斬りつけた。

瞬間、壁は崩れ、下に続く階段が現れる。

そう、この壁は隠し通路であったのだ。



「第8層への階段だ!」


 

見えた一筋の希望。



「グガァァァ!」



気づくと怪物達はすぐ目の前まで迫っていた。



「行くぞ!」



3人は逃げ込むように階段に飛び込んだ。

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