外伝 テュフォンの話

特別編 お父さん

いつもお父さんから殴られた。お母さんは私を見て汚いと言った。

それもこれも全て私が無能だったからだ。

彼女はこの世界で初めて人間だった。


(今日はお父さんから体を五発殴られた)

彼女は薄暗い地下牢のような場所で座っていた。しかし、勘違いしないでほしい。彼女は決して罪人なんかじゃない。立派な貴族の娘である。

(私なんで生きてるんだろう)

部屋の隅にあるクモの巣を見ながら思う。彼女を無能だと言う親だったが彼女を殺そうとはしない、ただ殴るだけ、まるでサンドバックを殴るかのように。

夜も更け彼女は床倒れこむようにして眠ろうとしていた。しかし、突然

「…お嬢様」

と声がした。この声は…。

「ルイ?どうしたの」

唯一彼女に優しく当たってくれるメイドのルイだ。

「お嬢様、私は貴方をここから逃がしに来ました」

そこでルイは語った。お父さんが彼女を売ろうとしていることを、彼女は商品として育てられたのだった、ストレスが溜まると殴り、ある程度育てたら売られる。

「…今まで助けられなくて。本当に申し訳ありません」

と深々と頭を下げる。

「これを…」

と一枚の手紙を彼女に渡す。

「これはきっとお嬢様を助けてくれる人への手紙です」

そして、空間をなぞる。ルイの加護『移動空間ワープホール』が開く。

「この街で手紙を出して下さい。きっと、あの方なら大丈夫ですから」

「ルイは来ないの?」

彼女は疑問に思う。一緒に逃げてくれればより心強い。しかし、それは出来ない

「私の加護は私を送ることが出来ないんです」

だから、申し訳ありません。と再び頭を下げた。

「そっか」

と少し残念がりながらも、彼女は『移動空間』を通った。彼女が通ると『移動空間』消える。


「今までありがとうございました」

ルイはさっきまで彼女がいた場所にお辞儀をした。救ってもらった恩をようやく返せる。ようやく彼女を救えると思いながら。そして、彼女はこっそりと仕入れた爆発物を目の前に取り出す。そして、マッチに火をつける。

「頼みますよ」

彼女は手紙に書いた人に後を任せ、爆弾に火を放った。


彼女にとっては初めての街。見て回りたいという気持ちを抑えルイに言われたことを最優先する。手紙を送る場所を探した。


この街にきて一日目の朝を迎える。手紙は無事出せた。しかし、この先何をすればいいか分からない。何も持ってない彼女は街に来ても何も出来ない。周りを見る、金持ちそうな人はおいしそうな肉をかじりついている。だけど、彼女はそっち側ではないと理解した。彼女がお腹が空いたときに取れる行動は一つ、彼女は路地に向かった。

二日目

今日も路地裏でごみを漁る。可哀そうに見えるだろうが屋敷で過ごしていた時よりもまともな生活が出来ている。探せばお腹いっぱい食べれるし、意外と温かく柔らかいゴミのベットもある。足りないもの…人との会話ぐらいだろう。

そして、三日が過ぎた。

今日も残飯を漁ろうといつもの店に来た。しかし、

「お前かここ最近俺の店のゴミ箱を荒らしてんのは‼」

と店の主に見つかってしまった。逃げる事は…無理だ、足に力が入らない。

そして、逃げようとしたことが更に店主を怒らせた。振り上げられる腕。彼女は知っている。お父さんと同じことをされると、殴られることを。歯を食いしばり目を閉じる。いつ来るか分からない拳に備えた。しかし、いくら時間が過ぎようと拳は来ない、恐る恐る目を開けてみた。彼の拳は止められていた。一人の男性によって。

「なんだお前」

店主が男に聞く

「吾輩の名か?吾輩の名はアリアンテ。その子を引き取りに来たものだ」

とアリアンテと名乗る男が答える。それに店主は

「こいつの親って事か?」

と聞く。しかし、アリアンテは話を聞かず、全ての過程を吹っ飛ばし

「あぁ、分かってる。ほれ」

と袋を店主に渡した。袋の中身を見るなり店主はニヤリと笑いどこかへ去っていった。そして、アリアンテは彼女に近づく

「お前が手紙に書いてた嬢ちゃんだな」

「…多分」

「よし、じゃあとりあえず」

と笑顔を向ける。そして、

「飯でも食いに行くか」

とアリアンテは彼女の手を取った。

彼女は今日、初めての体験をたくさんした。温かいご飯、お風呂、綺麗な服。そして、ゴミなんかよりも柔らかくふかふかのベット。

あっという間の一日だった。一瞬で過ぎ去る時を過ごした。

そんな中彼女は見た。楽しそうに過ごしている家族を。そして、漏れてしまった。たった一言

「お父さん」

とアリアンテの顔を見ながら呼んでしまった。彼女は間違いに気が付き直ぐに訂正しようとした。しかし、アリアンテは

「お父さんか。まぁ、実際もうお前の保護者みたいなもんだし。お前が呼びたいように呼べ」

と言ってくれた。彼は暖かかった。ふかふかのベットよりも温かいご飯よりもどんなものよりも。そして、彼女の目から涙が溢れた。いつもは体が痛くて泣いている彼女だったが今回は違う心が痛かった、苦しくはない痛みとても温かい。彼はそんな彼女を見て思い出したかのように言った。

「お前の名前をどうしようか」

アリアンテの元に届いた手紙にはルイの計画が全て書かれていた。そして、最後に名前を付けてあげてくれと。何故ならからだった。

「…お、お父さんが付けて」

お父さん呼びに慣れておらず少し恥ずかしがりながら彼女は言う

「そうだな…じゃあ、テュフォンにしよう」

「…テュフォン」

初めての名前、名前を呼ばれると心が温かくなった。

「この名前は昔、お前に似ている者からつけた。吾輩が尊敬し皆から愛されていた者。一目見てお前もそうなれると思って付けた」

アリアンテが尊敬していた者…彼はティフォンに語らなかったがこの名前はアリアンテの姉の名だった。

「さて、じゃあ。早速だがテュフォン。お前の加護について教えてやろう」

「えっ?」

テュフォンはずっと自分には加護が無いと教えられていた。しかし、真実は違う。ただ、加護を普通の方法で見れないだけで無能ではなかったのだ。加護が何故見れないのか原因は一つ

「お前はな、吾輩と同じ二つの加護を持ってるんだ」

調べる水晶が通常のものだったせいで出た弊害。しかし、特別製のものは違う。『時間操作』と『異空間移動』二つの加護が表示されていた。

この瞬間から新たなテュフォンの物語が始まり。それと同時に『時間操作』を使いアリアンテと永遠に同じ時間を過ごせる人間が生まれた瞬間であった。

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『不老不死』と『超回復』を持つ男は学園に行く ニガムシ @chirsann

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