末端商業作家のつぶやき

新巻へもん

第1話 商売としての作家業

 ども。

 新巻へもんです。


 ご存じの方は毎度どうも、そうでない方は初めまして。

 カクヨムには色々な目的で活動している方がいらっしゃると思います。中には書籍化を目指していらっしゃる方もいるでしょう。

 私は一応商業作品を1シリーズ3冊とちょっと出版させて頂いておりまして、その経験に基づくことを記していきたいと思います。

 なんだ、その「ちょっと」というのを疑問に思うかもしれません。これは8名による共著短編集があるのと、拙作を原作としたコミカライズがあるからです。どちらも著作者としての名前は出ませんが、お金は頂けています。


 近況ノート代わりに書き綴っている『チラ裏』エッセイに載せても良かったのですが、テーマが取っ散らかるので、本作にまとめて記載することにしました。

 まあ、出版関連は割と個別的な要素が強いですし、所変われば品変わる面もありますので、一例と思ってください。

 また、秘密保持条項を含んだ契約を結んでいますので、印税率はどれぐらいなのかとか、何冊発行されているのか、ぶっちゃけいくら儲かるのかという部分についてはお話しできないことを前もって申し上げておきます。


 それで初回の話題なのですが、商業出版での作家業を職業的な視点から見てみますね。

 まず収入面としてですが、雑誌に連載をもっているわけではないので、私の場合は本が発行されたときの印税がメインになります。

 印税というのは本の価格に対する割合で規定されるもので、仮に本が税抜き千円で印税が10パーセントだとすると、私の印税は100円になります。実際にはこれに消費税が加算され、本の冊数を乗じたものが支払われます。


 一方で支出面は、事実上ほぼゼロです。厳密にいえば電気代ぐらいはかかっているのですが、とりあえず無視してもいいレベル。

 こうやって見ると、商業出版での作家業は収入が丸々利益になる高収益事業と言っていいと思います。

 もちろん、印税以外の部分を出版社に取られて損だ、という考えもあるかもしれません。でも、そんなことはないんですね。

 同人作家として自費で出版する場合と比較すると分かりやすい。


 自作本は千円で売れれば、千円すべてが懐に入ってきます。

 でも、印刷製本費、頒布会への参加料、輸送費などのコストがかかります。表紙にイラストを描いてもらうならその費用も必要です。

 仮に500冊印刷したとしましょうか。ちなみにこれは頒布会に出たことのある方ならお分かりだと思いますが、無謀な数字です。


 仮に頒布会が午前10時から午後4時までの6時間開催だったとしましょう。1分に1人お客さんが来たとしても360冊しか売れません。これはかなり頻繁にお客さんが来ているケースです。

 それ以上のペースで売るとなると売り子のお手伝いを頼まないと無理でしょう。

 そうなるとそこにも費用が発生します。

 話を戻しますと、このケースで完売すれば総売り上げが50万円。結構な金額のような気がしますが、先ほどのコストがかかってきます。


 拙作の場合B6サイズの無線綴じ300ページの表紙カラーなので、印刷費が安く見積もって20万円、輸送費が4万円、頒布会参加費が1万円で、これだけで25万円になります。イラスト費用を出したら収支トントンラインでしょうね。

 現実には文字本はそんなに売れません。会場からの返送費が追加でかかる上に、在庫を抱えて家に段ボールの山ができます。

 自作の場合に必要な一切合切を出版社さんで面倒を見てくれることを考えれば、その分の売上が入ってこないことなんて安いものです。


 じゃあなんで出版社は個人じゃ無理なところを引き受けてくれるかと言えば、発行部数の規模が同人誌とは違うから。

 印刷部数を10倍の5千部にしても、コストは10倍にはなりません。特に印刷費はほとんど差がないです。その部分が出版社の利益になります。

 まあ、この辺は社会人をやっていないとなかなか見えてこないでしょう。

 もし学生のときにデビューしていたら損をした気分になったかも。

 そういう意味で私は仕事で印刷物の発注をしていたということが役にたったと言えますね。


 もしも本が完売したなら増刷され、その分の印税が入ってきます。当たればでかい稼ぎになる。

 通常商売をするには元手が必要になり、費用が収入を上回る危険がありますが、商業作品の作家業はそういったリスクなしで、稀にハイリターンの可能性がある。

 夢のような商売です。

 まあ、書籍化の声がかかれば、という条件を満たすのが大変なんですけどね。


 ただ、1点、書籍化の作業を始めてから現金が手に入るまでにすごく時間がかかります。次話ではこの辺りの話をしましょう。

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