第2話

「なんで、ここに入所?入院なの。」

 ユキユは心底、いや、不思議ではないか。

真冬の冷たい雨のなか、幽霊が出ると噂される木の下で気絶したように、その子は眠っていただけだった。

 むしろ、警察に連絡する前にしたユキユの行動の方が問題だと騒ぎになったが。

「綺雪さん子猫好きだから」

「なんでもとにかく温めようとかあったまろうとかするもんね」。年下の、中二病患者たちに言われる。

「私の名前を統一して。しなくても良いけど」

 中二病は二つ名が好きだ。だから特別な名前をつけたがる。なんだったらいくつも。

ユキユはキユキとも呼ばれている。面倒くさい。

「いいじゃない。綺麗な雪に、雪の中を行く子。あとは……」

「紅鶴(くかく)さん、本名は言わないでください」

 出る前に釘を刺す。紅鶴さんはここでは古株で長年中二病を患っている。人の心が読める。本人は、そう振る舞いたい。でも、ただ周りの若い子を手のひらで転がしているだけだ。

「いいじゃない、アリアさんのお気に入りなんだから」

涼しく笑って、男女どちらもくつろいで良いとされる談話室を去っていく。長身でカッコいい、ショートカットの女性が自室に戻っていく。

 この病棟、一人一人が部屋を与えられ、男女の病棟は性犯罪や不純異性交遊防止のため、別れている。古くもしっかり管理してくれる建物だ。施設みたいなもの、フリースクールでもあるような。作業療法もある。

 病院がいちばん正しい。というより病棟なのだから病院だ。

 そこに。

「なんで、警察に保護された子がここにくるのか」

「ここ!シェルターも兼ねてるって!」

さっきの若い子達が言う。名前は、後で思い出そう。みんな覚えやすいけれど。みんな全員中二病だし。

 とにかく、あの少年が、ここにくる。

「あの子も中二病だったのか」

それしか思い当たらないが、シェルター、保護。

虐待。そっちか。気を遣おう。

 ここでは誰がどう独り言を言おうが気にされない。

「またひとり増える」

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