百合×監禁「おはよう」鎖のある世界

トリスバリーヌオ

可哀想な女

第1話 監禁

 肌寒さに目を薄く開けた。


 体は今が朝だと示しているのに目の前は真っ暗だ。

 気持ち良い目覚めとは裏腹に、それは不気味なものであった。


 体を起こそうとする。

 だが、「カチャカチャ」と音が鳴るだけで徒労に終わった。


 右手と左手に繋がれた金属製の拘束具によって妨げられたのだ。

 ちょうど頭の上にある。


 思わず力を込めた。


 金属の音、布と布とが擦れる音のみが、空間に響いていた。


 手首にはめられているそれは、金属製で内側に柔らかい革のようなものがはめてあり、手首が痛むことはなかった。

 どうでもいい。


 急に力を入れたためか少し息が荒くなった。

 喉が渇いた、用を足したい。

 誰しも寝起きは喉が渇くし、尿意を催す。


 数分の間、その場で争っていると暗闇の先から木が軋む音と何か扉のようなものが開けられる音、声が聞こえてきた。


「あら、目が覚めたのね、体調はどうかしら?」


 聞き覚えのある声に鳥肌が立つ。


 高嶺咲たかねさき


「えぇ、まぁ」


 私がそう言うと彼女は安堵のため息をつく。


「よかったわ……貴方に色々と言いたいことがあるのだけれど、まずはこの部屋のことを説明しましょうか」


 彼女がそういった瞬間、パチッという音と共に部屋が明るくなった。


 とりあえず、今起こっていることを把握するために寝起きの重たい頭を動かす。

 それと同時に頭の中に出てきた疑問を適当に言葉にする。


「ねえ、これは何なの? ここは何処なの? 私に対してこんなことしていいわけ? こんなことがもし誰かににバレでもしたら咲の身が危ないんじゃないの? というか」


 彼女はため息をつきながら口を開いた。


「そんなにまくしたてなくてもいいじゃない、ここは私の部屋よ? というより私の家の寝室もわからないなんて、記憶喪失にでもなったのかしら」


 確かに、本棚、机、椅子、ベッド、扉、見渡してみると、おぼろげにここがこいつの部屋だと思い出した。


 ベットのそばにある窓、ベニヤ板かなんかで光が物理的に入ってこれないようにされている。


「あと質問があるなら1つずつ答えてあげるから落ち着いて頂戴。まず貴女の拘束だけど解いてあげれないわ、ごめんなさいね、そのことによって余計なストレスがたまるかもしれないけど、それに関しては、貴女に危害を加えるつもりはないと信じてもらう他無いわ」


 彼女はこちらに近づいてくる。

 そして私のすぐ前まで来るとしゃがみこみ顔を覗き込むように目線を合わせてきた。

 なんだよ。


「それにしても、本当に綺麗な顔してるわよね……」


 彼女は感心するように呟くと、人差し指で頬に触れてきた。


「ねぇ、ちょっと触ってもいいかしら?」

「そんなわけないでしょ、馬鹿なの? さっさとこれ外せよ」


 そう言うと、彼女はやさしく首に触れてくる。

 次の瞬間、爪を首に立ててひっかき首に傷をつける。


 痛い。


「……危害を加えるつもりがないって、嘘かよ」


 彼女はニヤリとした表情を浮かべ、そのまま私の唇を奪う。

 初めてのキスが無理やり奪われたことにショックを受けている私を尻目に、舌を入れてきた。


 気持ち悪い、吐き気がする。


 抵抗しようにも、手錠のせいでうまく身動きが取れない。

 せいぜい頭を押すぐらい。

 どうにかして距離を取ろうとするが、それはかなわない。

 ようやくキスが終わると彼女は口を離し、私の口に付着したものを服の袖で拭う。


「ふぅ、ごちそうさま」

「ふざけんな! いきなり何をすんだよ!」


 彼女は笑いながら答える。


「だって仕方ないでしょう? こうしないと貴方は話を聞いてくれないし、自分の立場をわかっていないと思ったから」


「それとこれとは話が別だろ! なんでこんなことされないといけないわけ?」


「それは私がしたいと思ったからよ」


「理由になってないし意味不明だわ、早く外して」


 私は声を荒げて彼女に訴える。

 だが彼女はそんな私の訴えを全く聞かず少しその場で背伸びをしながら「喉が渇いているんでしょう? さっきの口づけでわかったわ、今から水でも取ってくるからね」と言い残して部屋から出て行った。


 扉が閉まる音が聞こえた後、私は辺りを見回す。

 とりあえず何か拘束具を破壊できるものを探そうと、体を動かそうと試みるが、両手を拘束されているため上手く動けない。

 足を使ってどうにか立ち上がろうとするが、やはり拘束が邪魔だった。

 どうすればいいか考えていると、扉が開いた。


 そこにはペットボトルに入った水を2つ持った彼女が立っていた。


「そんな怖い顔しないでよ。せっかくの可愛いお顔が台無しだわ」


 彼女はクスッと笑うと持っていたペットボトルの片方を私に差し出した。


 私はそれを受け取る。


 蓋を開けようと四苦八苦していると彼女が蓋を開けてくれる。

 それに軽く「ありがと」と言い、ペットボトルに口をつける。

 コク、コクと音を鳴らして飲む。

 先ほどまで冷蔵庫に入っていたのかそれはとても冷たく寝起きの体にはちょうど良い刺激であり目が覚めてくる。


 そして、それを飲んでいる間私の中で彼女に対する怒りが沸き始めてきた。

 何故私はこんなことになっているのか、何故この女は2つここに水の入ったペットボトルを持ってきたのか、もうなんでもいいからこいつのことが憎たらしくてたまらなくなってきた。

 立場がどうこうだとか、どうでも良いからこの鬱憤を晴らしたいと思い、彼女に空のペットボトルを投げつける。

 それは彼女にあたり、「カラン」と言う音を立てながら重力に従い床へと落ちた。


「いい加減説明しろよ! 何が目的なんだ!」


 彼女は驚いたような表情を浮かべる。


「あらあら、そんなに怒らなくてもいいじゃない」


 彼女は投げつけられたペットボトルを拾うと投げ返してくる。

「カラン」と音を立てて壁に当たりベットへ転がった。


「まぁ、大方予想がついていると思うけど私が行なっていることは監禁よ」

「なんでだよ」

「貴女のことを愛してるからよ」

「お前の妄言に付き合ってる暇はないんだけど」

「あら、酷いことを言うのね、でもまぁ貴女にとってはそうなのかもしれないわね、今までの仕打ちを考えれば」

「何言ってんの?」


「関係ないとは言わせないよ、あなたが私に対して裏で嫌がらせをしているのは知っているから、そう、例えば、あなたの仲の良い友人に頼んで私が持ってきた教材をバラバラにして捨てるだとかね。」


「何言って」


 彼女に頬を叩かれた。


「他にもいろいろあるわよ、私が先生に頼まれて資料を取りに行っている間に鞄の中にゴミを入れさせてたり、私があなたに話しかけようとしたときに他の女子にわざと聞こえるように陰口叩かせたり、自分で手を染めないところが陰湿で幼稚だったわね」


 彼女の言葉に耳を傾けているうちに段々と体が少しだけ震え始める。

 恐怖心からだろうか、それともバレていたことからの焦りだろうか、多分両方だろう。

 彼女は私のそんな様子に気づいたのか気づいていないのか、いや、どうだっていいのだろう、話を続ける。


「それから、私のことをよく思っていない人たちに私の悪口を流させたりね、あの時は本当に辛かったわ、誰が味方かわからない中でたった一人で耐えるなんて、いじめを庇ってくれた人も結局あいつらの肩を持ったじゃない。そんなの時に寄り添ってくれた貴方は私にとって唯一の救いだったのよ。愛してしまうほどにね、でも違ったのよ、貴方は影で私を嘲笑っていたのよ」


 微笑を浮かべながら何か自分の飼っているペットについて語っている彼女を見て、冷や汗が出てきた。


「それに事の騒動は貴方が主犯だってね。そのことに気づいた後貴方と接している時、私はなんて可愛いんだろうと思ったわ、だってあんなに必死に自分の傷つけた相手を守ってそれが嘘だって、バレていないと思っているだなんて、ねぇ、私の気持ちがわかる? 好きな人に裏切られていた気持ち、だから私は決めたのよ、この子を私のものにしようって」


 そう言うと私の頬を撫でてくる。

 その手つきはとても優しく、慈しむようであった。

 だが私の体は震えている。


「大丈夫よ、何も怖くないわ、これからずっと一緒なんだもの」

「やめろ……」

「ふふふ、やっと素直になったみたいね、じゃあ早速」


 近づいてくる。

 私は逃げようとするが鎖のせいで逃げることができない。

 服に手をかけ脱がせようとしている。


「なあ、なんでもするから許してくれないか」


 抵抗も虚しく、あっさりと下着姿になってしまう。

 彼女は私の体をまじまじと見つめると満足したのか、先程の気色の悪い雰囲気から一転して「寒そうね」と明るい口調で話しながら近くにあるクーラーのスイッチを取り暖房を入れる。

 助かった。


「最近は冷えるからね、あーそうそう今更だけど朝ご飯とかどう? 嫌いな食べ物とかある? 食べたいものは?」


「………嫌いな物はアボカドだよ! 知ってるだろ!」


 今までのストレスを抹消しようと語気を強める。

 だが、彼女はそんなこと気にせず笑いながら言葉を発す。


「えぇ? そんなものが食べたいの!? えぇ! もちろんよ! ちゃんと用意してあるわ。本当!? やったー!」


 彼女は訳のわからないことを私の前で捨て吐きこの部屋から出て行った。

 30秒ほど時間が経つと扉が開き何かお皿を持ってこちらに近づいてきた。


「はい、これ」


 彼女は私に何かを渡す。

 それは皿に乗った生肉だった。


「なんでこんなもん持ってくんだよ!!」


 私は声を荒げる。

 その生の肉からは冷気が漂っており、ろくに解凍もされていない冷凍庫から取り出しただけの牛肉だということがわかる。


「さっき言ったじゃない、嫌いなものはアボカドだけだって、嘘はよくないわよ」

「ふざけんな! こんなもん食えるわけないだろ!!」

「なんでもしてくれるんじゃなかったっけ?」

 そう言いながら頬を叩いてくる。

「それとこれは別だ! こんなもの食べるくらいなら死んだほうがマシだ!」

「そう、じゃあいいわ。」



 彼女は私の寝ているベットに近寄りベットの脇に生肉を置き、上がってくる。


「なんのつもりだ」

「別に何もしないわよ、ただ一緒に寝るだけよ」


 彼女はそう言い、ベットに入り込んでくる。

 そして私を抱き寄せて来る。

 横向きにお互い向き合うように体制を変えさせられる。

 背中を撫でられる。


「離せよ」

「ダメ」

「何がしたいんだ」

「こうしてると落ち着くの」

「何言って」

「こうやって誰かと一緒にいるだけで安心できるの」

「……」

「私、寂しかったのよ、誰も味方がいなくて、でも貴女が私に話しかけてくれて嬉しかった、そして私に好意を抱いてくれて、私のために色々してくれて」

「……」

「でも貴女は私を裏切った、貴女は私を嘲笑っていたのよね、陰で私の悪口を言って、私に嫌がらせをして、私のことを馬鹿にして、貴方は酷い人、でも、いいわ、許してあげる、だって私には貴女しかいないから、貴女のことが大好きだから」

「……今お前がやっていることって飴と鞭ってやつか?」


 沈黙。


「ええ、そうよ、よくわかったわね。本当はもっと虐めてから優しくしようと思ったのだけれど貴方のことを思うと……中途半端になって、爪が甘かったみたいね、ごめんなさい、でも貴女が悪いのよ、あんなに愛していたのに裏切るから、でも大丈夫よ。もう二度と裏切らないように調教するから、一生離れられないようにしてあげる。それに私は貴女の全てが欲しいの、貴女に私以外がいるのは耐えられない……だから貴女に首輪をつけてあげようと思うの、きっと似合うわよ」


 彼女は何処からともなく首輪を取り出して私に見せつけてくる。


「いやいや、意味わかんないって、飛躍しすぎだし、さっきからずっと何言っているかわかんないし」

「そうかしら? でも貴女は今から私の物になるのよ、だからこれは当然のことじゃない?」

「いやいや、何言ってんの?」


「それにしても貴方……私好みのおっぱいね、可愛いわ」


「いや話逸らしてもダメだから、首輪つけようとしてくんなし」


 腕が拘束されているとは言え可動できる範囲はだいたい胸の少し下まであるので一応抵抗は出来ることに気がついた。


「はあ、全くしょうがないわね、この首輪は貴方が自分から『私を貴方のものにしてください』と言うまでお預けすることにするわ」

「……」

「ふぅ、多少の現状把握はできたかしら? これで一安心ね」



「それでこれからどうするつもりなんだ」

「とりあえずはここで少し休みましょう、時間は少しあるからね、ああ、そうだ。貴女にプレゼントがあるの」


 彼女は私に抱きつきながら、どこからか何かを取り出す。


「これはなに?」


 彼女が取り出したのはピンク色をした長方形の箱だった。


「開けてみて」


 彼女は私にその箱を開けるように指示をする。


「えぇ……」


 嫌だ、見たくない、絶対に良くないものだ。

 にっこりと笑い私がこの箱を開けない以外の選択肢を取らせないようにとしてくる。

 中には黒いベルトのようなものが入っていた。


「えっと、なにこれ」

「見ての通りよ」


 私はその箱の中から取り出してみる。


「なんだよこれ……」


 私はそれが何なのか気になりまじまじと観察する。


「あら、もしかしてこういうの好きなのかしら? 意外ね」

「ちげーよ! 普通に怖いわ!」

「怖くなんて無いわよ、ただの貞操帯だもの」

「えっ」

「だから、ただの貞操帯よ」

「えっ、どういうこと」

「つまり貴女は私の許可なく自慰行為が出来ないというわけ」

「???」

「つまり一人エッチ禁止よ」

「はぁ!? 何言ってんのお前! ふざけんな! こんなのつけるくらいなら死んだ方がマシだ! あと二度も言うな!」

「へぇ? いいのかな、それじゃあこれをつけずに死んじゃうけど」

「ぐっ」

 そう言い終わると彼女は私に馬乗りしてくる。

「さてと、そろそろご飯の時間よね、はい、召し上がれ」

 彼女は私の口元に生肉を持ってくる。


「いや無理だって」

「そう、なら仕方ないわね、私が食べさせてあげるわ」


 口元に押し付けてくる。


「おい、やめろ! もうわかったから、着けるから」

「ふふ、それでいいのよ」


 彼女は満足した様子で私の上から降りていく。


「はい、よく言えました」


 そして私に貞操帯を着け始める。


「ちょっ、自分でやるからいいって」

「ダメ、貴女に触らせるつもりは無いわ、私がつけさせたいのよ」


 私の下着を脱がして貞操体をつけ終わると彼女は満足げな顔をする。


「あと、そうそう、貴方の拘束といてあげるわ、それだと色々と不便でしょう?」


 彼女はポケットから鍵を取り出して拘束を解く。


「はい、終わったわよ」


 私は手首を少し回したりして、さすがに手首が痛まないようにされている拘束具でも変に暴れると少し痛むようだ、できれば革製のものにしてもらいたかった。


「もちろん私からは逃げられないわよ」


 彼女は嬉しそうな顔をしながら私を見つめてくる。


「……はいはい、わかったよ、好きにすればいいんじゃないですか」


 私は彼女に呆れながらそう言った。


「ええ、そうするわ、ふふ、これから楽しみだわ」

「はぁ……」


 私は大きなため息をつくことしかできなかった。


「ところでなんでこんなもん持ってたんだ」

「ああ、これね、実はずっと前から用意していたのよ」


 計画的にやったんだと伝えられる。


「汚すぎるな」

「大丈夫、ちゃんと貴方を毎日綺麗にしてあげるわ」

「そういうことじゃないんだけど……」

「じゃあ私はこれから大学での講義があるから朝ご飯とか用意したあと行くけど、退屈になったら適当に本棚漁っていいからね」

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