ラーメンを食べるだけ

トリスバリーヌオ

第1話

 一定のリズムに一定の客、一定の味に一定の雰囲気。

 惰性的と捉えればそれは悪いと言わざるを得ないかもしれないが、私にとってはそれはまさしく良いと言えるものであり、この3月の寒雲にとっても好かれるであろうものだ。


 一度麺をすれば目の前が真っ白になってしまう。

 いつもならば美しい世界を私に届けてくれるこのレンズは今はただ快楽によって真っ白に染まっているだけであった。


 それを外してカバンの中へ放り込み、あぁ、もちろん眼鏡ケースに入れるが、続きを堪能する。


「鹿島さん、食べるときにそんなぶつぶつ呟いてたら、言い方は悪いんですがキモいですよ」


 後輩の彼は私に対してそんなことを言っているが、私にとってはこの行動を止めるに至る理由には何らなりえない。

 彼も私のように話してみればいいものの、まるでパズルの世界のようにぴったりと周りに合わせようとしている。

 だが言われてみればそうであり、周りへの配慮が足りていなかったと思う。


 すまない後輩くん、それでも私はこの行為を止めるには…いや、止めることは不可能だ。


「まあ、別にどうでもいいですけど、もう少しだけ声小さくしてくださいね、キモい女連れてるとか言われたら嫌ですから」


 私へのきもいだとかなんだとか言うのは全然平気なのだが、多少のいたわりと言うものを、先輩への敬意と言うものをしっかりと体に刻み込んでいて欲しかったなと今しみじみと思う。


 こうやって「まるまるのような」だとか「しみじみと」だとかの比喩を使っていると「バールのような物」について思い出してしまう。

 あれは傑作だった、ものの20分程度の時間だったがあれを考えたあの人には敬意を覚えざるを得ない。

 後輩くんも私を見習って欲しいものだ。

 すばらしい芸術的なものには敬意を払うべきだとね。


「はあ、なんか、その話し方が芸術だとでも思ってるんすか?」


 なんだね君は、そもそも現実と言うものは、なんていうか、そう、自由なんだ、つまりだな、その、ああ!もう面倒臭い!とにかく私が芸術だと思ったら芸術であり、私が白と言ったらしいので私が黒と言ったら黒なんだ!


 君はあれかね?

 鼻をほじったティッシュをゴミ箱に捨てず部屋に散らかすタイプの人だね。

 全く生活感のなさが垣間見えるよ後輩くんの言動には。


 後輩くんは「その喧々囂々たる様は誰しもを魅了し美しくもあり姦しくもある」という言葉を知っているかな?


「なんすか、そのクソみたいな文は」


 くそみたいとは言ってくれるじゃないか、今私が考え出したものであり、後輩君のその言葉は私に対しての侮辱と捉えることもできるのだが、とりあえずならそれは置いといて、とても現実的だと私は思うのだこれは。


「現実的?どういうことですか?」


 うんよくぞ聞いてくれた。

 つまりだな。


 まあ、色々とはしょっていうとだな。


「はい」


 私はラーメンを食べながら器用に話せるということだ。

 そんだけ。

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