第34話 試験勉強

 精霊運動会の次の行事は中間考査だ。

 授業に集中する生徒が増えた。

 精霊運動会でのマイナス50ポイントを取り戻すべく、来月の中間考査に向けて、休み時間も勉強する。


 イザベラは復活した。長い紫の髪を肩までバッサリ切ってきたのには驚いたが、アライグマ精霊の強化に必要らしい。内心ではまだ落ち込んでいるだろうけど、そんな様子をみじんも見せずに、勉強でみんなにマウントを取っている。さすが、イザベラ。少し尊敬する。


 ブルレッドさんもスノウさんも、何もなかったように行動しているので、私もいつも通りあまりかかわらないように、1人で真ん前の席に座って過ごす。サークルは試験が終わるまで自由参加だそうだ。授業を真剣に聞いて、休み時間には次の授業の準備をして、1人でランチを食べて、また授業。そして、寮に帰る。


 なんで、こんなに勉強しているのかって? 中間考査で赤点を取ったら、休暇中に補習を受けなきゃいけないからだ。補習会場はリヴァンデール同盟軍。

 なんで、軍隊で補習なんだよ。

 どんな補習授業をするのか、怖くて知りたくない。


 2年のテストは、この世界の子供の教育課程から出題されるので範囲が広い。歴史上の偉人の名前や三大山脈に七大河川、主要7か国の同盟国の名前に、各地の気候と主な産業。それと、異世界生物の基礎知識。覚えることが多すぎる。


 私が勉強に明け暮れる中、シャルは、


「これはどう? おいしい?」


 毎晩、お菓子持参で訪問するようになった。

 この前、紹介された側近2人に、人間界のお菓子屋さんを巡らせているそうだ。

 なんだか、私、すごく甘やかされてる。

 あの日、追い返して、ちょっと悪かったって思ってるんだけど。


「はい、口開けて」


 シャルは金色の目をキラキラさせながら、金粉のついたゼリーをスプーンですくって、口の前に差し出してくる。


 ……無理。

 恥ずかしいから、そんなことできない。


 首を振って、自分でスプーンを取ろうとしたんだけど、

 軽く避けられて、唇に冷たいスプーンをちょんと押し当てられた。


 もう……。

 仕方ないから、口を開ける。


「おいしい?」


 にっこり。私の目を見つめて微笑まれると、甘いゼリーがもっと甘く感じられる。

 私が飲み込んだのを見て、満足そうに笑って、おかわりは? と、また食べさせようとする。


 うっ……恥ずかしすぎる。


 仕返しに、私も手元のクッキーをひとつ手にとって、シャルの完璧な口許に持っていった。


 シャルは金色の瞳を大きく見開いたあと、とろけるような笑顔を見せて、口を開いて、クッキーをパクリと食べた。

 私の指ごと!


 ひいぃ。


 甘噛みされた!



 おやつの後は、シャルはソファーで勉強する私の髪をブラッシングしている。私の長くて細い黒髪はすぐにもつれてしまうけれど、何が楽しいのか、シャルはゆっくり、時間をかけて、ブラシで髪をとく。……ああ、勉強に集中できない。


 シャルは何も言わずに、ただ、私の髪にブラシをかけて、私も何も言わずに勉強に集中しているふりをする。ペンの音とブラシをかける音だけが響いてる。お互いに何も言わずに。


 いつまで、この時間が続くのか分からないけど、聞きたいことを聞かないでいるのは、この関係が壊れるのが怖いから?

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